SIX RULES

黒陽 光

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第五条:仕事対象に深入りはしない。

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 ――――その頃、ミリィ・レイスの隠れ家では。
「…………」
 ミリィが用意したという装備がズラリとデスクの上に並ぶ中、ハリーは彼女を傍らに置きながら独り次の戦いへの準備を始めようとしていた。
「ハリー、これを」
 そうした矢先、ミリィがビニールに包まれた何かを手渡してくる。黒を基調としたスーツ一式だった。
「これは?」受け取りながら、ハリーが問う。
「見た目はアルマーニの高級スーツ、中身は炭化ケイ素のセラミック・ディスクとケブラー繊維をベースにした特殊防弾仕様のライニングだ。イタリアン・スタイルでボタンは二つ、ズボンはテーパード。格好も、君のお気に召すような奴をチョイスしてある」
「どのぐらいまで防げる?」
「5.56mmのライフル弾、フルメタル・ジャケット弾頭までなら完璧に。尤も、7.62mmクラスになると保証は出来ないけれどね」
「つまり?」
「大抵の弾は通さないけど……激痛だ」
「上等」
 ハリーはニッと不敵な笑みで頷きながらビニールの包装を破き、その特殊防弾仕様のスーツとやらを身に纏っていく。まるでオーダーメイドした品のように身体にピッタリとフィットしていた。
「拳銃は?」
「これを。グロック34の、TTIコンバット・マスター・パッケージ」
 スッとミリィが手渡してきたのは、オーストリア製のグロック34自動拳銃だった。しかも、それのTTI(ターラン・タクティカル・イノヴェーションズ)社のカスタム品だ。肉抜きされたスライドから覗く金色の銃身が美しい。
 グロック・シリーズは優秀な拳銃で、ハリーも世界最高の自動拳銃の一つと評価する代物だ。それのカスタム品とあっては、随分と良いモノを用意したなと思わずミリィに感心してしまう。競技用でスライドと銃身の長いグロック34だから普段使いには厄介だが、精度はかなり良いからこういった殴り込みには最適だ。
「しかし、こんなモノ何処から引っ張ってきた?」
「僕の趣味、コレクションさ」ニッと笑いながら、ミリィが答える。「だから、必ず返してくれよ?」
「分かってる」
 弾倉を突っ込んだグロックを右腰のホルスターに収め、次に予備のバックアップとして受け取ったのはやはりグロック26だった。サブ・コンパクトと分離される、かなり小柄な代物で、同じ9mmパラベラムなので弾倉も34と共用できる。こちらはカスタム品ではなく、純正そのままだった。左の後ろ腰に仕込んだバックサイド・ホルスターに差して携行する。
「ライフルは……シグ・ザウエルか」
「AR-15、世界で最も頼れるライフルだ」
 主装備として用意されていたライフルは、シグ・ザウエル社製のSIG-516自動ライフルだ。広義的にAR-15(M16)に分類される品で、銃身は14.5インチ寸法。照準器はエイムポイント社のマイクロT-2ドット・サイトが乗っていて、前方ハンドガード下部レイルには扱いやすいように短いグリップが着いている。弾倉もマグプル社製の軽い樹脂の物だ。予備弾倉は左腰の前側にある弾倉ポーチに収める。
「こっちのベネリも、TTIのカスタマイズか?」
「そうだね。近接戦が多くなると思って、用意しておいた。かなり戦いやすいはずだ」
 と、次の武器は教会でも使ったベネリM4自動ショットガン。しかし今回は固定銃床モデルで、グロック34と同じくTTIの手によってカスタマイズされた品だった。金色に眩しいボルトキャリアの前方、排薬口の前にはショットシェルを一発だけ挟める、マッチセイバー社製の単発シェルホルダーが取り付けられている。3ガンマッチ競技でよく使われる奴だ。ベネリM4は背中に背負い、予備のショットシェルはシェルホルダーが両側に着いたベルトを腹に巻いて持ち運ぶ。
「で、ナイフか」
「ガーバーは良いよ」
 最後に、左右両方の足首に鞘を括り付ける形で諸刃の短いナイフを仕込んだ。ガーバー社製マークⅠダガー・ナイフ。短いから、主に投擲用として使用することになるだろう。メインで使うのは、やはり使い慣れたベンチメイド・9050AFOのスウィッチ・ブレードだ。
 そうした装備を纏め、一通り弾を込め終えた後でハリーはそれらを大きな黒いナイロン製のボストン・バッグへと詰めていく。グロックだけは腰に着けたままで、だ。
「……私も着いて行くわ」
 そうしてハリーがユーリ・ヴァレンタイン邸へ殴り込む為の装備を整え終えた直後、冴子がそんなことを言い出した。
「駄目だ」しかし、ハリーはそれを断る。
「それより、君は隠蔽と事後処理、そして抑えの部隊の手配を徹底しておいてくれ。万が一の場合は、冴子だけが頼りだ」
「現場までは、僕が送っていくよ」
 そんなミリィの言葉には、ハリーも素直に「頼む」と頷く。現場までのアシを請け負ってくれるのは、素直にありがたかった。
「それとハリー、これを飲んでおくんだ」
「これは?」ミリィから手渡された錠剤を、不思議そうに眺めるハリー。
「鎮痛剤だ、強力な。とりあえず、戦ってる間は痛みも抑えられるはずだ」
「……悪い、助かる」
 そう言って、ハリーは受け取った錠剤を飲み込み、ミネラル・ウォーターのペットボトルで喉に流し込んだ。
 その後で、漸く装備をパンパンに詰めた凄く重いボストン・バッグを肩に背負い。そしてミリィを伴い、ハリーは隠れ家を後にしようと玄関口へ向けて歩き出す。
「ハリー」
 そうすれば、後ろから冴子が背中を呼び止めてきた。「……何だ?」とハリーが振り返る。
「…………気を付けてね。貴方もあのも、無事に」
「分かってる」ニッと冴子に向かって不敵に笑ってみせ、そしてハリーは再び歩き出した。
「ルール第六条、この五ヶ条を破らなければならなくなった時は、己の信ずる信条と正義に従い、確実に遂行せよ。
 ―――――和葉の奪還と、そのついでに世界の平和と命運は、俺に任せておけ」
 見送る冴子に後ろ手を振りながら、ハリーは振り返らないままで歩いて行く。最後の決戦の地、ユーリ・ヴァレンタイン邸へと赴かんが為に。
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