131 / 430
第三章『アイランド・クライシス/少年少女たちの一番暑い夏』
Int.35:アイランド・クライシス/極限状況、生き残る術はただひとつ①
そうしてA組の一同とエマ、そして教官二人を加えた全員が乗り込むと、士官学校のグラウンドに待機していたCH-47J"チヌーク"大型輸送ヘリコプターはゆっくりと離陸していく。
「…………」
小さな窓から見える景色が段々と遠ざかり、慣れ親しんだ街の景色が眼下の中で、まるでジオラマのように現実感の無い景色へと変わっていく。普通の固定翼機とはまた違う独特な感覚を以て、しかし確かに飛んでいるという実感を一真に抱かせながら、チヌーク・ヘリコプターは加速度的にその高度を上げる。
「意外に揺れぬものだ」
「だな」隣、キャビン内へ申し訳程度に付けられた簡易的な椅子に腰掛ける瀬那の呟いた言葉に、一真が小さく頷く。「案外、悪くないもんだ」
「うむ。軍用である故に乗り心地は期待しておらなかったが、そこまで悪くはない」
うんうん、と独りで頷きながら瀬那が言う通り、揺れの方は思ったよりか全然揺れない。それどころか妙な安定感があり、例えるならば……そう。このヘリが模型だとして、上からピアノ線か何かで吊られているような感覚だ。流石にタンデム・ローター式、馬鹿には出来ないらしい。
が――――音の方は、もう文字通り爆音といったぐらいだ。内張りなんて殆ど無く、しかも閉じた後部ハッチの上に空間が若干開けられているものだから、それは尚更。バリバリとやかましい音が延々と頭上で響いているのを聞かされていると、本当に気が狂いそうになる。
とはいえ、一真たち乗客は事前に渡されていたヘッドホン型のイヤー・マフ、要はドデカい耳栓のようなものを渡され、それを被っている故に、感じる騒音はかなり緩和されている。だがイヤー・マフが無かったら、この爆音に耐えきれるかどうか……。
そんな具合に、一同を乗せたチヌークは京都市街の上空をひらりと抜け、遠く離れた東方に琵琶湖の景色を望みながら、向かう先は一路、北方。日本海に面した舞鶴の方面だ。
舞鶴市の景色を眼下に望みながら、青葉山の上空をひとっ飛びで飛び越え。そうして日本海に出ると、やがて海の上にぽつんと浮かぶ小振りな島の姿が見えてきた。
あれが、目的地である冠島だ。南部の低い低地と、それ以外の急傾斜の山地部分から成る無人島。広葉樹を中心とした暖帯性植物が茂る原生林が広がり、手つかずのそれが島全体をまるっと覆われている、正に無人島といった趣の島だ。
「早いな」
隣で瀬那がそんなことをひとりごちるものだから、一真はそれに「まあな」と反応する。
「幾らこの距離っつったって、空の上飛んじまえば近いってことじゃないかな?」
それもそのはず。士官学校から冠島までの距離は、直線距離にしておおよそ83km(51マイル)。それに対しCH-47の巡航速度はおおよそ240km/h~260km/hとされているから、この距離だろうが到着が凄まじく早く感じるのも仕方ないというものだ。
高度を下げたチヌークは、そんな冠島の南方、海岸線沿いに着陸した。ゴロゴロとした岩ばかり広がる岩場の海岸だが、その辺りは流石に抜かりなし。恐らくは国防陸軍の工兵隊たちによってランディング・ゾーン近辺の海岸線は整備されていて、そこに簡易的なヘリポートも造られている。チヌークはそこに着陸したのだ。
ヘリから降りた一行は、そのヘリポートの近隣、緑地の中に立てられた簡易的なプレハブ施設の中へ真っ先に通された。割と大人数だが、しかしこういった訓練での使用を前提に考えているのか、すんなりと全員が収容できる。また、その近くには小柄なプレハブ小屋が幾つもあった辺り、寝泊まりはそこでしろということだろう。
「さて諸君。無事に到着出来たわけだが……」
一同の前に立ち、そう言って話を切り出したのはやはり西條だ。こんな所でも羽織る白衣に所構わずスパスパと吹かしまくるマールボロ・ライトの煙草というスタイルは、例えここが人の手が殆ど入っていない無人島といえども変わりない。
「二人一組になってサヴァイヴァル訓練を行うというのは、事前に通達し決めての通りだ。とりあえず、今はそれに分かれろ」
「つっても、なあ……?」
そんな西條の指示に一真が苦笑いをしていると、隣の瀬那は「うむ」と頷いて、
「既に、分かれているようなものである故、な」
と言って、彼女もまた軽く口角を緩めてみせる。
