5 / 14
第一章
雨に染まるグラス
しおりを挟む
大学2年の七瀬星空(ななせあかり)は、大学の課題やバイトに追われて、それなりに充実していたが、どこか物足りなさを感じていた。
すると、行き交う学生たちが、とあるバーの話をしていた。それは、不意に耳にした「行けば沼に落ちる」と噂のバーだった。
記憶をたどりながら、街のはずれにでると、濡れたアスファルトが反射して、仄かに光る看板が目に入った。
「&barか……」
その看板を見て足が止まったのは、きっと、心のどこかで癒しを求めていたからなのかもしれない。
親の期待に応えようとして、自分の生き方がわからない。何をしてもうまくいかない。そんな自分を変えたくて、心理学部のある大学に入ったのに、現実はなかなか追いつかない。
&barの扉を開けると、ゆるやかなジャズと柔らかな照明に包まれた空間が広がった。カウンターに立っていたのは、赤茶色の髪を緩く結んだ静かな雰囲気の店主だった。彼はガラス細工のような繊細さを纏っていて、思わず目を奪われるほどだった。
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
その声は低く、けれど優しい余韻を残す。視線があった瞬間。星空の心はわずかに揺れた。
「……はい。あの、初めてなんですけど」
「大丈夫ですよ。よければ、カウンターへどうぞ」
静かに微笑んだその人は、沼澤蓮志(ぬまさわれんじ)。けれどその笑みにはどこか掴めない寂しさが見えたのは気のせいだっただろうか。
「飲み物、なにかおすすめはありますか?」
「そうですね、あなたに合うものを作ってみましょうか」
しばらく沈黙が続いた、でも僕にはそれが心地良かった。
「こちらが、今のあなたに合うと思います。」
_____アズールです。
丁寧に注がれたのは、この夜のような深い青に染まるカクテル。
彼の作るカクテルも、その沈黙も、静かな雨音のようだった。
何か失ったものを抱えている、そんな背中をしていた。
この人のことがもっと知りたい。
気づいた時には、そう思っていた。
すると、行き交う学生たちが、とあるバーの話をしていた。それは、不意に耳にした「行けば沼に落ちる」と噂のバーだった。
記憶をたどりながら、街のはずれにでると、濡れたアスファルトが反射して、仄かに光る看板が目に入った。
「&barか……」
その看板を見て足が止まったのは、きっと、心のどこかで癒しを求めていたからなのかもしれない。
親の期待に応えようとして、自分の生き方がわからない。何をしてもうまくいかない。そんな自分を変えたくて、心理学部のある大学に入ったのに、現実はなかなか追いつかない。
&barの扉を開けると、ゆるやかなジャズと柔らかな照明に包まれた空間が広がった。カウンターに立っていたのは、赤茶色の髪を緩く結んだ静かな雰囲気の店主だった。彼はガラス細工のような繊細さを纏っていて、思わず目を奪われるほどだった。
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
その声は低く、けれど優しい余韻を残す。視線があった瞬間。星空の心はわずかに揺れた。
「……はい。あの、初めてなんですけど」
「大丈夫ですよ。よければ、カウンターへどうぞ」
静かに微笑んだその人は、沼澤蓮志(ぬまさわれんじ)。けれどその笑みにはどこか掴めない寂しさが見えたのは気のせいだっただろうか。
「飲み物、なにかおすすめはありますか?」
「そうですね、あなたに合うものを作ってみましょうか」
しばらく沈黙が続いた、でも僕にはそれが心地良かった。
「こちらが、今のあなたに合うと思います。」
_____アズールです。
丁寧に注がれたのは、この夜のような深い青に染まるカクテル。
彼の作るカクテルも、その沈黙も、静かな雨音のようだった。
何か失ったものを抱えている、そんな背中をしていた。
この人のことがもっと知りたい。
気づいた時には、そう思っていた。
0
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる