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第四話
君の隣で
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夏休みに入って、部活にも入っていない俺は、家で時間を持て余したのもあって、夏休みの課題をすることにした。あれから数回、悠とはLINEでのやり取りはしたけど、悠はバイトが忙しいようで、なかなか予定が合わなかった。
そんな時、スマホが鳴った。
電話が来たのは悠からだった。
「もしもし」
「瑛斗?今電話大丈夫?」
「大丈夫」
「良かった。今日ってなんか予定ある?」
「何もないよ」
「じゃぁ、映画行かない?」
「ああ、良いよ。行こう。14時ぐらいでも良い?」
「うん、じゃぁ映画館の近くの駅前に集合でよろしく。楽しみにしてるから」
「うん、俺も。じゃぁまた後で」
そう言って電話を切った。
俺は、15分早く駅に着いてしまった。
(楽しみすぎて、早く来すぎた……)
俺は悠が来るまで、近くの本屋で時間を潰すことにした。
数冊本を立ち読みしていると、悠から電話がかかってきた。
「瑛斗?今どこいる?」
「映画館の近くの本屋。悠もう映画館着いた?」
「うん」
「じゃぁ、そっち向かうわ」
「おっけ。待ってる」
映画館に向かうと、悠が入り口で待っていた。
アイドルみたいに存在感があって、すれ違う人全員が悠を見ているのがわかる。
(やっぱ悠ってすごいんだな……)
そんなことを思いながら、立ち止まっていると悠が声をかけて、近寄ってきた。
(悠の私服、お洒落で俺の好きな感じの服だな……)
「瑛斗!」
「悠、ごめん待たせて」
「今来たところだし。てか、瑛斗の方が先来てたでしょ?待たせてよね?」
「……楽しみだから早く着きすぎただけだから、大丈夫」
「俺も楽しみにしてた。嬉しい。じゃぁ行こう」
俺達は映画館に入ると、夏休みなのもあってか、人が混雑している。
悠はそれを気にしてか、俺の少し前を歩いてくれた。
「瑛斗大丈夫?はぐれないように俺の服かカバン持てそう?」
「うん、ありがと……」
俺は、服を掴んで伸ばしてはいけないと思い、悠のカバンの紐の端を持つことにした。
(カバンの紐を持つことに少しためらいはあったけど、意外と大丈夫で安心した。これって遥だから……?)
「そういえば今日、何の映画見る?」
俺は悠の後ろを歩きながら聞いた。
「チェンソーマン」
「俺も見たいと思ってた!」
「良かった。瑛斗がチェンソーマンのシャーペン持ってたから、好きなのかと思って、予約しといた」
(俺がチェンソーマンのシャーペン持ってること、知ってたんだ……)
「やばい、嬉しい。それと予約してくれてありがとう。てか、チケット代払う」
「俺が誘ったし、いいよ。気にしないで」
悠は、俺の方を向いて優しく笑った。
「ありがとう」
「てか、瑛斗なんか食べる?」
「飲み物買いたいかも」
「じゃぁ、買いに行こう」
映画の予約時間に余裕があったから、俺達は、売店に向かうことにした。
「飲み物何にする?悠はジンジャエール?」
「うん、瑛斗にもう俺の好きな飲み物覚えられてるじゃん笑」
「うん、もう覚えた笑」
「瑛斗は何にする?ファンタグレープないかも」
「それ思った、じゃぁファンタメロンにしよ。それとここは悠の分も払わせて。さっきチケット代出してもらったし」
「じゃぁご馳走してもらおうかな」
「うん」
「ありがと」
売店で俺達はドリンクを買ったあと、近くのイスに隣同士で座った。
俺は、持ってきた除菌シートで手やドリンクの表面を執拗に拭いてから、ドリンクに口をつけた。この一連の動作を無意識にやっていたから、悠に引かれた……と思って、慌てて隣に座っている悠に視線を移すと、悠は気にせず片手でスマホを触りながらドリンクを飲んでいて、ほっとした。
「そろそろ行こっか」
「うん」
