女装レイヤーの俺が転生して着物を着ることになったけど 数が多くないですか?

青伽

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着物戦闘服、選別

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想像していた戦闘服と全然違っていたので、聡治は物珍しそうに眺めた。
 普通の着物にしか見えないが、それぞれ能力が違うらしい。札に何か書いてあるのでそうだと思う。日本語ではないので読めない。しかし、数ある着物の中でも目についたのは、やはり日本の着物だ。
 ずっと着るなら、見慣れた着物がいいよな。
 見ていると、気を取り直した女神が解説し出した。
「それは和戦闘服というの。生み出した日本の能力は『協調性』つまり仲間ができやすいのよ」
 なるほど、協調性か。仲間は大事だよな。
 だが冒険をしていくのなら、自ずと仲間は出来る気がする。他のも見てみよう。
 聡治は、近くにあった変わった文様が付いた着物に目をやった。
「これは、アイヌ?」
「アットゥシ戦闘服ね。アイヌ民族は動物と距離が近いの。能力は『獣と心を通わせる』どんな猛獣とも友達になれるわ」
 どうやら着物戦闘服は民族の能力に関係があるようだ。
 猛獣を従わせるのは格好いい気もする。候補として入れておこう。
 次に聡治は、近くにあった仙女のような着物を手に取った。
「それは漢戦闘服。中国の漢民族の民族衣装よ。能力は」
「待って、当ててみたい」
 折角の転生だ、楽しみたい。
 女神も面白そうだと思ったのか、少し微笑んだ。
 漢戦闘服の能力について、聡治は考えた。
 中国といえば、中華料理。いやいや料理がうまくなる戦闘服なんて戦闘服じゃない。さっき漢戦闘服と言っていた。つまり、そうだ!
「中国といえば漢字、能力は『実体化』だ!」
 言葉を送るテレパシーと迷ったが、こっち方が実践的だ。
 人が口にする言葉を、文字に実体化させたのだから、きっと声に出した物を生み出す能力に違いない。
「惜しいけど違うわ」
 女神は首を横に振る。
「着物は基本絹から出来ているの。その絹は蚕の繭が元よ。繭を作る昆虫を家畜化し世界で唯一、昆虫の完全家畜化を成功させた。その蚕を生み出したのが漢民族、能力は『無力化』」
「へー」
 へーとしか言えなかった。なんで漢民族の能力は、着物関係なんだよ。そんなの知るわけがない。あと別に全然惜しくもない。
「あ、チャイナドレス」
 これも着物なんだな。
 女神が着物と言っているから、着物なんだろう。
 赤くキラキラと反射する、チャイナドレスを手に取る。
 かわいい、これは純粋に着たい。
「それはチャイナ戦闘服。近年作られた中国の民族衣装よ」
 歴史、ないのか。これなら当てられるかもしれない。
 しかし首を捻っても拳法しか思いつかない。
「力、とか?」
「惜しいわね。近代中国の功績といえばワイヤーアクションよ。能力は『飛行』」
 全然惜しくない。でも空は飛んでみたい!
 候補の一つにチャイナドレスを入れた。
 他のも見てみないとな~
 聡治は近くにあった着物に目をやった。テレビで見たことがある。
「それはチマチョゴリ戦闘服。朝鮮民族の着物よ」
 今度こそ当てるぞ! 
 朝鮮というのは、韓国のことだ。韓国といえば……焼肉、じゃなくて韓ドラじゃないか。さっきのチャイナドレスは、映画からの能力だった。きっと今度もそうだ。韓ドラといえば美人やイケメンが多い。そして韓国は整形が多い国として有名だ。つまり。
「能力は『変身』」
 当てた。今度こそ自信がある。
 しかし女神は首を横に振る。
「惜しいわね。変身よりもっと格好がいい能力よ」
「そんな、韓国に変身能力並みのチート能力があると!」
 思いつかない。ギブアップだ。
「答えを言うわね。韓国といえばキムチ」
 キムチ。
「キムチといえば辛い」
 辛い。
「能力は『火を操る』」
 ……ふむふむ確かに火を噴くほど辛いという表現がある。
「納得いくかーーーー!!」
 もういい。当てられない。
 諦めた聡治は、そろそろ着る服を決めようと頭を切り替えた。
 着物を見渡すと、他に一つだけ見覚えのあるものを見つけた。
「これは?」
「それはキラ戦闘服。ブータンの民族衣装よ」
 ブータン、どこかで聞いたことがある。
「テレビで見たかもしれないけど、覚えてないや」
 考えるのを諦めた。
「ヒントをあげるわ。ブータンは幸せ指数が高いのよ」
 幸せ?つまりそうだ。
「他人を幸せな気分にすることが出来る!」
「全然違うわ。簡単なのに情けないわね」
 今まで惜しい、だったのが全然違うになってしまった。聡治は声に出して考えた。
「幸せ……相手が幸せになれるポイントが分かる、つまり相手の弱点を知れる!」
 今までの傾向を取り入れてみた。適当に言ったが当たりそうだ。
「惜しいわね」
 外した!! 絶対惜しくない!
 女神と答え合わせをする。
「正解は『半径一メートル以内が平和になる』よ」
 平和。
「一メートル以内なら傷をつけられないわ。けどメスや注射器を医療行為として使う場合は使用できるの。だって平和だから」
 だって平和だから。
「キラ戦闘服でお願いします」
「え? まだまだあるのよ?」
「それ以上に自分の身を守れる着物あるの?」
「世界を救ってほしいのだけれど、これでは戦いにくいわ」
 初耳だが、なんとなくそうだろうと思っていた。
「キラ戦闘服でお願いします!」
 こうして聡治はキラ戦闘服を着て、異世界へと旅立つことになった。聡治は異世界への扉が開く際、女神がぶつぶつと文句を言っていたのを耳にした。
「あなたが女の子の着物を着ていなければ、間違えたりしなかったのに……道は完璧だったのに、あんまりに可愛いからハンドルを切っちゃったじゃない……女の子だと思ったのに!」
 女神は頬を膨れさせ、ふてくされている。聡治は驚いた。
 女神がトラックを運転してたのか。ていうか今の今まで、自分を殺した犯人と話をして……?
 一言文句を言おうとしたが、女神に押された。
「せいぜい頑張ることね」
 その意味を、聡治は思い知ることになる。

 女装している聡治は、町の人から煙たがられた。男性は上半身をさらすのが、この世界でのしきたりらしい。身体を全て隠している聡治の姿は恥ずかしい物のようだ。誰を助けても仲間もできず、一人黙々と戦った。『仲間を増やせる能力』がある和戦闘服にすればよかった、と後悔したが後の祭り。聡治は、故郷に想いを馳せながらもなんとか一人で魔王を倒すことを目指した。
 ところで、聡治には伏せられていたが魔王を倒した後はもとに世界へ戻ることができる。女装姿で生還した聡治は、恥など何も感じないだろう。
『恥ずかしくない方法で生き返らせてほしい』
 女神はもしかすると、約束を守ったのかもしれない。
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