SIX RULES

黒陽 光

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第四条:深追いはしない。

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 しかし、その銃声はただ虚しく空を切るだけだった。
「なっ!?」
 眼を見開くクララと、そして驚くハリーの視線の先。そこで文字通り壁を突き破るようにして、教会の中へ巨大な黒い鉄塊が飛び込んで来たのだ。
 いや、鉄塊というのは少し違うか。飛び込んで来たのは巨大な軍用車めいた超大型の四輪駆動車だった。真っ黒いボディをしたソイツはゼネラル・モーターズのハマーH1。後年のH2なんかみたいな似非モデルとは異なる、正真正銘・米軍の高機動車両ハンヴィーをほぼそのまま民生品にしたモンスター・マシーンだ。
 クララの狙いが直前で逸れたのは、そのハマーが教会の壁を突き破って突っ込んできたことに驚いたからだった。ハリーの頭のすぐ近くの床に弾痕が穿たれている辺り彼女の狙いは正確だったが、しかし突然ハマーが教会に突っ込んでくるだなんて、流石のクララとて予想だにしていないことだったらしい。
「なんてド派手なご登場だい……!?」
 猛然とした勢いで一直線に突っ込んでくる巨大な鉄塊じみたハマーを目の前にして、クララは毒づきながらもその場から大きく退かざるを得なくなる。
 しかし、尚もハマーはハリーへと迫ってくる。ベンチを薙ぎ倒し踏み砕き、そしてギャアアッと派手にタイヤを鳴らして横滑りしながらくるりと一八〇度ターン。飛び込んで来た壁の大穴に鼻先を向ける形になったハマーは、ハリーの鼻先数メートルもない距離にピタリと横付けして停まった。
「乗るんだ、ハリー!」
 すると、その左側にある運転席側の窓が開いたかと思えば聞き慣れた声が耳に届き、ハリーがそちらの方を見上げると、視界に映ったのはあまりに意外な人物の姿だった。
「ミリィ・レイス……!?」
 そのハマーの運転席から身を乗り出し、高い位置からハリーを見下ろし叫んでいたのは、意外にもあのミリィ・レイスだったのだ。
「どうして、君が此処に!?」
「事情は後だ!」更にハマーの窓から身を乗り出し、短い茜色の髪を振りつつ車内から取り出した、STIタクティカルDS2011自動拳銃――コルト・M1911ガヴァメントの社外高級品――を牽制がてらに撃ちまくりながらでミリィが叫び返す。
「いいから、早く乗り込むんだ!」
 ミリィの剣幕に押され、ハリーは痛む満身創痍の身体に鞭打ち、這うような格好でハマーへと寄りかかる。やたらと車高の高いハマーによじ登るのは難儀したが、そこは気合いで何とか後部座席側のドアノブを掴む。
「っ! 流石はクララだ、全然当たらない……!」
 そんな風にハリーが乗り込む隙を、ミリィがハマーの窓に箱乗りするみたいな格好になりながらタクティカルDSを撃ちまくり牽制することで時間を稼ぐ。
「久し振りだね、ミリィ・レイス!」
 ミリィの放つ大量の.45ACP弾を縦横無尽に駆け巡ることで避けながら、昔懐かしい彼女の顔を遠目に見たクララが叫んだ。
「君を敵に回すことになるだなんて、僕らは災難過ぎるかな!?」
 ダンダンダン、と一定間隔で、細く華奢な腕ながら.45ACPの強烈な反動を物ともせずにミリィが撃ちまくる。タクティカルDSを含む2011シリーズは通常の1911と違い、ダブルカーラムの弾倉を使うハイキャパシティ・フレーム。タクティカルDS用の物は長さ140ミリ寸法で.45ACP弾が十三発収まり、つまり通常の1911の一・五倍近い容量なのだ。
 だから、ミリィは再装填を挟まずに継続して撃ちまくることが出来ている。回避しながらでクララもそれに負けじとベレッタ・ピューマを何発か発砲するが、
「っ!」
 彼女の撃ち放った9mmショート弾は、ハマーのボディはおろか窓にですら弾かれてしまう。
「防弾仕様、それもかなり固い。これはちょっと辛いね……!」
 その一瞬でハマーが防弾仕様であることを見抜いたクララは、途端にバックステップを挟み始めて距離を取り始める。今の装備では対処不可能と判断したのだろう。流石だとミリィは思った。一流の殺し屋は、退き際ですらも鮮やかだ。
「ハリー、乗ったね!?」
 ハマーの後部座席に何とかハリーが這い登ってきたのを確認したミリィは箱乗りの格好から身を引っ込め、丁度弾の切れたタクティカルDSの弾倉を新しい物と入れ替えた後に上着の下、左脇に吊したショルダー・ホルスターにソイツを収めると、窓を閉じながら一気にハマーのオートマチック・ギアをドライヴへと叩き込む。
「ど、どうする気だ……!?」
「一気に此処を突っ切る!!」
 彼女がそう力強く頷いた途端、華奢な右足がアクセル・ペダルを底まで踏み込む。怪獣のような恐ろしいぐらいの雄叫びを上げる、排気量5.7リッターのV8ガソリンエンジンから生み出される暴力的なパワーとトルクを伝えられた四本のタイヤが教会の床を力強く蹴り飛ばし、黒一色の巨体が隕石みたいな勢いで再び壁に向かって突っ込んだ。
 教会の壁は容易く突き破られ、何度か飛び跳ねた後にハマーが着地する。教会の周りに居た他の傭兵たちの迎撃も物ともせずに強固な装甲で弾き、何人かをその巨体で跳ね飛ばし、轢き殺しながら、爆散したインプレッサの残骸の横をすり抜けるようにしてミリィのハマーは急速にその場を離脱していった。
「…………ふぅ、流石にアレは僕も予想外だったかな」
 ハマーの後ろ姿を見送っていたクララが、小さく肩を竦める。まさか救援が、しかもあんなダイナミックすぎる突入の仕方で飛び込んで来るとは、流石に天下のクララ・ムラサメといえども予想だにしていないことだったのだ。
 まるで一昔前のB級アクション映画だ、なんて思いつつ、クララは小さく息をつきながら愛銃ベレッタ・ピューマをホルスターに収める。そして遠ざかっていくハマーの後ろ姿を遠くに眺めながら、クララは独り言のように呟いていた。
「持つべきモノはなんとやら……。土壇場のこのタイミングで助けに来るだなんて、君は良い友達を持ったね、ハリー」
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