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第32話 I Love You
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日々の練習にも熱が入り、それぞれが自分の課題クリアに向けてレベルアップが進められていた。
体育館の壁には、「大会まであと56日!!」と張り出されている。
そろそろチームとしての課題を明確にするために、上位常連のチームとの練習試合を設定してもらえるようにお願いし、その日が今週末の日曜日に決まっていた。
チームとしてのオフェンス・ディフェンスそれぞれの戦術と戦略を説明し、練習メニューに取り入れて繰り返し実施してきている。
ある程度チームとしての方向性が各メンバーに浸透して来ている実感が、持てはじめていた。
練習試合を明日に控えた夜、僕は今まで準備して来たことを振り返っていた。
このチームなら十分戦えるレベルにまで達しており、後は実践による経験を積むだけだ。
そう考えてはいたものの、心配性の僕はどうせ眠れないだろうと考えていた。
机の引き出しから日課となっているクロッキー帳を取り出し、窓の外に見える夜空を眺めながら昇り始めた輝く満月をスケッチしていた。
このスケッチは、かすみからの提案だった。
それぞれ自分の部屋で、一緒に夜空の月を描こうと誘われていた。
今夜は部分月食の日となっており、夜の7時半から10時にかけて半分まで月が欠けて満ることになっていた。
黒の色鉛筆で、粗目の斜線で夜空を描き、昇りながら欠けて満ちる月を時間を空けて順番に描いていった。
かすみは今どんな月を一緒に描いているのだろう?
同じ月を見て相手の事を思いながら絵を描く時間は、とても有意義なものとなっていた。
かすみのおかげで、握り拳サイズの空を描き続けていた僕は、最近では思うような空が描けるようになっていた。
8時半くらいには半分まで欠けた月を黄色で描き、まだ完全に暗くなっていない夜空に浮かぶ欠けた半分をぎんいろの色鉛筆で描く、欠けた部分の月も見えているところをぎんいろで表現してみた。
明日の試合には かすみも応援に来てくれることになっており、その時に書いたこの絵を交換することにしていた。
月食も終わり満月が一番高くなるころ日付が変わろうとしていた、無心で書き続けたことで心も落ち着きを取り戻し、眠れそうな感じになっていた。
月夜のスケッチの脇に一言、かすみに思いが届くように青の色鉛筆でコメントを入れていた。
「月が綺麗ですね」
翌朝、日課のランニングでクロッキー帳を片手にかすみの所に向かった。
朝に交換する約束をしていたわけではないのだが、早く絵を渡したくて思わず持って来てしまっていた。
天神山への階段を一気に駆け上がり、息を整えるために振り返り東の空を見ると、朝日に赤く染まり始めた空が広がっていた。
きれいな朝焼けの空だった。この空をかすみと一緒に見れたらいいなと思いながら、振り返ると本殿の階段から降りてくるジャージ姿のかすみの姿があった。
にっこり笑いながら、近づいてくる彼女の姿に見惚れながら僕はその場に立ち尽くしていた。
「おはよう かなた」
「わたしの格好 変かな?」
そう言いながら僕の目の前に立つ君は、吸い込まれそうな深い桜色の瞳で僕を見つめていた。
「おはよう ぜんぜん変じゃないよ」
「かすみのジャージ姿も僕は、好きだな」
耳を真っ赤にしながらそう答えるのが精一杯だった僕は、持って来たクロッキー帳から昨日描いた絵のページを開いて、切り取ってかすみに渡していた。
「かなた うまくなったね~」
「えっ!!!」
そう言って、かすみが固まった。僕のコメントに気が付いたようだ。
本好きのかすみには、その意味が伝わるだろうと思って書いたコメントだった。
しばらく固まっていた彼女は、自分も持って来ていたクロッキー帳から描いた絵を切り取って渡してくれた。
今度は、僕が固まる番だった。
そこには、半分になったレモンいろの下弦の月と、うっすらと見える上弦の月がぎんいろで描かれていた。
そして一言コメントが添えられていた。
「月が綺麗ですね」
同じ月を見て、同じ事を思い、同じコメントを書いていた。
こんなに嬉しいことはなかった。
かすみが僕の事を好きだという事はわかっていたのだが、具体的な言葉として伝えたことが無かったため、一度ちゃんと伝えておこうと思いこの言葉を添えていた。
かすみも同じことを考え、この言葉を送ってくれていた。
お互いが同じ言葉を送りあっている。
この奇跡に感謝して、今の気持ちを書き留めておきたかった。
「かすみ コメントに返事を書きたいなぁ~」
「色鉛筆取って来て欲しいんだけど、どうかな?」
「それ 素敵」
「ちょっと待ってて、取ってくる」
そう言ってかすみは、階段を駆け上がって行った。
しばらく待っていると、彼女は色鉛筆のケースを持って戻って来た。
「お待たせ~ かなた どうぞ」
渡された色鉛筆ケースから、青色の色鉛筆を取り出しかすみのコメントの下に一言添えた。
「ずっと一緒に見ていたいです」
これからどれだけ同じ時を繰り返しても、ずっと変わらず、かすみのために僕が出来るすべての事を行うという決意を込めて、君の気持ちに寄り添うコメントとして記した。
かすみは部屋に戻った時に返事のコメントを書き足していたらしく、少し意地悪そうな笑顔で僕に手渡した。
そこには、こう記されていた。
「死んでもいいわ」
定番の返しと言えば定番なのだが、シャレにならないそのコメントに僕は絶句した。
体育館の壁には、「大会まであと56日!!」と張り出されている。
そろそろチームとしての課題を明確にするために、上位常連のチームとの練習試合を設定してもらえるようにお願いし、その日が今週末の日曜日に決まっていた。
チームとしてのオフェンス・ディフェンスそれぞれの戦術と戦略を説明し、練習メニューに取り入れて繰り返し実施してきている。
ある程度チームとしての方向性が各メンバーに浸透して来ている実感が、持てはじめていた。
練習試合を明日に控えた夜、僕は今まで準備して来たことを振り返っていた。
このチームなら十分戦えるレベルにまで達しており、後は実践による経験を積むだけだ。
そう考えてはいたものの、心配性の僕はどうせ眠れないだろうと考えていた。
机の引き出しから日課となっているクロッキー帳を取り出し、窓の外に見える夜空を眺めながら昇り始めた輝く満月をスケッチしていた。
このスケッチは、かすみからの提案だった。
それぞれ自分の部屋で、一緒に夜空の月を描こうと誘われていた。
今夜は部分月食の日となっており、夜の7時半から10時にかけて半分まで月が欠けて満ることになっていた。
黒の色鉛筆で、粗目の斜線で夜空を描き、昇りながら欠けて満ちる月を時間を空けて順番に描いていった。
かすみは今どんな月を一緒に描いているのだろう?
