SIX RULES

黒陽 光

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第六条(上):この五ヶ条を破らなければならなくなった時は――――

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 その後の遭遇戦でスコーピオンEVO3も弾を使い果たし、それも棄ててTOZ-194Mショットガン一挺になったハリーだったが、しかし二階の何処を探しても和葉の姿も、そしてユーリ・ヴァレンタインの姿も見つけることが出来なかった。
「此処で、二階はラスト……!」
 とある扉の前に立ちながら、ハリーがひとりごちる。もし此処で無ければ、あの広い一階の何処か、或いは別の場所か……。
 そう思うと、緊張を覚えてしまい。思わずゴクリと喉を鳴らしながら、ハリーは扉の横に立ちTOZ-194Mショットガンを構えた。
 ズドン、ズドンと扉に向かって三発を見舞う。ドアノブ付近と二ヶ所の蝶番ちょうつがいを破壊した所で弾が切れ、TOZ-194Mを投げ捨てたハリーは右腰からカスタム品のグロック34を抜きつつ、それを構えながらボロボロになったドアを蹴破った。
 意を決し、ハリーが突入していく。するとどうやら当たりの部屋を引き当てたようで、明らかに他の部屋よりも間取りが広く、調度品も豪華な、高級ホテルのスウィート・ルームにも似たその一室は、何処からどう見ても間違いなくユーリ・ヴァレンタインの私室に違いなかった。
 しかし、その中にユーリ・ヴァレンタインの姿は無く。代わりに、窓の開いた窓際、バルコニー近くに立つ、ゴシック・ロリータめいた黒いワンピースを身に纏う小柄な少女のような、ハリーにとっては見慣れた女の後ろ姿だけがあった。
「……クララ」
 神妙な顔でハリーがその名を呼ぶと、その少女――――クララ・ムラサメがゆっくりと振り返る。開け放たれた窓から吹き込む風に、彼女のすみれ色の髪が小さく揺れた。
「やあ、来てくれたね。待ってたよ、ハリー」
「待ってた……? どういうことだ、クララ。和葉と、それにユーリ・ヴァレンタインは何処に居る」
 ハリーは油断なくグロックの銃口をクララに向けながら質問するが、しかし当のクララは気楽なまま、余裕の表情なんか見せる手ぶらの格好だった。
「ユーリ・ヴァレンタインなら、もう此処には居ないよ」
「居ない、だと?」
「今頃、和葉ちゃんを連れ出そうとしている頃だ」
 逃げられた――――。
 その事実に、ハリーは歯噛みをする。やはりバレずに潜り込んだ方が良かったと、サイレンサー付きの銃器を用意しておくべきだったと、此処に来てハリーは激しく後悔した。
「どうして、それを俺に?」
 しかし、ハリーは敢えてその激しい後悔の念を胸の奥底へと押し込みながら。ただ、頭に浮かび上がった疑念だけを彼女に投げ掛けてみる。すると、クララは「嫌気が差したんだ」と言った。至極疲れたような横顔で、いつものクールな色は何処へ行ったのやら、ただ激しく憂うような、後悔するみたいな横顔で。
「罪の無い、未来ある学生たちを虐殺し、女の子の大事な母親の形見を平気な顔で奪い、あまつさえそれを使って、世界のパワーバランスを崩そうとしてる……。
 ――――彼の、ユーリ・ヴァレンタインのやり方には、もう僕は着いていけない。あの男のやろうとしていることは、いたずらに世界を壊してしまうだけだ」
 憂いの色を強める横顔で、ひとしきり独白するみたくクララは言うと。すると、懐から取り出した小さな何かをハリーに向けて投げつけてきた。
「……これは?」
 飛んで来たそれを空中でキャッチすると、開いた左手の中に収まっていたのは車のキーだった。金色の猛牛が模られた、ランボルギーニのロゴが彫られたキーだ。
「此処の車庫にある、ランボルギーニのキーだ。さっき掠め取っておいた。車種は黒のムルシエラゴ・ロードスター。
 ……もし此処から生きて出られたら、それを使って彼女を追うんだ。君のウデを以てすれば、十分に間に合う」
 そう言うクララの意図は分からなかったが、しかし彼女にも限界が来たことは、嫌気が差して"スタビリティ"から足抜けしようとしていることは、何となく理解出来た。でなければ、彼女がこんな真似をするとは思えない。
「……どういうつもりだ?」
 受け取ったランボルギーニのキーをスーツジャケットの内ポケットへ収めながら、ハリーが怪訝そうに問いかける。
「始末を付けるのは、君の仕事だからね。…………期待してるよ、ハリー・ムラサメ。僕の大事な大事な、可愛い愛弟子」
 クララはフッと自嘲めいた笑みを浮かべて。トボトボと歩き始めれば、開いた窓を通り抜けてベランダの方へと歩いて行く。
「待て、君は……!?」
「僕かい?」呼び止めるようなハリーの声に、一瞬立ち止まったクララが首だけで振り向いた。
「僕は、僕の好きなようにやらせて貰うさ」
 そうすれば、クララはハリーに向かって、見慣れたいつものクールな色で微笑んでみせて。そうすると――――トンっと床を蹴り、ベランダからひょいと飛び降りてしまった。
「待て、クララ――――!」
 追いかけようと、ハリーがベランダへと駆け出す。
「ッ!?」
 すると、その時だった。背後に尋常じゃ無い気配と痛いぐらいに刺さる殺気を感じ、ハリーはその気配を撃ち殺そうと振り向く。だが、
「うおっ!?」
 その気配の腕が振るわれる方が速く、ハリーの手元から払われたグロック34が床に落ちる。
「ウォードッグ……!?」
 銃を吹き飛ばされたハリーが咄嗟に飛び退いた先で見たのは、巨大な影だった。吹き飛んだ扉を塞ぐように立つ巨漢は――――殺したはずの、あのウォードッグだった。
「ヘッヘッヘッ……」
 至極楽しそうに犬歯剥き出しの笑顔を浮かべるウォードッグは、撃ち抜いた左眼にこそ血の滲む包帯を巻いてはいるが。しかし、確かに生きて奴はそこに立っていた。あの時、確かに教会で撃ち殺したはずのウォードッグが……。
「不死身なのか、ウォードッグ!?」
「さァ、決着を付けようぜ……!」
 ハリーがおののく暇も無く、ウォードッグは巨体から闘志を滲ませる。自分の足元に転がっていたハリーのグロックを蹴って彼の方へと流し、自分は.44マグナム仕様のトーラス・レイジングブルを抜き放ち、二挺拳銃で構える。
「…………」
 ――――最後は正々堂々、というワケか。
 ウォードッグの行動に、戦士として素直な敬意を払いながら。ハリーはウォードッグが蹴って寄越してくれたグロック34を右手で拾い上げ、そして左手では背中に隠していたバックアップ用のグロック26を引き抜いた。こちらもまた、礼に応じ二挺拳銃のスタイルで出迎える。
「幾ら貴様が頑丈だろうと、同じ紅い血の出る人間だ! ならば、俺にだって殺せるはずだ! 今度こそ地獄に叩き落とす、ウォードッグッ!!」
「ヘッヘッへッ……! 楽しもうぜ、ハリー・ムラサメ! 俺とお前、二人っきりの勝負だァッ!!」
 互いに最大級の敬意を払いつつ、しかし最大級の敵意を以て雄叫び合う二人。二挺拳銃同士が向き合う中、遂に戦いの火蓋が切って落とされる――――!!
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