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Chapter-01『覚醒する蒼の神姫、交錯する運命』

第二章:紅蓮の乙女/02

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 それから一限目の授業……現国だから、丁度あの担任が受け持つ授業だ。それが終わるや否や、アンジェの右隣にはクラスメイトたちが押し掛けていて。その席に座る渦中の転入生セラフィナ・マックスウェルといえば、皆から物凄い勢いの質問責めに遭っていた。
「ねえねえ、マックスウェルさんって何処から来たの?」
「……西海岸、L.Aよ。さっき説明してたでしょうに」
「日本語すっごい上手だね! 誰に習ったの?」
「……色々あって、ね」
「すっごく背高いよね……スタイルも抜群だし、羨ましいを通り越して神々しいよぉ!!」
「神々しいって……言いすぎよ、アンタ頭の方は大丈夫かしら? 良い医者を紹介してあげるわよ」
「着こなしも凄くお洒落だよね……やっぱり、本業はモデルさんだったり?」
「ンなワケないでしょうに。アタシのこと、一度でも雑誌で見たことあるかしら? もしそうだったとしたら、アタシは印税ガッポリせしめて今頃ビバリーヒルズの豪邸暮らしでしょうね」
「マックスウェルさん! 一目惚れしちゃいました! 俺と付き合ってください!!」
「ノーセンキューよ、生憎と今のアタシにその気はないから」
「じゃ、じゃあ俺とお付き合いを!」
「今の話聞いてた? 耳の穴にコルクでも詰まってるのかしら」
「だったら俺と!」
「ああもう、くどい!! 気持ちは受け取っとくわ。でもね、悪いけど男作ってる暇なんて今のアタシには無いっての!!」
「わぁ! マックスウェルさん格好良い!!」
「じゃ、じゃあ私と付き合ってくれませんか!? マックスウェルさんって、まるで王子様みたいで……あっやばい鼻血出てきた」
「あー……理解は出来るわよ? アタシの周りにも居たからね。だからうん、否定はしないわ。それはそれで良いと思う。だから訂正。男も女も今のアタシには必要無いの。気持ちは嬉しいけれど、お断りさせて貰うわ」
「きゃー!! 格好いいー!!」
「うおおおおおお!! 俄然燃えてくるッ!!」
「あのねえ…………」
 ――――と、彼女への質問責めと受け答えといえば、終始こんな感じだった。
 これにはアンジェも「あはは……」と苦笑いしながら横目に見ることしか出来ない。至極迷惑そうに皆をあしらう彼女を傍から見ていると……何というか、ただただ気の毒だった。
 そうして一限目が終わった後の休み時間が終わり、続き二限目が終わった後も同じようなもので。その休み時間も終わる頃には、いい加減に彼女もうんざりした様子だった。
 だからアンジェは……三限目が終わってから、彼女の周りに出来ていた人波を掻き分けて彼女の傍に行き。彼女の机の傍にそっとしゃがみ込みながら、アンジェは自分からセラフィナ・マックスウェルに話しかけてみることにした。
「皆にいっぱい質問されて、疲れちゃったかな?」
「……まあね」
 柔らかな笑顔で話しかけてみると、彼女はうんざりした様子で低く頷き返してくれる。
 そんな彼女の反応を見て、アンジェはまた柔な笑顔を浮かべ。机の上へと投げ出されていた彼女の手の甲にそっと自分の手のひらを重ねつつ、続けてこう言葉を掛けてみた。
「皆に悪気はないから、許してあげて欲しいな」
 そうしてアンジェが言葉を投げ掛けると、セラフィナ・マックスウェルはその段になって漸く横目の視線を向けてきてくれて。アンジェのアイオライトの瞳と、自分の切れ長な金色の瞳からの視線を交錯させつつ……彼女はただ一言、こうアンジェに問うていた。
「……アンタは?」
 そう言って、セラフィナ・マックスウェルはアンジェに興味を示してくれたのだ。
「ん?」
 すると、アンジェはニッコリと微笑み。頭上にある金色の双眸を見上げながら、こう名乗ってみせる。
「アンジェリーヌ・リュミエール。アンジェでいいよ」
「……そう」
「それで、えーと……君は確か」
「――――セラ」
 朝のホームルームで紹介された彼女の名前を、アンジェが思い出そうとした矢先。真っ赤なツーサイドアップの髪を揺らしながら、セラフィナ・マックスウェルはボソリと呟いた。
「ん?」
「セラフィナ・マックスウェル。……アタシも大概長くて呼びづらいから、アンタと同じようにセラで構わないわ」
 ――――セラ。
 彼女は……セラフィナ・マックスウェルは、いいやセラはそう名乗ってくれた。周りの有象無象とは明らかに雰囲気の違う、目の前のアンジェに少しだけ心を開くように。
 そうすれば、彼女に心を開いて貰ったアンジェはニッコリと嬉しそうに微笑み。小さく首を傾げながら、続けて彼女に……セラにこんな言葉を投げ掛けていた。
「そっか。じゃあセラ、少し僕とお話しない?」
「……まあ、良いけれど。それで、何を話すのかしら?」
「君のこと、僕に聞かせて欲しいんだ。凄く興味があるんだよね、セラのこと」
 ニッコリと微笑みながら見上げてくる、そう言うアンジェの顔を見下ろしながら。何故だかセラは彼女に対して、どうにも不思議な感覚を抱いていた。
 アンジェは、他の連中とは何かが違う。好奇の視線を注いでくるだけの、自分の領域に無遠慮に土足で踏み込んでこようとする他の連中とは、決定的に何かが違うのだ。
 彼女と話していると、何だか変に安心するというか……自然とほだされてしまうというか。気付けば自分でも気付かぬ内に心を開かされてしまうような、アンジェリーヌ・リュミエールはそんな不思議なだった。
 少なくとも、セラはそう感じていたのだ。初めて言葉を交わした、金色の彼女に対して。
(……不思議なね、本当に)
 セラは目の前のアンジェに対して、自分にそっと手のひらを重ねてくれている彼女に対して。そんな印象を……決して悪くない第一印象を抱いていた。
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