同じ月を見て相手の事を思いながら絵を描く時間は、とても有意義なものとなっていた。
かすみのおかげで、握り拳サイズの空を描き続けていた僕は、最近では思うような空が描けるようになっていた。
8時半くらいには半分まで欠けた月を黄色で描き、まだ完全に暗くなっていない夜空に浮かぶ欠けた半分をぎんいろの色鉛筆で描く、欠けた部分の月も見えているところをぎんいろで表現してみた。
明日の試合には かすみも応援に来てくれることになっており、その時に書いたこの絵を交換することにしていた。
月食も終わり満月が一番高くなるころ日付が変わろうとしていた、無心で書き続けたことで心も落ち着きを取り戻し、眠れそうな感じになっていた。
月夜のスケッチの脇に一言、かすみに思いが届くように青の色鉛筆でコメントを入れていた。
「月が綺麗ですね」
翌朝、日課のランニングでクロッキー帳を片手にかすみの所に向かった。
朝に交換する約束をしていたわけではないのだが、早く絵を渡したくて思わず持って来てしまっていた。
天神山への階段を一気に駆け上がり、息を整えるために振り返り東の空を見ると、朝日に赤く染まり始めた空が広がっていた。
きれいな朝焼けの空だった。この空をかすみと一緒に見れたらいいなと思いながら、振り返ると本殿の階段から降りてくるジャージ姿のかすみの姿があった。
にっこり笑いながら、近づいてくる彼女の姿に見惚れながら僕はその場に立ち尽くしていた。
「おはよう かなた」
「わたしの格好 変かな?」
そう言いながら僕の目の前に立つ君は、吸い込まれそうな深い桜色の瞳で僕を見つめていた。
「おはよう ぜんぜん変じゃないよ」
「かすみのジャージ姿も僕は、好きだな」
耳を真っ赤にしながらそう答えるのが精一杯だった僕は、持って来たクロッキー帳から昨日描いた絵のページを開いて、切り取ってかすみに渡していた。
「かなた うまくなったね~」
「えっ!!!」
そう言って、かすみが固まった。僕のコメントに気が付いたようだ。
本好きのかすみには、その意味が伝わるだろうと思って書いたコメントだった。
しばらく固まっていた彼女は、自分も持って来ていたクロッキー帳から描いた絵を切り取って渡してくれた。
今度は、僕が固まる番だった。
そこには、半分になったレモンいろの下弦の月と、うっすらと見える上弦の月がぎんいろで描かれていた。
そして一言コメントが添えられていた。
「月が綺麗ですね」
同じ月を見て、同じ事を思い、同じコメントを書いていた。
こんなに嬉しいことはなかった。
かすみが僕の事を好きだという事はわかっていたのだが、具体的な言葉として伝えたことが無かったため、一度ちゃんと伝えておこうと思いこの言葉を添えていた。
かすみも同じことを考え、この言葉を送ってくれていた。
お互いが同じ言葉を送りあっている。
この奇跡に感謝して、今の気持ちを書き留めておきたかった。
「かすみ コメントに返事を書きたいなぁ~」
「色鉛筆取って来て欲しいんだけど、どうかな?」
「それ 素敵」
「ちょっと待ってて、取ってくる」
そう言ってかすみは、階段を駆け上がって行った。
しばらく待っていると、彼女は色鉛筆のケースを持って戻って来た。
「お待たせ~ かなた どうぞ」
渡された色鉛筆ケースから、青色の色鉛筆を取り出しかすみのコメントの下に一言添えた。
「ずっと一緒に見ていたいです」
これからどれだけ同じ時を繰り返しても、ずっと変わらず、かすみのために僕が出来るすべての事を行うという決意を込めて、君の気持ちに寄り添うコメントとして記した。
かすみは部屋に戻った時に返事のコメントを書き足していたらしく、少し意地悪そうな笑顔で僕に手渡した。
そこには、こう記されていた。
「死んでもいいわ」
定番の返しと言えば定番なのだが、シャレにならないそのコメントに僕は絶句した。
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