35 / 108
第三条:依頼内容と逸脱する仕事はしない。
/5
しおりを挟む
「酷いザマだね、ウォードッグ」
去って行くハリーたちを見送った後、旧校舎の傍に戻ったクララが見つけたのは、飛び散るガラス片と共に地面へうつ伏せに横たわるウォードッグの巨体だった。
ジャケットの背中に物凄い数の風穴を開けながら横たわるウォードッグの無様な姿を見下ろしながらクララは言って、その後で軽く上を見上げる。旧校舎の三階に窓が割れている箇所があるから、ウォードッグはそこから落ちたのだろう。下が丁度柔らかい土の敷かれた花壇になっていたのは幸運だったが、それにしてもこの高さから落ちてまだ息があるらしいウォードッグのタフさには驚嘆させられる。
「あァ……全くだ」
クララに呼びかけられれば、どうやら既に意識を取り戻していたらしいウォードッグはのそり、と重々しい動きで起き上がり。そしてボロボロの革ジャケットとTシャツを一旦脱ぐと、その下から分厚い防弾プレート・キャリアを取り出し。そしてそれをクララの方に見せつけながらこう言った。
「これが無けりゃァ、流石の俺もお陀仏だったぜ」
そう言うウォードッグが片腕で掲げるプレート・キャリアの背中側には、物凄い数のライフル弾頭が確かに突き刺さっていた。この量から察するに、きっと弾倉一つ分を丸ごと叩き込まれたのだろう。そんな量を喰らえば幾ら防弾プレート・キャリアを着けていても、例え貫通しなかったとしてもひとたまりも無いはずだ。
「噂以上にタフな男だよ、君って奴は」
しかし、ウォードッグは見ての通りピンピンしている。そんな彼のタフさを見せつけられれば流石のクララも舌を巻き、呆れたような、称えるような微妙な色の言葉でウォードッグに言ってやる。
「で、動けるかな?」
「あたぼうよ」Tシャツと革ジャケットを着直しながら、ウォードッグがクララの問いに力強く頷いた。
「なら、追おうか。彼女も、そして彼女の護衛も。まだまだ遠くへは行けないはずだ」
そんな回答を聞いたクララが続けて言えば、ウォードッグが隣で立ち上がりながら「逃げたのかァ?」と逆に問うてくる。それにクララは「うん」と肯定して、
「多分、君にこっぴどい仕打ちをした相手と同一人物の筈だ」
「だろうなァ……」
気を失う前のことを思い出しながら、ウォードッグが苦々しい顔で唸る。
実は、吹き飛ばされながらもウォードッグは一瞬だけ、奴の姿を見ていた。よくは覚えていないが、高そうなイタリアン・スーツを着たオールバック・ヘアの男だったはずだ。自分ほど背は高くないが、しかし175センチぐらいはあったはずだ。あの氷のように冷え切った眼の色だけは、よく覚えている。
「何者なんだろうなァ、あの男」
そういえば、あの男の眼の色はクララとよく似ているな、なんて風にウォードッグは思いつつ、ボリボリと後頭部を掻きながら呟いた。
すると、その横でクララはフッと笑う。小さく肩を竦めながら笑った小さな彼女は、ウォードッグの方を見上げないままで、彼の方に顔を向けないままで、こう言った。
「――――ハリー・ムラサメ、嘗て伝説だった男だよ」
何処か、遠い昔を懐かしむようにセンチメンタルな横顔で。
去って行くハリーたちを見送った後、旧校舎の傍に戻ったクララが見つけたのは、飛び散るガラス片と共に地面へうつ伏せに横たわるウォードッグの巨体だった。
ジャケットの背中に物凄い数の風穴を開けながら横たわるウォードッグの無様な姿を見下ろしながらクララは言って、その後で軽く上を見上げる。旧校舎の三階に窓が割れている箇所があるから、ウォードッグはそこから落ちたのだろう。下が丁度柔らかい土の敷かれた花壇になっていたのは幸運だったが、それにしてもこの高さから落ちてまだ息があるらしいウォードッグのタフさには驚嘆させられる。
「あァ……全くだ」
クララに呼びかけられれば、どうやら既に意識を取り戻していたらしいウォードッグはのそり、と重々しい動きで起き上がり。そしてボロボロの革ジャケットとTシャツを一旦脱ぐと、その下から分厚い防弾プレート・キャリアを取り出し。そしてそれをクララの方に見せつけながらこう言った。
「これが無けりゃァ、流石の俺もお陀仏だったぜ」
そう言うウォードッグが片腕で掲げるプレート・キャリアの背中側には、物凄い数のライフル弾頭が確かに突き刺さっていた。この量から察するに、きっと弾倉一つ分を丸ごと叩き込まれたのだろう。そんな量を喰らえば幾ら防弾プレート・キャリアを着けていても、例え貫通しなかったとしてもひとたまりも無いはずだ。
「噂以上にタフな男だよ、君って奴は」
しかし、ウォードッグは見ての通りピンピンしている。そんな彼のタフさを見せつけられれば流石のクララも舌を巻き、呆れたような、称えるような微妙な色の言葉でウォードッグに言ってやる。
「で、動けるかな?」
「あたぼうよ」Tシャツと革ジャケットを着直しながら、ウォードッグがクララの問いに力強く頷いた。
「なら、追おうか。彼女も、そして彼女の護衛も。まだまだ遠くへは行けないはずだ」
そんな回答を聞いたクララが続けて言えば、ウォードッグが隣で立ち上がりながら「逃げたのかァ?」と逆に問うてくる。それにクララは「うん」と肯定して、
「多分、君にこっぴどい仕打ちをした相手と同一人物の筈だ」
「だろうなァ……」
気を失う前のことを思い出しながら、ウォードッグが苦々しい顔で唸る。
実は、吹き飛ばされながらもウォードッグは一瞬だけ、奴の姿を見ていた。よくは覚えていないが、高そうなイタリアン・スーツを着たオールバック・ヘアの男だったはずだ。自分ほど背は高くないが、しかし175センチぐらいはあったはずだ。あの氷のように冷え切った眼の色だけは、よく覚えている。
「何者なんだろうなァ、あの男」
そういえば、あの男の眼の色はクララとよく似ているな、なんて風にウォードッグは思いつつ、ボリボリと後頭部を掻きながら呟いた。
すると、その横でクララはフッと笑う。小さく肩を竦めながら笑った小さな彼女は、ウォードッグの方を見上げないままで、彼の方に顔を向けないままで、こう言った。
「――――ハリー・ムラサメ、嘗て伝説だった男だよ」
何処か、遠い昔を懐かしむようにセンチメンタルな横顔で。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる