幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光

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第七章『ティアーズ・イン・ヘヴン/復讐は雨のように』

Int.06:ON THE WIND./君と僕、狼たちのありふれた午後①

「でも、放課後に集まれって何なんだろうね?」
「俺に訊かれても困るってえの。……ま、舞依があんな言い方したんだ。十中八九、ロクでもないことだろうよ」
 そんな日の昼休み。士官学校の校舎廊下を歩きつつ、隣り合って歩く彼女に向かって#弥勒寺一真__みろくじ かずま_#が、ひどく億劫そうな声でそう呟いていた。黒い髪を揺らす横顔も眼の色も、同様にかなり億劫そうな色だ。
「うーん、カズマが言うと説得力がなぁ……。なんていうか、縁起でもないよ?」
 と、そんな一真に対し呆れっぽいような、何とも言えない微妙な表情を浮かべる彼女。エマ・アジャーニはそんな風に微妙な表情を横顔に浮かべれば、何処か苦言を呈していた。白人特有の白すぎるほどに白い肌と、アイオライトの色にも似た奥深い瞳の色は相変わらずで。しかし首の付け根ぐらいまで伸びたプラチナ・ブロンドをした髪の襟足は、初めて出逢った時よりも少しだけ伸びているように一真は思う。
「ホントに縁起でもない顔してたんだよ、舞依の奴。まるで徹夜で葬式に出る前みてえな顔してやがった」
「あー……確かにいつもより顔色悪そうだったもんね、西條教官」
「だろ? 舞依がああいう顔してる時はな、いっつも大抵ロクでもねえことが起きてる証拠なんだよ」
 至極参ったみたいな顔をして一真がブツブツと、半ば独り言のように愚痴めいたことを呟いていれば。その横でエマは「あはは……」と、やはり微妙な顔で苦笑いを浮かべていた。
「まあでも、とりあえずはクラスも一緒になれたしね。呼び出されても移動する手間はないし、僕としてはどんな内容でも構わないかな?」
「そういう問題じゃないだろってえの。A-311とブレイズに集まれって言ってる時点で、間違いなくそっち・・・の話題だぜ?」
「それはまあ、そうだけどさっ」
 肩を竦める一真と横並びに廊下を歩きながら、ニコニコと楽しげな顔で言葉を交わすエマ。そんな彼女は元々、A組の一真とは異なりC組に属していたのだが、しかし新学期からは特例的な措置が図られ、現在では一真たちと同じA組に移籍してしまっている。
 他の、例えば美桜や国崎も同様だ。A-311訓練小隊の効率的な運用という名目で、編成時に他クラスだったエマのような小隊メンバーは全員、例外なくA組への移籍措置が図られている。それもこれも、全て担当教官が西條と錦戸――つまりA-311小隊の指揮を預かる二人であること。そして、今日のような招集を掛けやすくする為という理由が大きい。
 ……そんな移籍組の中には、本来なら橘まどかも加わるはずであった。しかし新学期を待たずして戦死してしまった彼女にそれを望むべくもない今、彼女のことを思い出してしまえば、ただ哀しくなるだけだ。故にエマは意図的に彼女のことを思い出さないようにはしていたが、しかしそれでもフッと頭を過ぎれば、少しばかり胸が切なくもなる。
 でも、それだけだ。涙が流れることなどなく、胸を締め付ける思いもいつしか霧散していく。今まで潜り抜けてきた幾多の死線と、そして経験してきた多すぎるほどの戦友ともの死。その中でいつしか自分の心がすり減っていたらしいことを自覚すれば、エマは少しだけ、ほんの少しだけ自嘲的な笑みを浮かべてしまう。
「エマ、どうかしたか?」
 そんな彼女の些細な表情の変化を、しかし機敏に読み取れば。一真は首を傾げながらで呼びかけるが、しかしエマは少し首を振ると「……ううん、なんでもない」と元の笑顔に顔色を造り替えてしまう。
「……ま、君がそう言うなら良いけど」
 一真は彼女に向けられた笑みの奥に少しだけの真意を垣間見ると、敢えて深くまでは聞こうとせず。独りでそう呟けば、話をそこまでで打ち切ることにした。
「それより、エマ? 連れてくってったって、何処に連れて行こうってんだ?」
「ふふっ、それはね……着いてからのお楽しみっ」
「なんだよ、それ」
 ニコニコと、やはり楽しげに笑う顔を少しだけ悪戯っぽくするエマに言われ、一真は大袈裟なぐらいに肩を竦め返してみせる。エマが片手に、一真に隠すようにしながら持っている小さな包みが気になるところで。しかし何となく予想が付いているだけに敢えて気にしないようにもしながら、一真は彼女に言われるがままに廊下を歩いて行く。
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