…………そう、何だかんだで西條に決められた組み合わせで、一真はやはりというべきか瀬那とペアを組むことになっているのだ。まあ、万が一にも楽園派が手を出してこないとも限らないので、事情を知る彼か霧香かが傍に付くのがベストであることに間違いは無いのだが。
ちなみに、他のペアは霧香と美弥が組になっている。この辺は、美弥を霧香がフォローするといった感じだろう。
ちなみに残った白井・ステラ・エマの三人だが、これは特例としてこの三人がまるっと一組に組まれていた。交換留学生であるが故の管理の単純化と、既に原隊時点でそういった訓練を修了している二人の事情を鑑みて。そして、そこに適当に余った白井を突っ込んだ感じだと、西條は前に言っていた。尤も、ステラは「なんっで! コイツと! 一緒なのよっ!」とやたらぼやいていたような覚えがあるが。
とまあそんな感じに分かれると、「それじゃあ、組ごとの部屋割りを言っておく。そこに行って、事前に渡した野戦服に着替えてこい」と西條は指示すると、ひとまずはその場を解散させた。
「……いよいよ、か」
「うむ」隣で息を呑む一真の独り言に、瀬那も小さく頷いた。
――――いよいよ、サヴァイヴァル訓練が始まろうとしている。この誰も居ない無人の孤島で、深い森の中を這い、生き残るための技術を叩き込む為の訓練が、今まさに始まろうとしていた。
「…………」
小さな窓から見える景色が段々と遠ざかり、慣れ親しんだ街の景色が眼下の中で、まるでジオラマのように現実感の無い景色へと変わっていく。普通の固定翼機とはまた違う独特な感覚を以て、しかし確かに飛んでいるという実感を一真に抱かせながら、チヌーク・ヘリコプターは加速度的にその高度を上げる。
「意外に揺れぬものだ」
「だな」隣、キャビン内へ申し訳程度に付けられた簡易的な椅子に腰掛ける瀬那の呟いた言葉に、一真が小さく頷く。「案外、悪くないもんだ」
「うむ。軍用である故に乗り心地は期待しておらなかったが、そこまで悪くはない」
うんうん、と独りで頷きながら瀬那が言う通り、揺れの方は思ったよりか全然揺れない。それどころか妙な安定感があり、例えるならば……そう。このヘリが模型だとして、上からピアノ線か何かで吊られているような感覚だ。流石にタンデム・ローター式、馬鹿には出来ないらしい。
が――――音の方は、もう文字通り爆音といったぐらいだ。内張りなんて殆ど無く、しかも閉じた後部ハッチの上に空間が若干開けられているものだから、それは尚更。バリバリとやかましい音が延々と頭上で響いているのを聞かされていると、本当に気が狂いそうになる。
とはいえ、一真たち乗客は事前に渡されていたヘッドホン型のイヤー・マフ、要はドデカい耳栓のようなものを渡され、それを被っている故に、感じる騒音はかなり緩和されている。だがイヤー・マフが無かったら、この爆音に耐えきれるかどうか……。
そんな具合に、一同を乗せたチヌークは京都市街の上空をひらりと抜け、遠く離れた東方に琵琶湖の景色を望みながら、向かう先は一路、北方。日本海に面した舞鶴の方面だ。
舞鶴市の景色を眼下に望みながら、青葉山の上空をひとっ飛びで飛び越え。そうして日本海に出ると、やがて海の上にぽつんと浮かぶ小振りな島の姿が見えてきた。
あれが、目的地である冠島だ。南部の低い低地と、それ以外の急傾斜の山地部分から成る無人島。広葉樹を中心とした暖帯性植物が茂る原生林が広がり、手つかずのそれが島全体をまるっと覆われている、正に無人島といった趣の島だ。
「早いな」
隣で瀬那がそんなことをひとりごちるものだから、一真はそれに「まあな」と反応する。
「幾らこの距離っつったって、空の上飛んじまえば近いってことじゃないかな?」
それもそのはず。士官学校から冠島までの距離は、直線距離にしておおよそ83km(51マイル)。それに対しCH-47の巡航速度はおおよそ240km/h~260km/hとされているから、この距離だろうが到着が凄まじく早く感じるのも仕方ないというものだ。
高度を下げたチヌークは、そんな冠島の南方、海岸線沿いに着陸した。ゴロゴロとした岩ばかり広がる岩場の海岸だが、その辺りは流石に抜かりなし。恐らくは国防陸軍の工兵隊たちによってランディング・ゾーン近辺の海岸線は整備されていて、そこに簡易的なヘリポートも造られている。チヌークはそこに着陸したのだ。
ヘリから降りた一行は、そのヘリポートの近隣、緑地の中に立てられた簡易的なプレハブ施設の中へ真っ先に通された。割と大人数だが、しかしこういった訓練での使用を前提に考えているのか、すんなりと全員が収容できる。また、その近くには小柄なプレハブ小屋が幾つもあった辺り、寝泊まりはそこでしろということだろう。
「さて諸君。無事に到着出来たわけだが……」
一同の前に立ち、そう言って話を切り出したのはやはり西條だ。こんな所でも羽織る白衣に所構わずスパスパと吹かしまくるマールボロ・ライトの煙草というスタイルは、例えここが人の手が殆ど入っていない無人島といえども変わりない。
「二人一組になってサヴァイヴァル訓練を行うというのは、事前に通達し決めての通りだ。とりあえず、今はそれに分かれろ」
「つっても、なあ……?」
そんな西條の指示に一真が苦笑いをしていると、隣の瀬那は「うむ」と頷いて、
「既に、分かれているようなものである故、な」
と言って、彼女もまた軽く口角を緩めてみせる。
…………そう、何だかんだで西條に決められた組み合わせで、一真はやはりというべきか瀬那とペアを組むことになっているのだ。まあ、万が一にも楽園派が手を出してこないとも限らないので、事情を知る彼か霧香かが傍に付くのがベストであることに間違いは無いのだが。
ちなみに、他のペアは霧香と美弥が組になっている。この辺は、美弥を霧香がフォローするといった感じだろう。
ちなみに残った白井・ステラ・エマの三人だが、これは特例としてこの三人がまるっと一組に組まれていた。交換留学生であるが故の管理の単純化と、既に原隊時点でそういった訓練を修了している二人の事情を鑑みて。そして、そこに適当に余った白井を突っ込んだ感じだと、西條は前に言っていた。尤も、ステラは「なんっで! コイツと! 一緒なのよっ!」とやたらぼやいていたような覚えがあるが。
とまあそんな感じに分かれると、「それじゃあ、組ごとの部屋割りを言っておく。そこに行って、事前に渡した野戦服に着替えてこい」と西條は指示すると、ひとまずはその場を解散させた。
「……いよいよ、か」
「うむ」隣で息を呑む一真の独り言に、瀬那も小さく頷いた。
――――いよいよ、サヴァイヴァル訓練が始まろうとしている。この誰も居ない無人の孤島で、深い森の中を這い、生き残るための技術を叩き込む為の訓練が、今まさに始まろうとしていた。
あなたにおすすめの小説
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【なろう490万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ
海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。
衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。
絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。
ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。
大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。
はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?
小説家になろうSF(パニック)部門にて490万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。
カクヨムのSF部門においても高評価いただき100万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
局地戦闘機 飛電の栄光と終焉
みにみ
歴史・時代
十四試局戦 後の三菱雷電J2Mとして知られるこの戦闘機は爆撃機用の火星エンジンを搭載したため胴体直径の増加、前方視界不良などが続いたいわば少し残念な機体である この十四試局戦計画に地方の無名メーカーが参加、雷電を超える高性能機が誕生し、零戦の後継として太平洋戦線を駆ける これは設計者、搭乗員の熱く短い6年間を描いた物語だ
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。