ラストスパート

ひゅん

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  小学三年の夏休み。クラスメイトの十人ほどでこの街をあてもなく徘徊していた。そのなかには藤波も星崎もいた。ずいぶん暑い日だった。その時に星崎が藤波に言った「中学に上がったら一緒の部活に入らない?」
「同じ部活?」
「そう」
「どうして?」
「藤波君とスポーツでチームになりたいから」
「いいけど、何部に入るの?」
「バレー部がいいな」
「バレー部か。僕は野球かサッサーがいいな」そう藤波が言うと星崎はしばらく黙っていたが「それじゃあしようがないね」と言って、他の連れに何か話しかけていた。
  藤波は、夏に星崎に言われたことを思い返してみた。何の変哲もない会話の中に星崎と自分との距離があった。藤波は星崎に対して友情を感じていた。星崎はどうやら自分になりたいみたいだ、と藤波は思った。何かを一つにしたい、何かを同一に見ようとする星崎の願望を鏡の奥を覗き込むように見た。それでいて星崎は藤波にマラソンで追いつき追い越そうとしている。強くあろうとする星崎は、それを藤波の姿に見ていた。藤波は自分の内面にいる星崎が見据えているものを心強く感じていた。二人の関係は、まさに戦友という言葉がふさわしかった。あの夏の言葉は、力強く生きようという星崎の問いかけのような気が藤波はした。
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