化物のすすめ(好きになるあなたへ)

リュウノスケ

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第27話 バスケがしたいです

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男子バスケに新たな仲間が3人増えて、チームとして再始動し始めて数か月が過ぎ季節は秋を迎えようとしていた。
僕の膝は、普通の生活をするのであれば特に問題ない状態まで回復していた。
病院の先生からも、痛みがでないのであればバスケを再開しても良いと言われていたが、この病気は治るものではないので、無理するとすぐ再発するので注意しなさいとクギを刺されていた。

いきなりバスケを再開するわけには行かないため、朝のジョギングから再開することに決めた。
久しく師匠と会っていなかったことも、理由の一つだった。

いつもより少し早く起きジョギングを再開した、天神山のジョギングコースを軽い足取りで走りながら空を眺めた。
東に見える神社の社の上には、うろこ雲が浮かんでおりオレンジ色に色づき始めていた。
神社の本殿の入り口をくぐり、拝殿へ向かった。

「かなたよ 久しいな」
「息災であったか?」

師匠がいつもの低い声で、語りかけてきた。
息災でなかったことは知ってるハズなのに、最近顔を見せなかった事への当てつけだろうか?
そんなことを考えながら、まずは素直に謝罪することにした。

「師匠、ご無沙汰しております」
「お参りを怠り、申し訳ありませんでした」
「膝のケガが原因でしばらく動けない状態が続いており、こちらへの参拝が滞っておりました」

そう切り出した僕に、

「かすみから、膝のケガのことは聞いている」
「というより、直してくれと何度も何度もお願いされたぞ」
「そなたがどれだけバスケが好きかとか、どれだけバスケを勉強しているかとかを延々と聞かされ、耳にタコが出来そうだったぞ」
「あまり役に立たない自分の膝と交換してくれなどと、無理難題を持ちかけられ、閉口しとるよ」
「しかし、かすみはそなたと一緒に練習を見ながら、色々話すことが出来て楽しそうにはしていだぞ」
「おっと、この事はそなたには内緒にしてくれと、お願いされていたから、くれぐれも内密に」

そう語る師匠は、どこか嬉しそうな感じの声色をしていた。
かすみは、そんなことを師匠にお願いしていたのかと、とても嬉しい気持ちになった。
僕からもこのオスグッド病について、なんとかならないかと師匠に相談してみたが、医者ではないから治せないとそっけなく答えられた。
治せるのであれば、かすみの病気を治すのが先だろうとツッコまれて、それ以上お願いすることは叶わなかった。

そんな感じで、久しぶりの師匠との会話も無事済ませて、家まで帰ってきていた。
今まで封印していた、バスケの道具をスポーツバックに詰め、ランドセルをしょって登校した。

その日の放課後、帰りの挨拶が終わるとすぐに、体育館に向かった。
久しぶりの練習着に着替え、バスケットシューズの靴ひもを下から順番に締めながら、靴の感触を確かめた。
軽くその場でジャンプして、膝の痛みの具合を確かめる。
大丈夫だ。痛みは無い。
入念に、膝の負担を少なくするためのストレッチを行った。
調整を兼ねて、軽めのメニューのみ参加するということで、久しぶりの練習をチームのみんなと一緒に汗を流しながら、進めた。
バスケのプレーの感触は、当然ながら体が思考について来れない状況だったが、とても楽しい時間だった。
それから数週間をかけて、徐々に負荷をかけながら、どこまで出来るか調整しながら練習に参加していた。

順調に、体の慣らし運転は出来ている感じだったため、ゲーム形式のメニューにも参加しようと考えていた。
その日の最後の練習メニューである紅白戦に参加することにした。

ディフェンスの負荷を軽減するために、ハーフコートのゾーンディフェンスを選択していた。
オフェンスはドリブル突破を封印し、パス&ランでボールをつなぎ、シュートまで持っていくことに注力していた。

相手チームのキャプテンのシュートがリングに弾かれ、はずんだ。

「リバウンド!」

掛け声とともに、近くにいる相手チームのメンバーにを背負うようにスクリーンアウトを掛け、一番長身のキートが、リバウンドのボールを取るためにジャンプした。

ガシッ ドン

しっかりと両手てボールをキャッチし、両足を広げて踏ん張った。
僕は、そのタイミングを見計らって、右サイドに広がるように、走り出す。

「キート」

右手を前に出し、ボールを要求する。
キートからの素早いチェストパスが、走る前方に送られた。
しかし、送られたボールは、少し前過ぎた。
僕の前方でワンバウンドし、サイドラインを越えようとしていた。

走れば間に合う。
そう考えた僕は、加速をつけラインを割ったボールにジャンプして、空中でキャッチした。

「ケンタ」

僕の後ろをフォローするように走っているケンタに向かってリターンパスを返す。
一瞬の出来事だ。
空中を飛びながら、無事リターンパスがケンタに渡ったことを見送ると同時に、体が滑るように床に着地していた。
汗をかいていたTシャツは、スケートのように僕の体を運んで行く。

ヤバい。
頭からベンチに突っ込みそうになることが分かったため、とっさに両手で後頭部を抱えるように丸まろうとしてみたが、体の向きが反転し、足先から椅子に突っ込む体勢となっていた。

ガッシャーン ガラガラ

そのまま、ベンチに並べてある椅子に突っ込んだ。

!!!

半身で滑るその先にはパイプ椅子の足が迫り、下にしていた右膝が直撃していた。
膝がカッと熱くなり、背筋から脳に向かって、電気が走った。

やってしまった。
その場でうずくまり、痛む膝を抱えながら、色々考えてしまった。

この熱さは、ヤバいヤツだ。
ただの練習だぞ、ボールが外に出ることくらいで、なぜ飛び込んだ。
膝に爆弾を抱えていることは、自分が一番わかっているハズじゃないか。
慎重に、負荷をかけながら順調に、やってきていたじゃないか。
僕は、バカだ。大馬鹿野郎だ。
何をやっている。
呆れて、物も言えないじゃないか。

全身から嫌な汗が吹き出していた。
こんな時には、涙も出てこない。
自分への怒りと痛みで、全身がたぎっていた。

それから、病院へ担ぎ込まれた僕は、医師からバスケ禁止の宣告を受けていた。

ぐるぐる巻きに包帯でまかれた腫れあがった膝を見れば、言われてもしょうがない状態だとは、理解できるはずだったのだが、心が受け付けてくれなかった。
僕からバスケを取り上げないで欲しかった。

「先生...バスケがしたいです」

そう呟きながら、先生の顔が、ゆらゆらと揺れ、止まっていたはずの涙が、とめどなく流れ落ちた。
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