映画の上映時間になり、俺達はチケットの座席に向かった。
チェンソーマンの映画が、最近上映されたばかりなのもあって、やっぱりほとんどの座席が埋まっている。
悠が予約してくれた座席は、一番後ろの列の真ん中あたりの通路側とその隣だった。はるかが奥の席に座り、俺が通路側に座った。些細なことでも悠は気が付いてくれるから、気遣って通路側の席を俺に譲ってくれたのかもしれないと思った。それだったら嬉しい。悠の行動一つ一つに優しさを感じる。
映画の中盤になり、少し画面が光った時に遥の目に涙が見えた気がした。気のせいか……。
でも俺は無意識に右手でハンカチを取り、悠に近づいていた。
「瑛斗……?」
「あ、これ、ハンカチ。洗ってるから綺麗なやつだから」
「そう、じゃなくて」
「泣いてなかった?」
「うん、大丈夫。でもありがと」
俺は、ハンカチをカバンに戻しながら恥ずかしさでいっぱいになっていた。
「かわりに手繋いでいい?これも潔癖症克服の練習のためだと思って」
「え……?」
「誰も俺達のこと見てないから大丈夫」
(男同士で手を繋ぐって普通なのか……?さっきの恥ずかしさでよくわからなくなってきた……)
悠の右手が俺の左手に触れる。手を繋ぐと言っても小指だけを絡めるようにして、悠はまっすぐ前を向いて映画を見ている。俺はその隣で映画に集中できそうになかった。
「なんかドキドキしてきた」
悠がそんなことを言うから、余計に意識してしまう……。でも、映画の内容のことなのか、今の状況のことなのか俺にはわからなくなっていた。でも、不思議と嫌じゃなかった。悠だからってこと……?
「嫌じゃない?嫌だったらやめるから」
「……大丈夫」
「良かった」
悠は安心したような顔をしていた。
(もしかして悠も緊張してる……?)
映画が終わり、チェンソーマンのグッズを見ることにした。
「瑛斗はチェンソーマンの誰が好き?」
「映画見たらレゼがかわいすぎた」
「それ、わかる!」
「映画、めっちゃ良かった。悠と来られて良かったわ。本当ありがとう」
「うん、俺も。てか、記念にこれお揃いにしない?」
そう言った暖の手にはポチタの小さいマスコットを手に持っていた。
「悠、お揃いとか嫌じゃない?」
「嫌なわけないじゃん。記念に持ちたい。瑛斗と初めて映画行った記念。瑛斗は?」
「うん、俺も」
俺達は、2人でお揃いのマスコットを買って、映画館を出た。
「この後どうする?」
「瑛斗行きたいところとかある?」
「ゲーセンとか?」
「良いじゃん!ゲーセン近くにあるし、行こう」
そう言って、俺達はゲーセンに向かった。
そこには、UFOキャッチャーやコインゲーム、色々なゲームが並んでいる。
「なあ瑛斗、マリカと太鼓の達人とホラーゲームで3本勝負しない?」
「うん、いいよ」
「負けたら勝った相手のお願い聞くとかってどう?」
「わかった、負けないけど笑」
「そんなこと言ってて良いの~?」
まずは、マリカで勝負をすることにした。
俺は、できるだけカートの端に座り、ハンドルを握る前に持参したアルコールスプレーを入念に手に塗り広げていた俺に、悠は気づいていただろうけど、気にせず楽しそうにプレイするキャラクターを選びながら話しかけて来た。他の人なら怪訝な顔をしてもおかしくはないはずなのに、悠はそれを見ていても、嫌な顔一つせず接してくれる。それも自然と。それが逆に俺は安心する。
ステージを選び、ゲームが進んでいくと、最初はかなり接戦だったけど、普段からゲームをしているからか、途中からは俺がかなりの差をつけて勝った。
「やった!」
「瑛斗強いな~」
「Switchでマリカ普段からやってるからかな」
「普段からゲームやってるから強いのか~。じゃぁ次太鼓の達人やろ!」
「うん、いいよ」
俺達は、横並びで太鼓の達人を始めるとふつうレベルで勝負することにした。
「待って、悠うますぎじゃん」
「瑛斗がリズム感ないんじゃない?笑」
