SIX RULES

黒陽 光

文字の大きさ
51 / 108
第四条:深追いはしない。

/12

しおりを挟む
 吹き荒れる爆炎の嵐と、豪雨のように降り注ぐ大小細かな瓦礫と破片。五発のグレネード弾に焼かれボロボロになった事務所の中、生存は絶望的と思われた空間の中で――――しかし、ハリー・ムラサメも園崎和葉も、未だ生きていた。
「ああ、クソッ……!」
 毒づきながら、瓦礫が山盛りになった背中を気合いで起こし、盾になるみたく和葉に覆い被さった格好からハリーが起き上がる。
「げほっ、げほっ……! ああもう、何がどうなってるの……!?」
 すると、和葉も咳き込みつつ起き上がり、混乱する頭を落ち着かせようとそんな言葉を呟いた。
「敵だ……!」
「敵!?」
 そうしている内に、今度は外からウォードッグの機関銃斉射が飛び込んで来る。
「危ねぇっ!!」
 と、咄嗟にハリーはまた和葉に上から覆い被さって彼女を庇う。
「ちょっ、何なのよこれぇぇぇっ!!??」
「敵だ、敵の襲撃だ!」
「もう嫌ぁぁっ!!」
 叫ぶ和葉と、それを庇うハリー。そうしながら、ハリーは混乱に頭を支配された和葉を何とか庇いながらでじりじりと彼女を連れて窓際から遠ざかろうとする。
 窓ガラスはおろか、事務所の壁すら容易に突き破って室内に殺到してくる機関銃の掃射、恐らくは7.62mmクラスの大口径弾薬だとハリーは推測した。また彼は知らぬことであったが、実際にウォードッグが外から事務所に向けて撃ちまくっているのはイスラエル製のネゲヴNG7-SF軽機関銃で、事実使う弾薬も7.62mm×51NATOの大口径だった。
「畜生、建て替えるときは壁に鉄板入れなくちゃあな……」
「呑気なこと言ってる場合じゃないでしょぉっ!?」
 思わず呟くハリーと、それに至極真っ当なツッコミを叫び返す和葉。口先でこそそんな調子だったが、二人とも余裕なんてまるで持ち合わせちゃいなかった。
「ああ、クソッタレめ! 俺の事務所を滅茶苦茶にしやがってこの野郎ッ!!」
 お気に入りの椅子とデスクが木っ端みじんに吹っ飛び、テレビは砕けて倒れ。壁は割れるわ天井から蛍光灯の破片は降ってくるわ、加速度的にボロボロになっていく事務所の中、しかしハリーは這い進みながら必死に和葉を此処から逃がそうとする。
「どうすんのよハリー!? こんなの、逃げ場なんて……!」
 焦る和葉に「逃げ場!? あるに決まってる!」とハリーは叫び返し、
「ガレージへの緊急用の直通シュートがある、そこを通るんだ!」
「こんなこともあろうかと、ってコトね……。全く、用意がいいこと!」
「余計なコト言ってる場合か! ――――ほら、行くぞっ!」
「ああもう、どうにでもなってよぉっ!!」
 和葉を庇いながら、必死にハリーは壁際に寄って。そして蓋をされていた壁の一部、その金属製のハッチを跳ね上げればダストシュートのようなスロープが顔を出す。先に和葉に通らせてから、ハリーもまたそこに飛び込んだ。
「きゃぁぁぁぁっ!?!?」
 悲鳴と共に滑り降りる和葉と、その後から無言で続くハリー。二人が辿り着いたのは、一階部分のガレージだった。
「乗れ!」
 そこで息を潜めていたインプレッサの助手席に和葉を乗せ、自分もコクピット・シートに滑り込む。
 ステアリング・コラム部分の鍵穴にキーをブチ込み、前方に捻ってイグニッション始動。キュルッと回るセル・モーターの軽快な音と共にエア・スクープ付きボンネットの下で排気量2.2リッターのフルチューン済みEJ20改・四気筒ボクサー・エンジンが雄叫びを上げながら眼を覚ました。
「シートベルトを!」
「わ、分かった……!」
 此処からは、派手な走りになる。そう思いサイドシートの和葉にシートベルトをさせながら、ハリーはエンジンが暖まるのを待たずしてサイドブレーキを下ろした。暖気を待っている余裕なんて、今は何処にもアリはしない。
「飛ばすぞ、覚悟は!?」
「で、出来てる!」
「よし、掴まってろよ……!」
 追跡されないよう回転機構を作動し、前後のナンバープレートを別の偽装品へと入れ替える。そうしてからハリーは左手を電光石火のように走らせ、左足でクラッチ・ペダルを踏んでクラッチ板を切りながらギアを一速へ叩き込む。
 クラッチ・ペダルを戻し、解放されていたクラッチ板を元に戻せば、エンジンのクランク・シャフトとトランスミッションのインプット・シャフトとが結合され、強烈なパワーとトルクが四輪全てへと伝達され始める。
「行くぞ、舌噛むなよ和葉ッ!」
「えっちょっ、どうする気よっ!?」
 困惑する和葉を意図的に無視しつつ、そのままハリーは一切合切の迷いを棄て、右足でアクセル・ペダルを踏み込んだ。
「ちょっ、前! 前! きゃぁぁぁぁっ!?!?」
 和葉の悲鳴と共に、締まりっぱなしのシャッターが目の前に迫ってくる。だが、ハリーは迷うこと無く更にスロットルを開いた。
「ぶつかるぅぅぅっ!!?!?」
 当然、インプレッサのノーズとシャッターとが激しく激突した。だが強烈な防弾加工が施された強靱な黒いボディはそのまま無傷でシャッターを突き破り、外界へと飛び出していく。
 ウォードッグを轢き殺したいところだったが、咄嗟に棄てたネゲヴ軽機関銃こそ踏み潰せたものの、寸前の所で軽快な横っ飛びのステップでウォードッグ自身は回避してしまった。そのままインプレッサは全速力で走り、停まっていたアウディ・S4を避けつつ、ハリーは事務所からの逃走を図る。
「ちょっ、追ってきてる!」
「分かってる、そんなこと! それより飛ばすぞ、掴まってろ!」
「……で、これから先は!?」
「とりあえず、逃げてから考えるさ……!」
 すぐさま乗り込んだウォードッグを回収した銀色のアウディ・S4が追ってくる景色をバック・ミラー越しに眺めつつ、ハリーは額に流れる冷たい汗を拭う間も無くインプレッサをフルスロットルで走らせる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...