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VIII 暴走
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「やぁぁっ!」
少女が剣を振り下ろすが、ロボットはその攻撃を難なく避けて少女を突きとばす。
「う…っ!」
「……。」
凛泉は他の機体を停止(一部破壊)し、一体残して少女と対面させて様子を見ていた。すると、VR用の装置に付いている無線機のスイッチをオンにする。
「ね~アイちゃん。あの子の戦闘訓練、もういいんじゃない?」
『何言ってるのよ、まだ偽神ロボと対面もしてないでしょ?』
「いや…なんつうか…。」
少女が千変万化を拾い、ロボットに攻撃を当てる。だが、ロボットが腕を振り上げると少女はアッサリと吹っ飛び地面に倒れる。
「あう…っ!」
「…弱すぎない?」
『…弱いわね。』
少女は何度もロボットに向かっていくが、そのたびに飛ばされ、硬い地面に体を打ち続けていた。
「うう…っ。」
凛泉がため息をつき、ロボットに向かって飛び掛かる。血で形成した鎖で足を縛って転ばせ、そのままナイフを投げてスイッチを反応させロボットを停止させた。目にも留まらぬ速さで行われたその動作に少女は開いた口が塞がらなかった。
「……。」
「アンタ、ホンットになんも魔法ないのな…。身体能力も並…以下。それじゃ同年代の一般人との喧嘩にだって勝てやしないよ。」
凛泉が少女が飛ばされた際にできた腕の傷を指で撫で、その血を舐める。
「ご、ごめ…ん。」
凛泉は血を舐めた後、自分の外殻を血に一部戻し、それを指ですくい少女の口に入れる。
「んむっ!?」
「ま、私に謝られてもって感じだけどね。戦力外なら普通に保護されるだけで、何も問題はないでしょ?まあ、その[封魔武具]は回収されるだろうけどさ。」
指を引き抜かれ、少女が軽く咳き込む。
「え…っ。」
「ちなみに今血を舐めさせたのは特に意味ないよ。」
「な、ないのぉ…?」
すると突然、部屋の天井からアナウンスが流れ始めた。
『偽神の反応を感知しました。前方にいる偽神に対して迎撃を開始してください。』
凛泉と少女が同じ方向を振り向く。そこには、それまでのロボットとは格が違うサイズ感と武装をつけられた巨大なロボットが佇んでいた。
ギギギギッと関節部から音を立てながら、ロボットがゆっくりと動き出す。
「あれさっさと止めて戻るよ。今までのヤツと違ってスイッチは数箇所あるし、プロテクターの下とかに隠れてるから一筋縄じゃいかない訳だけど…。」
凛泉が左手首の外殻を一時的に外し、ナイフで手首の傷をさらに増やす。そこから溢れ出した血が急激に形を変え、2本目の剣を形成した。
「私に任せてアンタは休んでな…あ、てかさ。」
凛泉が振り向いて少女と目が合う。
「な、なに?」
「アンタのことずっと「アンタ」って呼んでるけどさ…ぶっちゃけこれから呼べばいいわけ?」
「え…。」
凛泉の質問に答える前に、巨大ロボットが拳を振り下ろす。
「おっとぉっ!」
凛泉が少女を後ろに蹴り飛ばし、自身はもう片足で前方に飛んだ。轟音と共に床が大きく揺れる。
「ま、それは後でいいや!今はそこで休んでな!」
少女は蹴り飛ばされた勢いで地面に倒れる。
「…っ!」
草の映像で隠されているが地面は硬い床であるため、そこに倒れた少女は全身に痛みを覚え顔を歪める。頬や膝に傷がつき、そこから血が垂れる。
「私、は……何も…できないのかな…。」
自身の頬の血を拭い、少女は俯く。
(娘よ、弱音を吐くでない。人にはそれぞれできることが異なると言うだろう?)
少女はロボットと戦う凛泉の姿を見つめる。
「私は…戦えない…。」
少女は村に現れた黒い魔人を思い出す。あの時も、確実に千変万化の攻撃が入る瞬間に手を止めた。
「私は…傷つけるのが…怖い…。」
少女は、恐れていたのだ。自身が誰かを傷つけることを。それがたとえ魔人であれ、自身が剣を握り生き物を傷つけることを、恐怖していたのだ。
「私には…名前も、強さも…何もない空っぽ、なんだ…。私が少しでも強ければ、流河さんだって助けられたかもしれないのに……っ!!」
(娘よ、思い詰めるな!今はとにかくここから離れるのだ…!)
「う…うっああ…っ!!」
───────────────────
キーボードを指先で打つ音が、戦闘訓練室を見るための観測室に響く。
「あの子は完全に戦意喪失してるわ。さっさとロボットを停止させるから、戻ってきて。」
『え?私が止めたかったんだけどなぁ…まあいいや、わかったー。』
スピーカー越しに凛泉の声が聞こえる。アイはキーボードを操作してロボットを停止させようとする。
「…あの子は結局、何者だったんだろうな。」
「さあね。文字通り記憶喪失になった一般人なんでしょ。あの[封魔武具]もきっと誰でも使えるタイプの特級武具なら納得いくし。」
碧射は泣きながらその場に動かない少女を映像越しに見つめる。
(あの時…。)
碧射は少女が魔人に捕まった時のことを思い出す。あの時、あの剣の柄が光り動き出した。あれは、少女が操ったのだろう…だが、それが果たして「誰にでも使える武器」の効果だったのだろうか。
「なぁ、[封魔武具]は使用者を選ぶって、前に聞いたんだが…。」
「ん?それは確かにそういうデータはあるわ。まるで運命に導かれたかのように本来持つべきとも言える、相性の良い魔法所持者の元に行くって…。でも、そうじゃない誰でも使える、特級の中でも下の方に分類されるタイプもあるでしょ?」
「いやまあ、そうだが…。」
賽井流河がわざわざ所持し、自身の拠点に保管していた[封魔武具]…それが、少女と偶然にも出会う運命だとしたのなら、これは本当に「誰にでも使える武器」なのだろうか。碧射は頭を悩ませる。
「まあ、とりあえず今はあそこから出てもらってから話を進めよう。あの子も一度落ち着かせる必要がありそうだし…。」
碧射がそう言って部屋を移動しようとアイに背を向けると同時に、アイがキーボードを打つ手を止める。
「…は?何これ。」
「ん?どうした?」
アイの声に反応し碧射が巨大な画面を見る。そこには[ERROR]の文字が大きく現れていた。
「ロボットの制御が効かない…いや、それどころか出力がどんどん強くなってる!!」
「はぁ?オイそれって…不味くないか?」
アイが再びキーボードを打ち始める。しばらく操作した後、アイが舌打ちをした。
「何よこれ…いつの間にか財閥のデータベースがハッキングされてる!重要なデータの保管は他の深い場所に保管してるから無事だけど…訓練用ロボのデータがこっそり変更されてる!?」
「は?外部からココのデータがいじられたのか?どうやって…。」
「わかんないわよ!だからここで調べる!」
アイがホログラムキーボードを出す装置をポッケから取り出し展開する。装置からコードが伸び、目の前にある財閥のデータを操作するPC本体に接続する。ホログラムで構成されたキーボードが3つ、大量の情報が映っているモニターが大量に出現する。
「私はここでハッキングを解除すると同時にハッキング元を洗い出す!碧射はあの二人を手助けしに行って!そろそろロボットが暴走を始めるわ!」
「クソッ、今度は財閥内で不祥事かよ…!」
碧射は、壁に立てかけていた自身の使う銃器などが入ったバッグを掴み、廊下を走った。
───────────────────
「おっらぁぁ!!」
凛泉がロボットのプロテクターを引き剥がし、スイッチを押した(と言うよりは殴って壊した)。
〔ギュオォーンッ〕
電子音と獣の咆哮のような音を響かせながらロボットがもがき苦しむような動作をする。
「わざわざ変な動き追加するあたり、開発班のこだわりってのはよくわかんないねえ!」
凛泉が武器を構え直すと、ヘルメットの無線から音が聞こえる。
『あー、もしもし!?凛泉!生きてる!?』
「はぁ?どしたんアイちゃぁん。」
キーボードを操作する音と共にアイの声が無線から聞こえてくる。
『何者かが財閥にハッキングした形跡を見つけたの!しかもそのロボットの制御データが改竄されてた…つまりそれ、今からでも暴走するわよ!!』
「…はっ!?」
ロボットが巨大な咆哮を上げる。両腕を上げ、凛泉に向かって容赦なく振り下ろした。
「うおおおっ!!」
轟音と共に床が大きくへこみクレーターができる。
「おいおい嘘だろアイちゃん!?」
『悪いけど現実なのよこれが!今ハッキング元を洗い出して停止させるからそれまで持ち堪えて!』
「んなこと言ったってよぉ…!」
ロボットの翼部分に当たる部位(最も、巨体すぎて飛行には使えていない)が展開され、大量にミサイルが放たれる。
「ふっ…ざけんな!」
凛泉が左腕に纏った外殻の一部を血に戻し地面に撒く。撒いた血が変形し、長方形の壁を生成しミサイルを防いだ。ミサイルが着弾し煙が充満する。
「くそ、前が見えない…!」
すると、その煙の奥から何かが折れる音がいくつも響き出す。
「!?」
凛泉が形成した血の壁を砕きながら、巨大ロボの拳が煙の中迫ってきていた。とっさに体をガードする凛泉だが、その拳は凛泉をあっさりと吹き飛ばし広い部屋の壁まで飛ばした。壁に激突し、凛泉の背骨がメキメキと音を立てる。
「が…あっ!」
凛泉はめり込んだ壁から脱し地面に倒れる。外殻が解除され、手首と攻撃で受けた傷から血が溢れ出す。
「くっそ…本気で動かしたらこんなに痛えのかよアレ……!外殻が保たなかった…ッ!」
〔オオオオオオ!〕
ロボットがゆっくりと凛泉に向かって歩を進める。
「…り、凛泉ちゃん…っ!」
少女がことの重大さに気づき凛泉の元へ走る。
「来んな!戦えないんだからさっさと逃げろ!」
「……っ!」
少女は巨大なロボットを見上げる。その巨体を見て、少女は体が震えるのを自ら感じた。
(娘よ、きっともうすぐ碧ちか誰かが助けに来てくれるだろう。今は自分の身を守ることを優先するのだ!娘!)
「でも…でもっ!」
〔ゴオオオオオッ!!〕
ロボットが腕を大きく振り上げ、凛泉に向かって振り落とした。
(こんなくだらねえことで…クソ、ハッキングしたやつゼッテェ許さねえからな…。)
凛泉は体感、ゆっくりと流れる時間の中で少女の方をチラリと見る。
(まあ、あんたみたいな可愛い子がこれからどうなるか見てたかったんだけどな~私ゃ。)
ロボットの腕が、凛泉を押しつぶす。
「凛泉ちゃん!」
寸前に、少女が白い光を放った。
(…娘?)
少女の光は右腕に集中し、手首にブレスレットのような形で定着した。それと同時に、凛泉にも同じ箇所に光の腕輪が出現する。
(な、なんだアレは!?)
「………。」
凛泉は目を瞑り、自身の死を待っていた。しかしいつまで経っても痛みも何もこなかった。
「ん…死ぬってこんな痛くないもんかね…。手首切るのですらある程度痛いのに…。」
「凛泉ちゃん…。」
凛泉が声に気付き目を開ける。目の前には凛泉を抱き寄せる少女が、涙を流しながらも笑顔でいた。
「…アンタ、逃げろっつったでしょうが…。」
「ごめん…凛泉ちゃんが危ないと思ったら体が勝手に動いちゃって…。」
凛泉が首を動かし周りを見渡す。先程外殻が解けて地面に溢れた流血が、木のように太い柱を複数生やし少女と凛泉を庇っていた。
「何…これ?」
少女の右手首を見て、自信にも同じ腕輪がついていることを気づいた。
「えへへ、私も分かんない…でも…。」
少女が凛泉を優しく寝かせ、剣になった千変万化を構えて立ち上がる。
「今は、私が守るから!」
少女の手首の輪が光を強めた。すると、少女の体の傷から血が溢れ出し、少女の体を薄く、赤い膜で包み込んだ。
(あれって私の…凝血外殻!?なんであの子が…!?)
凛泉は柱を見て、これが自身の血であり、自身が操作して作った柱ではないことに気づく。そして、このロボットとの戦いの前に、少女の口に自らの血を飲ませたことを思い出した。
(まさか……。)
少女が柱の間をすり抜け、ロボットに向かって走り出す。ロボットがウィングを展開し、ミサイルを数発放つ。
「やぁぁっ!」
少女が千変万化で瞬間的に左腕に傷をつける。そこから吹き出した血が増幅し、細い剣に変化しミサイルに向かって数発放たれる。爆発音が響き渡り、煙が充満する。
〔ガァァッ!!〕
ロボットが雄叫びを上げ、左腕で周辺を薙ぎ払う。
「わっ!」
少女が足に血を纏わせ、バネ状にして自身を射出する。ロボットの腕をぎりぎりで回避し、ロボットの眼前まで飛び上がる。
「はぁぁっ!」
血の鞭を作り出し、胸元のプロテクターに向かって張り付ける。
「…そこに、最後のスイッチがある!」
凛泉が声を張り上げる。少女は優しく微笑み、鞭を剣に変化させプロテクターをテコの原理で引き剥がす。
〔オオオオ!〕
ロボットがミサイルを射出すると同時に、少女がスイッチを押す。爆音と共にロボットが後ろに倒れ込む。
「……っ!」
少女の安否を確認するため、凛泉が立ち上がりふらつきながら歩き出す。
「ん…?」
すると、倒れたロボットの体から赤い球体が転がり落ちてくる。凛泉の目の前で静止し、崩れ落ちると中に少女が座り込んでいた。
「えへへ、どうにか止められたね…。」
「……。」
凛泉は少女の無邪気な笑顔を見て、唖然としていた。
少女と凛泉の手首についた腕輪が、光の粒子となり消えた。
少女が剣を振り下ろすが、ロボットはその攻撃を難なく避けて少女を突きとばす。
「う…っ!」
「……。」
凛泉は他の機体を停止(一部破壊)し、一体残して少女と対面させて様子を見ていた。すると、VR用の装置に付いている無線機のスイッチをオンにする。
「ね~アイちゃん。あの子の戦闘訓練、もういいんじゃない?」
『何言ってるのよ、まだ偽神ロボと対面もしてないでしょ?』
「いや…なんつうか…。」
少女が千変万化を拾い、ロボットに攻撃を当てる。だが、ロボットが腕を振り上げると少女はアッサリと吹っ飛び地面に倒れる。
「あう…っ!」
「…弱すぎない?」
『…弱いわね。』
少女は何度もロボットに向かっていくが、そのたびに飛ばされ、硬い地面に体を打ち続けていた。
「うう…っ。」
凛泉がため息をつき、ロボットに向かって飛び掛かる。血で形成した鎖で足を縛って転ばせ、そのままナイフを投げてスイッチを反応させロボットを停止させた。目にも留まらぬ速さで行われたその動作に少女は開いた口が塞がらなかった。
「……。」
「アンタ、ホンットになんも魔法ないのな…。身体能力も並…以下。それじゃ同年代の一般人との喧嘩にだって勝てやしないよ。」
凛泉が少女が飛ばされた際にできた腕の傷を指で撫で、その血を舐める。
「ご、ごめ…ん。」
凛泉は血を舐めた後、自分の外殻を血に一部戻し、それを指ですくい少女の口に入れる。
「んむっ!?」
「ま、私に謝られてもって感じだけどね。戦力外なら普通に保護されるだけで、何も問題はないでしょ?まあ、その[封魔武具]は回収されるだろうけどさ。」
指を引き抜かれ、少女が軽く咳き込む。
「え…っ。」
「ちなみに今血を舐めさせたのは特に意味ないよ。」
「な、ないのぉ…?」
すると突然、部屋の天井からアナウンスが流れ始めた。
『偽神の反応を感知しました。前方にいる偽神に対して迎撃を開始してください。』
凛泉と少女が同じ方向を振り向く。そこには、それまでのロボットとは格が違うサイズ感と武装をつけられた巨大なロボットが佇んでいた。
ギギギギッと関節部から音を立てながら、ロボットがゆっくりと動き出す。