悠は余裕そうな顔で、ほとんどミスをしていない。俺は、リズムゲームはあまりしないのもあってリズム感がなく全然ついていくことができない。
「悠、ほとんどミスないじゃん」
「瑛斗がタイミングずれてるんだって」
スコアを見ると、悠にかなりの差をつけられていた。
「さっき、負けたから勝てて良かった~」
「でも互角だから、次で最後かな」
「うん、ホラーゲームのところ行こう」
少し歩いたところに、いかにも怖そうな雰囲気のホラーゲームがあった。ゾンビを銃で撃っていくシューティングゲーム。
「HOUSE OF THE DEADじゃん」
「知ってるゲーム?」
「これ好きなんだよね、これでも良い?」
「ああ、うん。なんか怖そう笑」
「そんなに怖くないって」
悠は急かすように俺の腕を引っ張って、俺も連れられて中に入る。他の人なら腕を触れられるのも嫌なはずなのに、それがあまりに自然で違和感がなかった。
俺は、さっきと同じようにアルコールスプレーで入念に手の除菌をする。
そうすると俺達は、隣同士に座りシューティングゲームの銃をお互い手に持ち、ゲームを進めていく。お互いの肩が触れるほど近い距離にいたけど、俺はなぜか嫌だとは思わなかった。
「さっき悠がそんなに怖くないって言ってたけど、ゾンビ結構リアルで怖いじゃん。しかも多すぎるって、無理」
「瑛斗、ビビりすぎ笑」
「いや、こういうゲーム初めてだから」
「そうだったんだ。俺は友達の家でやったことある」
「じゃぁハンデじゃん」
「でも、瑛斗だってマリカやったことあるって言ってたじゃん。だから一緒だって笑」
「まあそうだけど~。てか、全然当たらないんだけど。ほとんど悠に助けてもらってるじゃん」
「ペアでやってるんだから助け合いも必要でしょ」
「いや、これ勝負なんだけど笑」
「まあそうだけど、クリアしたいし」
「それはそうだけど」
「よし、あとちょっと」
「俺も頑張ろ」
「さっきよりいい感じじゃん」
「マジ?たしかに弾当たってきた気がする」
「もうすぐクリアできそう」
「本当だ、クリアじゃん」
「瑛斗スコアどうだった?」
「全然悠に負けてる。悠がうますぎて勝てる気しなかったわ」
「でも、初心者にしては頑張った方じゃない?」
「そう?」
「うん。てか、ゲームも終わったし、どうする?瑛斗まだ時間ある?」
「今17時か。今日はまだ時間大丈夫」
「良かった。じゃぁ、このビルの展望台行かない?」
「展望台とかあるんだ。行ったことないかも」
「そうなんだ?結構景色良いらしいから見に行こ」
「うん」
俺達は、エレベーターに乗って展望台に向かうことにした。夏休みだからか、カップルや同じ年齢ぐらいの学生達が多かった。みんな展望台に行くんだろうなと思いながら階数を上がっていく電子掲示板を眺めていた。誰かと隣にいて、こうやって話さなくても、悠となら気を遣って話さなくてもなぜか安心できる。
エレベーターが俺達を展望台まで運んだ後、大きな窓ガラスに様々なビルや建物が見えた。夏だからか、17時でもまだ十分外は明るくて、晴れていたから遠くまでの景色がとても綺麗に見えた。
「すごい、見晴らし良いね」
「この景色、瑛斗にも見てほしかったんだよね」
悠はそう言って、俺達は人だかりから少し外れたソファに座った。
「そうなんだ、
「それなら良かった」
「悠はここ来たことあったの?」
「前に一回来たことあるよ」
(誰と来たんだろう、なんか複雑な気持ちになる。これって嫉妬?独占欲?もしかして俺って悠のこと……)
「そうなんだ……」
「なんか、瑛斗また浮かない顔してるね?」
「え?……いや、誰かと来たのかなって思って」
「もしかして嫉妬してくれてる?なんか嬉しい。でも、一応言っておくけど、前やってたイベントのバイトで来ただけだから」
「そっか~。なんか彼女とかかなって思った」
「彼女いないよ」
「え、悠って彼女いないの?」
「意外だった?てか、瑛斗は?」
「俺に彼女いるように思う?」
