SIX RULES

黒陽 光

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第五条:仕事対象に深入りはしない。

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「……ハロー、和葉。初めましてかな?」
 ユーリ・ヴァレンタインとジェーン・ブラントが出て行った後、残された監視役の一人――――クララ・ムラサメは壁により掛かる、左眼に血の滲む包帯を巻いたもう一人の男を尻目に、恐る恐るといった風に和葉に向かって話しかけていた。
「貴方が、クララなの?」
「知ってるの?」見ず知らずの和葉の口から自分の名前が出てきたことに、驚くクララ。
「って、ハリーから聞いてたのか。学園でもチラッと逢ったしね」
「……なんで」
「ん?」
「なんでハリーの師匠だったはずの貴女が、あんな奴らに味方なんかしてるの?」
 問うてくる和葉の語気は、まるで懇願するかのような色をしていた。小さな体躯のクララを見上げながら、藁にも縋る思いのように。
「簡単な原理原則さ」と、クララ。「僕らはフリーランスの拳銃稼業。雇われる理由としたら、金以外にないよ」
「そんな、お金だけの為に人を殺すっていうのっ!?」
「そうだよ? 僕だけじゃない、そこに居る彼だって、そしてハリーだってそうさ。……違うかい?」
「違うっ!」
 てっきり口ごもるかと思っていたところに力強く断言されてしまったものだから、逆にクララの方が驚いてしまった。
「ハリーは違う、無関係な人間を殺したりはしないわっ!!」
 学園でのことか、とクララは涙ぐむ和葉の顔を見下ろしながら、何だか腑に落ちてしまう。
(そこを突かれると、痛いなあ)
 実のところ、あの仕事はクララにとっても嫌で嫌で仕方のない一件だった。事実、クララは学園の人間を一人として手に掛けていないどころか、隙を見て逃がしたり隠れさせたりしていた。クララ自身は顔も名前も知らぬが、和葉の親友・桐谷朱音が良い例だ。彼女もまた、クララに見逃して貰わなければ、ウォードッグに撲殺されていたかもしれない一人だ。
(でも、それを言ったところで彼女は信じちゃくれないだろうね)
 当然だ、とクララは内心で結論付ける。そんなことを言ったところで、所詮自分があの一件の片棒を担いでいるコトには変わりない。ここで否定するのはある意味で筋違いだと感じ、クララは敢えてそのことを彼女に言わなかった。
「…………でも、事実としてそうなんだ。哀しいけれど、これが僕ら拳銃稼業の現実なのさ」
 溜息とともにクララはそう答えて、ゴシック・ロリータじみたワンピース・スタイルの黒を基調とした服のポケットから、マールボロ・ライトの煙草を取り出して咥えた。カチンと小気味の良い音を鳴らしてジッポーを開き、先端に火を点ける。あの氷鉄のようなクールな横顔さえ除けば少女のようにしか見えない風貌と小柄な体格、そしてゴスロリめいた格好も相まって、クララが煙草を吹かす姿はある意味で犯罪的だった。
「こんなことに協力して、どうするつもりなの」
 あの事務所で散々嗅いだ、何処か懐かしくも思えるマールボロ・ライトから漂う紫煙の香りに鼻腔をくすぐられつつ、しかし敵意剥き出しの視線で見上げながら和葉がクララに問う。
「……正直、僕だっていい加減嫌気が差してきてるさ」
 そんな彼女のすぐ傍で煙草を吹かしながら、疲れたような横顔を和葉に見せつつ、クララが呟くように言った。
「この間、君の学園での一件といい、それに今の"ワルキューレ計画"の件といい。正直言って、僕もユーリ・ヴァレンタインのやり方には着いていけなくなって来てる。間違いなく、あの男は越えちゃいけないラインを越える気だ」
「じゃあ……!」
「でも、僕は曲がりなりにもプロフェッショナルだ、殺しのね。出来ることなら、クライアントを裏切って寝返るような真似は、あまりしたくない……」
 ――――けれど、ユーリ・ヴァレンタインのやり方にも、納得は出来ない。
 最後の一言は言葉として口に出さないままで、クララはそれきりで和葉を監禁する部屋を出て行ってしまった。そして左眼を包帯に覆われたもう一人の監視役の男も、自ずとクララの背中を追いかけ部屋を出て行く。
「……ハリー」
 広すぎる部屋に独り残された和葉は、ポツリと独り言を呟いていた。助けを求めるように、彼の名を呼んで。
「やっぱり、貴方が居てくれないと。……私一人じゃ、心細すぎるよ」
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