SIX RULES

黒陽 光

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第六条(上):この五ヶ条を破らなければならなくなった時は――――

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 一方その頃、高い塀に囲まれた敷地の内側に忍び込んだハリーは、そのまますんなりと屋敷の中へと潜り込めた――――ワケもなく。門を潜って少しした後から、多数の傭兵を相手に、広い庭を戦場にし大銃撃戦を繰り広げていた。
「ああ、クソッ!!」
 SIG-516をセミオートでブッ放しつつ邸宅の庭を走りながら、ハリーが独り毒づく。
「数が多すぎるんだよ!」
 今までに、既に八人近くを射殺したはずだ。しかしそれでも敵の数は減るどころか増えているような錯覚を覚え、まるでゴキブリみたいにうじゃうじゃとそこら中から湧いて出てくる。
「チィッ!!」
 走りながらダンダンダン、と続けざまにSIG-516をセミオートで連射し、三人を一気に屠ったところで遂に弾が切れ、ボルトキャリアが後退しきったまま停止する。ハリーは激しく舌を打ちながら目の前に迫っていた少し背の高い生け垣を宙返りするように跳び越え、そのまま生け垣の後ろに着地しつつ尻餅を突き、身を潜めながら弾倉を交換する。
 遠心力を使って片手で弾き飛ばした樹脂の空弾倉が遠くに転がる音を聞きながら、新しい弾倉を装填した左手でボルトストップを殴るように押し付け、解除し弾を再装填。そうしながらハリーは再び立ち上がり、近づいていた二人を振り向きざまに撃ち殺す。
「こうも数が多いと……」
 再び屋敷に向かって走り出しながら、更なる敵に向けSIG-516をブッ放しつつハリーがひとりごちる。
「武器も弾も、ひょっとしたら足りなくなるかもしれんな!」
 十人近くを始末したところで、再び弾が切れたから再装填。走りながら空弾倉を振り出して棄て、新しい物を差し込む。
 ――――とにかく、一刻も早く屋敷の中に飛び込む必要がある。
 ハリーの目的はコイツらの殲滅ではなく、あくまでも和葉の確保と、ユーリ・ヴァレンタインの始末だけだ。何も律儀に傭兵の全てを相手にしてやることはない。それに相手をしていたら、こちらの弾の方が先に無くなってしまいそうだ。
「とはいえ……!」
 噴水の陰に滑り込み、振り向きざまに噴水越しに三人の身体を撃ち抜きながら、ハリーがまた独り言を呟く。
「降りかかる火の粉ばかりは、払わにゃどうしようもない」
 そして一息つこうと懐からマールボロ・ライトの煙草を取り出し、カチンと左手でジッポーを鳴らし火を点けた。紫煙を奥の奥まで吸い込むと、思考が少しばかりクリアになってくる。
「マーロウの言葉を借りるのなら、撃って良いのは撃たれる覚悟のある奴だけ、ってか」
 皮肉っぽい独り言を誰に向けるでもなく呟いた後で、ハリーは煙草を咥えたままで再び走り出していた。SIG-516を傍らに携えながら、大分近くまで迫ってきたユーリ・ヴァレンタインの大邸宅へ向けて、一直線に。
「因果な稼業だ、今更思ったって仕方ないことだけど」
 背中を追いかけてくる四人を更に仕留めたところで、また弾倉が底を突く。空弾倉を振り落とし、新しい物を突っ込んで再装填。既にかなりの弾数を撃っているせいか、摩擦で銃身が仄かに熱を帯びている……。
 そうして更に数人と交戦しながら、走るハリーは何とか屋敷の傍にまで辿り着いていた。
 だが、そのまま表から侵入することはしない。敢えて裏の方へと周り、追ってくる敵の目から逃れて攪乱する。
「よし……!」
 そして、束の間のインターバルを得たハリーは咥えていた煙草を芝生の地面に落とし、火種を靴底で揉み消すと。すると、目の前にあった大きな窓ガラスに眼を付けた。向こう側は応接間か何かのようで、電灯も灯されておらず人の気配も無い。
 少しだけ助走を付けると、ハリーは意を決しその窓ガラスに飛び込んだ。肩からタックルするように飛び込めば、ハリーの体重に押し負けたガラスが粉々に砕け、突き破られる――――。
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