「瑛斗に彼女いてるかどうかってより、いてたら嫌かな」
「なんで?」
「俺が瑛斗付き合えないでしょ」
「待って、どういうこと……?」
俺は、悠が言った言葉に理解が追いつかなかった。
「そのままの意味だけど。それと、さっきのゲームに勝ったらお願い聞くっていうやつ、瑛斗は勝ったら何言おうとしてた?」
「これからも一緒に色んなところ行ってほしいなって」
「じゃぁそれって、恋人同士になってからでも良い?」
「え……?」
「俺、最初は瑛斗って自分と似てるかもって興味持ったんだけど、いつの間にか瑛斗の笑顔が見たいって思って、喜んでもらうためにはどうしたらいいかばっかり考えてて、いつの間にか瑛斗のこと好きになってた」
「じゃぁ、悠のお願いって……?」
「瑛斗、俺と付き合って欲しい」
悠のいつもより真剣な眼差しに見惚れて、俺も自分の気持ちが隠せなかった。
「……俺、映画で悠と指が触れた時も、悠となら嫌じゃなかった。寧ろ安心した。それと悠と関わるのは、潔癖症克服するただの練習のためだけにしたくない。俺も悠のこと好きなんだと思う。だから映画館でも悠に触れられても良いと思った」
「やばい、嬉しい。瑛斗、俺と付き合ってくれる?」
「……うん」
俺がそう言うと、悠は俺に近づいて肩をそっと抱きしめた。そして悠の顔が近づくと、身構えて目を強く閉じてしまう。
(キスされる……?)
そう思った瞬間、悠は俺の頭を優しく撫でた。
「えっ……?」
身構えていた俺は、拍子抜けして俺は思わず声が出る。
(もしかして期待してた……?)
「キスされるんじゃないかって思った?」
「そんなことな、い……」
恥ずかしくて少し目を伏せてしまう。
「じゃぁ、今度は口にさせてね」
悠はそう言って、少し照れたようにいたずらっぽく笑った。その笑顔が自分だけに向けられていると思うと、それが嬉しくて胸が締め付けられる。俺はただ小さく頷いた。
「悠、手繋いでも良い……?」
「うん、俺も瑛斗と手繋ぎたかった」
"友達"がしない手の繋ぎ方で俺達は手を繋いだ。
俺達の夏はまだ始まったばかり______
そんな時、スマホが鳴った。
電話が来たのは悠からだった。
「もしもし」
「瑛斗?今電話大丈夫?」
「大丈夫」
「良かった。今日ってなんか予定ある?」
「何もないよ」
「じゃぁ、映画行かない?」
「ああ、良いよ。行こう。14時ぐらいでも良い?」
「うん、じゃぁ映画館の近くの駅前に集合でよろしく。楽しみにしてるから」
「うん、俺も。じゃぁまた後で」
そう言って電話を切った。
俺は、15分早く駅に着いてしまった。
(楽しみすぎて、早く来すぎた……)
俺は悠が来るまで、近くの本屋で時間を潰すことにした。
数冊本を立ち読みしていると、悠から電話がかかってきた。
「瑛斗?今どこいる?」
「映画館の近くの本屋。悠もう映画館着いた?」
「うん」
「じゃぁ、そっち向かうわ」
「おっけ。待ってる」
映画館に向かうと、悠が入り口で待っていた。
アイドルみたいに存在感があって、すれ違う人全員が悠を見ているのがわかる。
(やっぱ悠ってすごいんだな……)
そんなことを思いながら、立ち止まっていると悠が声をかけて、近寄ってきた。
(悠の私服、お洒落で俺の好きな感じの服だな……)
「瑛斗!」
「悠、ごめん待たせて」
「今来たところだし。てか、瑛斗の方が先来てたでしょ?待たせてよね?」
「……楽しみだから早く着きすぎただけだから、大丈夫」
「俺も楽しみにしてた。嬉しい。じゃぁ行こう」
俺達は映画館に入ると、夏休みなのもあってか、人が混雑している。
悠はそれを気にしてか、俺の少し前を歩いてくれた。
「瑛斗大丈夫?はぐれないように俺の服かカバン持てそう?」
「うん、ありがと……」
俺は、服を掴んで伸ばしてはいけないと思い、悠のカバンの紐の端を持つことにした。
(カバンの紐を持つことに少しためらいはあったけど、意外と大丈夫で安心した。これって遥だから……?)
