黒蛇男

zubro909

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10. 大蔵の脅迫

10. 大蔵の脅迫 (2)

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大蔵に呼びつけられた時。
剛に今まで感じたことのない、動物しての戦慄が走った。

剛は大蔵とだけはすぐに闘いたくなかった。動物的な本能で直感していた。幼馴染で、大蔵は自分の家族の事を決して明かさなかったし、他人の前で喧嘩する様な事は決してしなかった。そして、学校と話し合って、体育の授業やイベントは全て休んでいた。だが、大蔵が格闘技の世界大会に出場し、何度も優勝している事は知れ渡っていた。制服の上からも、世界レベルのアスリートである事は間違いなかった。

そもそも、大蔵は誰とも話さなかった。ただ幼馴染の剛・毅・玲香とだけ、軽く挨拶する程度だった。だが、剛には確信があった。

(大蔵はヤクザじゃない)

皆は「大蔵の実家はヤクザだ」と噂していたが、剛は違うことを確信していた。

(おそらく軍人か、殺人集団だ)

大蔵のオーラは策を巡らしたり、政治を使ったりするのではない。もっと単純に、圧倒的な暴力で現場で殺す殺傷能力や好奇心を感じた。

(大蔵は殺し合う上で、洋介や龍太に見えたような隙が全く見えない)
(大蔵は、人を既にプロを含め、少なくとも10人程度は殺している)

剛は、自分が死闘になった時の強みは、全く躊躇なく、相手を殺す最適な手段を選び、遂行する力だと考えていた。ヤクザと対面しても、この能力では圧倒的に優っている実感があった。自分の最大の強みだと考えていた。だが、大蔵だけは違った。

父の死で弱っている状況で、大蔵と闘うのは避けたかった。

絶望で頭が真っ白になっている状況で、大蔵から渡されたUSBに格納された動画を観た。

顔がしっかり映っていたのは、京極側の人間のみだ。その中で、京極と主要構成員の顔は、素人とヤクザとも全く違った。動画では、京極は勿論のこと、京極の家族、主要構成員、幼馴染や知り合いの飲食店の方々が虐待され、両手両足を切断され、最後には眼を抉られ、殺されているところが、ただただ淡々と流された。

(この被害者達はヤクザじゃない。殺人集団だな)
(やはり、大蔵一家の組織は殺人集団だ)

剛は立ち所に理解した。剛が一番驚いたのは、大蔵達の処理が淡々とスピーディであること、京極の仲間を残虐に迷いなく殺すことだ。感情の起伏が見られない。明らかに何度も同様のことを繰り返している。洋介と龍太という、地元で有名なヤクザを虐殺して植物人間にした剛から見ても、一つ一つの攻撃は自分よりも殺人という目的に対し、遥かに合理的だった。隙が見つからなかった。

黒づくめな大男達は、骨格から日本人でないことはわかった。確実に軍人であり、屈強な身体能力と殺人技術があるのは明らかだった。剛は生まれて初めて自分と、自分の家族友人の生命の危機を感じた。大蔵は確実に「お前の周りの人間も全て割れている」と言った。つまり、自分だけでなく、自分の家族や仲間全てが狙われているという事だ。

(動揺するな。必ず活路はある)

剛は今までと同じような生活をするように心がけ、冷静にこの苦境を乗り越える方法を考えた。だが、考え始めると、身体中が驚く程に大きく震え、呼吸出来なくなった。まず何よりも先に呼吸が出来なくなった。次第に自律神経が破壊され、一分も睡眠が出来ない状況になった。

(まずい。こんなことをしている場合じゃない。このままでは、家族や友人全員が皆殺しにされる)

何度も自分を奮起させ、大蔵との闘い方を考え、勉強やトレーニングに取り組もうとした。だが、はじめてもすぐにドス黒い靄に押し潰され、屈服してしまう。

今まで制御出来ていた自分が、全く思うように動かない。自分が破壊された感覚だった。
剛は大蔵の脅迫の前から、父親の自殺で、自分の存在を深く疑うようになっていた。

「剛。お前の親父は、人殺しで、自殺野郎だ。弱くて汚い血は、俺が殲滅してやるよ」

言葉を発したのが大蔵じゃなければ、その場で殺していただろう。
だが、剛は怒りを感じることもなく、殺意だけを読み取り、恐怖した。

生まれて初めて感じた絶対的な恐怖に、剛は完全に自分を見失った。
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