「あれさっさと止めて戻るよ。今までのヤツと違ってスイッチは数箇所あるし、プロテクターの下とかに隠れてるから一筋縄じゃいかない訳だけど…。」
凛泉が左手首の外殻を一時的に外し、ナイフで手首の傷をさらに増やす。そこから溢れ出した血が急激に形を変え、2本目の剣を形成した。
「私に任せてアンタは休んでな…あ、てかさ。」
凛泉が振り向いて少女と目が合う。
「な、なに?」
「アンタのことずっと「アンタ」って呼んでるけどさ…ぶっちゃけこれから呼べばいいわけ?」
「え…。」
凛泉の質問に答える前に、巨大ロボットが拳を振り下ろす。
「おっとぉっ!」
凛泉が少女を後ろに蹴り飛ばし、自身はもう片足で前方に飛んだ。轟音と共に床が大きく揺れる。
「ま、それは後でいいや!今はそこで休んでな!」
少女は蹴り飛ばされた勢いで地面に倒れる。
「…っ!」
草の映像で隠されているが地面は硬い床であるため、そこに倒れた少女は全身に痛みを覚え顔を歪める。頬や膝に傷がつき、そこから血が垂れる。
「私、は……何も…できないのかな…。」
自身の頬の血を拭い、少女は俯く。
(娘よ、弱音を吐くでない。人にはそれぞれできることが異なると言うだろう?)
少女はロボットと戦う凛泉の姿を見つめる。
「私は…戦えない…。」
少女は村に現れた黒い魔人を思い出す。あの時も、確実に千変万化の攻撃が入る瞬間に手を止めた。
「私は…傷つけるのが…怖い…。」
少女は、恐れていたのだ。自身が誰かを傷つけることを。それがたとえ魔人であれ、自身が剣を握り生き物を傷つけることを、恐怖していたのだ。
「私には…名前も、強さも…何もない空っぽ、なんだ…。私が少しでも強ければ、流河さんだって助けられたかもしれないのに……っ!!」
(娘よ、思い詰めるな!今はとにかくここから離れるのだ…!)
「う…うっああ…っ!!」
───────────────────
キーボードを指先で打つ音が、戦闘訓練室を見るための観測室に響く。
「あの子は完全に戦意喪失してるわ。さっさとロボットを停止させるから、戻ってきて。」
『え?私が止めたかったんだけどなぁ…まあいいや、わかったー。』
スピーカー越しに凛泉の声が聞こえる。アイはキーボードを操作してロボットを停止させようとする。
「…あの子は結局、何者だったんだろうな。」
「さあね。文字通り記憶喪失になった一般人なんでしょ。あの[封魔武具]もきっと誰でも使えるタイプの特級武具なら納得いくし。」
碧射は泣きながらその場に動かない少女を映像越しに見つめる。
(あの時…。)
碧射は少女が魔人に捕まった時のことを思い出す。あの時、あの剣の柄が光り動き出した。あれは、少女が操ったのだろう…だが、それが果たして「誰にでも使える武器」の効果だったのだろうか。
「なぁ、[封魔武具]は使用者を選ぶって、前に聞いたんだが…。」
「ん?それは確かにそういうデータはあるわ。まるで運命に導かれたかのように本来持つべきとも言える、相性の良い魔法所持者の元に行くって…。でも、そうじゃない誰でも使える、特級の中でも下の方に分類されるタイプもあるでしょ?」
「いやまあ、そうだが…。」
賽井流河がわざわざ所持し、自身の拠点に保管していた[封魔武具]…それが、少女と偶然にも出会う運命だとしたのなら、これは本当に「誰にでも使える武器」なのだろうか。碧射は頭を悩ませる。
「まあ、とりあえず今はあそこから出てもらってから話を進めよう。あの子も一度落ち着かせる必要がありそうだし…。」
碧射がそう言って部屋を移動しようとアイに背を向けると同時に、アイがキーボードを打つ手を止める。
「…は?何これ。」
「ん?どうした?」
アイの声に反応し碧射が巨大な画面を見る。そこには[ERROR]の文字が大きく現れていた。
「ロボットの制御が効かない…いや、それどころか出力がどんどん強くなってる!!」
「はぁ?オイそれって…不味くないか?」
アイが再びキーボードを打ち始める。しばらく操作した後、アイが舌打ちをした。
「何よこれ…いつの間にか財閥のデータベースがハッキングされてる!重要なデータの保管は他の深い場所に保管してるから無事だけど…訓練用ロボのデータがこっそり変更されてる!?」
「は?外部からココのデータがいじられたのか?どうやって…。」
「わかんないわよ!だからここで調べる!」
アイがホログラムキーボードを出す装置をポッケから取り出し展開する。装置からコードが伸び、目の前にある財閥のデータを操作するPC本体に接続する。ホログラムで構成されたキーボードが3つ、大量の情報が映っているモニターが大量に出現する。
「私はここでハッキングを解除すると同時にハッキング元を洗い出す!碧射はあの二人を手助けしに行って!そろそろロボットが暴走を始めるわ!」
「クソッ、今度は財閥内で不祥事かよ…!」
碧射は、壁に立てかけていた自身の使う銃器などが入ったバッグを掴み、廊下を走った。
───────────────────
「おっらぁぁ!!」
凛泉がロボットのプロテクターを引き剥がし、スイッチを押した(と言うよりは殴って壊した)。
〔ギュオォーンッ〕
電子音と獣の咆哮のような音を響かせながらロボットがもがき苦しむような動作をする。
「わざわざ変な動き追加するあたり、開発班のこだわりってのはよくわかんないねえ!」
凛泉が武器を構え直すと、ヘルメットの無線から音が聞こえる。
『あー、もしもし!?凛泉!生きてる!?』
「はぁ?どしたんアイちゃぁん。」
キーボードを操作する音と共にアイの声が無線から聞こえてくる。
『何者かが財閥にハッキングした形跡を見つけたの!しかもそのロボットの制御データが改竄されてた…つまりそれ、今からでも暴走するわよ!!』
「…はっ!?」
ロボットが巨大な咆哮を上げる。両腕を上げ、凛泉に向かって容赦なく振り下ろした。
「うおおおっ!!」
轟音と共に床が大きくへこみクレーターができる。
「おいおい嘘だろアイちゃん!?」
『悪いけど現実なのよこれが!今ハッキング元を洗い出して停止させるからそれまで持ち堪えて!』
「んなこと言ったってよぉ…!」
ロボットの翼部分に当たる部位(最も、巨体すぎて飛行には使えていない)が展開され、大量にミサイルが放たれる。
「ふっ…ざけんな!」
凛泉が左腕に纏った外殻の一部を血に戻し地面に撒く。撒いた血が変形し、長方形の壁を生成しミサイルを防いだ。ミサイルが着弾し煙が充満する。
「くそ、前が見えない…!」
すると、その煙の奥から何かが折れる音がいくつも響き出す。
「!?」
凛泉が形成した血の壁を砕きながら、巨大ロボの拳が煙の中迫ってきていた。とっさに体をガードする凛泉だが、その拳は凛泉をあっさりと吹き飛ばし広い部屋の壁まで飛ばした。壁に激突し、凛泉の背骨がメキメキと音を立てる。
「が…あっ!」
凛泉はめり込んだ壁から脱し地面に倒れる。外殻が解除され、手首と攻撃で受けた傷から血が溢れ出す。
「くっそ…本気で動かしたらこんなに痛えのかよアレ……!外殻が保たなかった…ッ!」
〔オオオオオオ!〕
ロボットがゆっくりと凛泉に向かって歩を進める。
「…り、凛泉ちゃん…っ!」
少女がことの重大さに気づき凛泉の元へ走る。
「来んな!戦えないんだからさっさと逃げろ!」
「……っ!」
少女は巨大なロボットを見上げる。その巨体を見て、少女は体が震えるのを自ら感じた。
(娘よ、きっともうすぐ碧ちか誰かが助けに来てくれるだろう。今は自分の身を守ることを優先するのだ!娘!)