「そういえば今日、何の映画見る?」
俺は悠の後ろを歩きながら聞いた。
「チェンソーマン」
「俺も見たいと思ってた!」
「良かった。瑛斗がチェンソーマンのシャーペン持ってたから、好きなのかと思って、予約しといた」
(俺がチェンソーマンのシャーペン持ってること、知ってたんだ……)
「やばい、嬉しい。それと予約してくれてありがとう。てか、チケット代払う」
「俺が誘ったし、いいよ。気にしないで」
悠は、俺の方を向いて優しく笑った。
「ありがとう」
「てか、瑛斗なんか食べる?」
「飲み物買いたいかも」
「じゃぁ、買いに行こう」
映画の予約時間に余裕があったから、俺達は、売店に向かうことにした。
「飲み物何にする?悠はジンジャエール?」
「うん、瑛斗にもう俺の好きな飲み物覚えられてるじゃん笑」
「うん、もう覚えた笑」
「瑛斗は何にする?ファンタグレープないかも」
「それ思った、じゃぁファンタメロンにしよ。それとここは悠の分も払わせて。さっきチケット代出してもらったし」
「じゃぁご馳走してもらおうかな」
「うん」
「ありがと」
売店で俺達はドリンクを買ったあと、近くのイスに隣同士で座った。
俺は、持ってきた除菌シートで手やドリンクの表面を執拗に拭いてから、ドリンクに口をつけた。この一連の動作を無意識にやっていたから、悠に引かれた……と思って、慌てて隣に座っている悠に視線を移すと、悠は気にせず片手でスマホを触りながらドリンクを飲んでいて、ほっとした。
「そろそろ行こっか」
「うん」
映画の上映時間になり、俺達はチケットの座席に向かった。
チェンソーマンの映画が、最近上映されたばかりなのもあって、やっぱりほとんどの座席が埋まっている。
悠が予約してくれた座席は、一番後ろの列の真ん中あたりの通路側とその隣だった。はるかが奥の席に座り、俺が通路側に座った。些細なことでも悠は気が付いてくれるから、気遣って通路側の席を俺に譲ってくれたのかもしれないと思った。それだったら嬉しい。悠の行動一つ一つに優しさを感じる。
映画の中盤になり、少し画面が光った時に遥の目に涙が見えた気がした。気のせいか……。
でも俺は無意識に右手でハンカチを取り、悠に近づいていた。
「瑛斗……?」
「あ、これ、ハンカチ。洗ってるから綺麗なやつだから」
「そう、じゃなくて」
「泣いてなかった?」
「うん、大丈夫。でもありがと」
俺は、ハンカチをカバンに戻しながら恥ずかしさでいっぱいになっていた。
「かわりに手繋いでいい?これも潔癖症克服の練習のためだと思って」
「え……?」
「誰も俺達のこと見てないから大丈夫」
(男同士で手を繋ぐって普通なのか……?さっきの恥ずかしさでよくわからなくなってきた……)
悠の右手が俺の左手に触れる。手を繋ぐと言っても小指だけを絡めるようにして、悠はまっすぐ前を向いて映画を見ている。俺はその隣で映画に集中できそうになかった。
「なんかドキドキしてきた」
悠がそんなことを言うから、余計に意識してしまう……。でも、映画の内容のことなのか、今の状況のことなのか俺にはわからなくなっていた。でも、不思議と嫌じゃなかった。悠だからってこと……?
「嫌じゃない?嫌だったらやめるから」
「……大丈夫」
「良かった」
悠は安心したような顔をしていた。
(もしかして悠も緊張してる……?)
映画が終わり、チェンソーマンのグッズを見ることにした。
「瑛斗はチェンソーマンの誰が好き?」
「映画見たらレゼがかわいすぎた」
「それ、わかる!」
「映画、めっちゃ良かった。悠と来られて良かったわ。本当ありがとう」
「うん、俺も。てか、記念にこれお揃いにしない?」
そう言った暖の手にはポチタの小さいマスコットを手に持っていた。
「悠、お揃いとか嫌じゃない?」
「嫌なわけないじゃん。記念に持ちたい。瑛斗と初めて映画行った記念。瑛斗は?」
「うん、俺も」
俺達は、2人でお揃いのマスコットを買って、映画館を出た。
「この後どうする?」
「瑛斗行きたいところとかある?」
「ゲーセンとか?」
「良いじゃん!ゲーセン近くにあるし、行こう」
そう言って、俺達はゲーセンに向かった。
そこには、UFOキャッチャーやコインゲーム、色々なゲームが並んでいる。
「なあ瑛斗、マリカと太鼓の達人とホラーゲームで3本勝負しない?」
「うん、いいよ」
「負けたら勝った相手のお願い聞くとかってどう?」
「わかった、負けないけど笑」
「そんなこと言ってて良いの~?」
まずは、マリカで勝負をすることにした。
俺は、できるだけカートの端に座り、ハンドルを握る前に持参したアルコールスプレーを入念に手に塗り広げていた俺に、悠は気づいていただろうけど、気にせず楽しそうにプレイするキャラクターを選びながら話しかけて来た。他の人なら怪訝な顔をしてもおかしくはないはずなのに、悠はそれを見ていても、嫌な顔一つせず接してくれる。それも自然と。それが逆に俺は安心する。
ステージを選び、ゲームが進んでいくと、最初はかなり接戦だったけど、普段からゲームをしているからか、途中からは俺がかなりの差をつけて勝った。
「やった!」
「瑛斗強いな~」
「Switchでマリカ普段からやってるからかな」
「普段からゲームやってるから強いのか~。じゃぁ次太鼓の達人やろ!」
「うん、いいよ」
俺達は、横並びで太鼓の達人を始めるとふつうレベルで勝負することにした。
「待って、悠うますぎじゃん」
「瑛斗がリズム感ないんじゃない?笑」
悠は余裕そうな顔で、ほとんどミスをしていない。俺は、リズムゲームはあまりしないのもあってリズム感がなく全然ついていくことができない。
「悠、ほとんどミスないじゃん」
「瑛斗がタイミングずれてるんだって」
スコアを見ると、悠にかなりの差をつけられていた。
「さっき、負けたから勝てて良かった~」
「でも互角だから、次で最後かな」
「うん、ホラーゲームのところ行こう」
少し歩いたところに、いかにも怖そうな雰囲気のホラーゲームがあった。ゾンビを銃で撃っていくシューティングゲーム。
「HOUSE OF THE DEADじゃん」
「知ってるゲーム?」
「これ好きなんだよね、これでも良い?」
「ああ、うん。なんか怖そう笑」
「そんなに怖くないって」
悠は急かすように俺の腕を引っ張って、俺も連れられて中に入る。他の人なら腕を触れられるのも嫌なはずなのに、それがあまりに自然で違和感がなかった。
俺は、さっきと同じようにアルコールスプレーで入念に手の除菌をする。
そうすると俺達は、隣同士に座りシューティングゲームの銃をお互い手に持ち、ゲームを進めていく。お互いの肩が触れるほど近い距離にいたけど、俺はなぜか嫌だとは思わなかった。
「さっき悠がそんなに怖くないって言ってたけど、ゾンビ結構リアルで怖いじゃん。しかも多すぎるって、無理」
「瑛斗、ビビりすぎ笑」
「いや、こういうゲーム初めてだから」
「そうだったんだ。俺は友達の家でやったことある」
「じゃぁハンデじゃん」
「でも、瑛斗だってマリカやったことあるって言ってたじゃん。だから一緒だって笑」
「まあそうだけど~。てか、全然当たらないんだけど。ほとんど悠に助けてもらってるじゃん」
「ペアでやってるんだから助け合いも必要でしょ」
「いや、これ勝負なんだけど笑」
「まあそうだけど、クリアしたいし」
「それはそうだけど」
「よし、あとちょっと」
「俺も頑張ろ」
「さっきよりいい感じじゃん」
「マジ?たしかに弾当たってきた気がする」
「もうすぐクリアできそう」
「本当だ、クリアじゃん」
「瑛斗スコアどうだった?」
「全然悠に負けてる。悠がうますぎて勝てる気しなかったわ」
「でも、初心者にしては頑張った方じゃない?」