「でも…でもっ!」
〔ゴオオオオオッ!!〕
ロボットが腕を大きく振り上げ、凛泉に向かって振り落とした。
(こんなくだらねえことで…クソ、ハッキングしたやつゼッテェ許さねえからな…。)
凛泉は体感、ゆっくりと流れる時間の中で少女の方をチラリと見る。
(まあ、あんたみたいな可愛い子がこれからどうなるか見てたかったんだけどな~私ゃ。)
ロボットの腕が、凛泉を押しつぶす。
「凛泉ちゃん!」
寸前に、少女が白い光を放った。
(…娘?)
少女の光は右腕に集中し、手首にブレスレットのような形で定着した。それと同時に、凛泉にも同じ箇所に光の腕輪が出現する。
(な、なんだアレは!?)
「………。」
凛泉は目を瞑り、自身の死を待っていた。しかしいつまで経っても痛みも何もこなかった。
「ん…死ぬってこんな痛くないもんかね…。手首切るのですらある程度痛いのに…。」
「凛泉ちゃん…。」
凛泉が声に気付き目を開ける。目の前には凛泉を抱き寄せる少女が、涙を流しながらも笑顔でいた。
「…アンタ、逃げろっつったでしょうが…。」
「ごめん…凛泉ちゃんが危ないと思ったら体が勝手に動いちゃって…。」
凛泉が首を動かし周りを見渡す。先程外殻が解けて地面に溢れた流血が、木のように太い柱を複数生やし少女と凛泉を庇っていた。
「何…これ?」
少女の右手首を見て、自信にも同じ腕輪がついていることを気づいた。
「えへへ、私も分かんない…でも…。」
少女が凛泉を優しく寝かせ、剣になった千変万化を構えて立ち上がる。
「今は、私が守るから!」
少女の手首の輪が光を強めた。すると、少女の体の傷から血が溢れ出し、少女の体を薄く、赤い膜で包み込んだ。
(あれって私の…凝血外殻!?なんであの子が…!?)
凛泉は柱を見て、これが自身の血であり、自身が操作して作った柱ではないことに気づく。そして、このロボットとの戦いの前に、少女の口に自らの血を飲ませたことを思い出した。
(まさか……。)
少女が柱の間をすり抜け、ロボットに向かって走り出す。ロボットがウィングを展開し、ミサイルを数発放つ。
「やぁぁっ!」
少女が千変万化で瞬間的に左腕に傷をつける。そこから吹き出した血が増幅し、細い剣に変化しミサイルに向かって数発放たれる。爆発音が響き渡り、煙が充満する。
〔ガァァッ!!〕
ロボットが雄叫びを上げ、左腕で周辺を薙ぎ払う。
「わっ!」
少女が足に血を纏わせ、バネ状にして自身を射出する。ロボットの腕をぎりぎりで回避し、ロボットの眼前まで飛び上がる。
「はぁぁっ!」
血の鞭を作り出し、胸元のプロテクターに向かって張り付ける。
「…そこに、最後のスイッチがある!」
凛泉が声を張り上げる。少女は優しく微笑み、鞭を剣に変化させプロテクターをテコの原理で引き剥がす。
〔オオオオ!〕
ロボットがミサイルを射出すると同時に、少女がスイッチを押す。爆音と共にロボットが後ろに倒れ込む。
「……っ!」
少女の安否を確認するため、凛泉が立ち上がりふらつきながら歩き出す。
「ん…?」
すると、倒れたロボットの体から赤い球体が転がり落ちてくる。凛泉の目の前で静止し、崩れ落ちると中に少女が座り込んでいた。
「えへへ、どうにか止められたね…。」
「……。」
凛泉は少女の無邪気な笑顔を見て、唖然としていた。
少女と凛泉の手首についた腕輪が、光の粒子となり消えた。
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今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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