「そう?」
「うん。てか、ゲームも終わったし、どうする?瑛斗まだ時間ある?」
「今17時か。今日はまだ時間大丈夫」
「良かった。じゃぁ、このビルの展望台行かない?」
「展望台とかあるんだ。行ったことないかも」
「そうなんだ?結構景色良いらしいから見に行こ」
「うん」
俺達は、エレベーターに乗って展望台に向かうことにした。夏休みだからか、カップルや同じ年齢ぐらいの学生達が多かった。みんな展望台に行くんだろうなと思いながら階数を上がっていく電子掲示板を眺めていた。誰かと隣にいて、こうやって話さなくても、悠となら気を遣って話さなくてもなぜか安心できる。
エレベーターが俺達を展望台まで運んだ後、大きな窓ガラスに様々なビルや建物が見えた。夏だからか、17時でもまだ十分外は明るくて、晴れていたから遠くまでの景色がとても綺麗に見えた。
「すごい、見晴らし良いね」
「この景色、瑛斗にも見てほしかったんだよね」
悠はそう言って、俺達は人だかりから少し外れたソファに座った。
「そうなんだ、
「それなら良かった」
「悠はここ来たことあったの?」
「前に一回来たことあるよ」
(誰と来たんだろう、なんか複雑な気持ちになる。これって嫉妬?独占欲?もしかして俺って悠のこと……)
「そうなんだ……」
「なんか、瑛斗また浮かない顔してるね?」
「え?……いや、誰かと来たのかなって思って」
「もしかして嫉妬してくれてる?なんか嬉しい。でも、一応言っておくけど、前やってたイベントのバイトで来ただけだから」
「そっか~。なんか彼女とかかなって思った」
「彼女いないよ」
「え、悠って彼女いないの?」
「意外だった?てか、瑛斗は?」
「俺に彼女いるように思う?」
「瑛斗に彼女いてるかどうかってより、いてたら嫌かな」
「なんで?」
「俺が瑛斗付き合えないでしょ」
「待って、どういうこと……?」
俺は、悠が言った言葉に理解が追いつかなかった。
「そのままの意味だけど。それと、さっきのゲームに勝ったらお願い聞くっていうやつ、瑛斗は勝ったら何言おうとしてた?」
「これからも一緒に色んなところ行ってほしいなって」
「じゃぁそれって、恋人同士になってからでも良い?」
「え……?」
「俺、最初は瑛斗って自分と似てるかもって興味持ったんだけど、いつの間にか瑛斗の笑顔が見たいって思って、喜んでもらうためにはどうしたらいいかばっかり考えてて、いつの間にか瑛斗のこと好きになってた」
「じゃぁ、悠のお願いって……?」
「瑛斗、俺と付き合って欲しい」
悠のいつもより真剣な眼差しに見惚れて、俺も自分の気持ちが隠せなかった。
「……俺、映画で悠と指が触れた時も、悠となら嫌じゃなかった。寧ろ安心した。それと悠と関わるのは、潔癖症克服するただの練習のためだけにしたくない。俺も悠のこと好きなんだと思う。だから映画館でも悠に触れられても良いと思った」
「やばい、嬉しい。瑛斗、俺と付き合ってくれる?」
「……うん」
俺がそう言うと、悠は俺に近づいて肩をそっと抱きしめた。そして悠の顔が近づくと、身構えて目を強く閉じてしまう。
(キスされる……?)
そう思った瞬間、悠は俺の頭を優しく撫でた。
「えっ……?」
身構えていた俺は、拍子抜けして俺は思わず声が出る。
(もしかして期待してた……?)
「キスされるんじゃないかって思った?」
「そんなことな、い……」
恥ずかしくて少し目を伏せてしまう。
「じゃぁ、今度は口にさせてね」
悠はそう言って、少し照れたようにいたずらっぽく笑った。その笑顔が自分だけに向けられていると思うと、それが嬉しくて胸が締め付けられる。俺はただ小さく頷いた。
「悠、手繋いでも良い……?」
「うん、俺も瑛斗と手繋ぎたかった」
"友達"がしない手の繋ぎ方で俺達は手を繋いだ。
俺達の夏はまだ始まったばかり______
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とても面白かったです♪
ですが日置の下の名前が二つありませんか?悠と暖が色々な場面でごちゃ混ぜになっている気がします。もし私の勘違いでしたら申し訳ないです😣
コメントいただきありがとうございます✨
面白いと言っていただけてすごく嬉しいです☺️
名前の件、ご指摘ありがとうございます。
おそらく訂正ミスなので、訂正しておきます🙇♀️