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第1話(B)
しおりを挟む「おねえちゃん!」
女の子の声に気付いたポラリスとスピカが揃って前を向き、二人で立ち止まる。
走って来た女の子は、茶色の髪を白いボンボンの付いたゴムで二つ縛りにして、前髪はパッツン、アクアマリンの様な水色の瞳で、服装は黄色いワンピースを着て、橙色の子供用の小さな靴を履いた無邪気な幼い女の子。
女の子の名は【ラナ・エリダヌス】
「おねえちゃんおうたうたってるひとぉ?」
ラナの問い掛けに、ポラリスはしゃがんで目線を女の子に合わせると、優しく微笑んで答える。
「そうだよ」
ラナは無邪気な笑顔でポラリスに話す。
「ラナしってるー、おねえちゃんあいどる」
ラナからアイドルと言われたポラリスは、目を大きくさせてちょっと驚き、隣のスピカはチラリと顔を向けてポラリスを見る。
「すみません、うちの子がお姉さんのこと
好きみたいで……お話の途中失礼しました」
少し遅れて走って来たのは、茶色の長い髪をサイドテールに結んだ女性、まるでラナが大人になった姿のように似ている女性は母親で、身長が高くスタイルの良い美人。
白のブラウスに薄紫色のプリーツスカートで、色白の素足にクロスストラップシューズを履いた格好である。
母親の名は【クルサ・エリダヌス】
「いえいえ大丈夫です! お気になさらずに」
ポラリスがクルサに答えると、隣のラナがクルサに顔を向けて話す。
「ラナ、おねえちゃんとおはなしするの!」
「少しだけよ?」
困った顔を緩ませて答えるクルサにラナが元気に返事をする。
「うん! わかった!」
ラナは両手のグーを上下に動かして、興奮しながらポラリスに話し掛ける。
「あのね! ラナ、おおきくなったらね!
おねえちゃんみたいにあいどるになるの!」
アイドルになると訊いてポラリスは優しく微笑むと、明るい声でラナに話す。
「そうなんだ!
お姉ちゃんと一緒に、アイドルになろうね」
「うん! やくそくだよ!」
そう言いながら小さな手で小指を立てて前に出すラナの手に、ポラリスも右手の小指を絡ませて約束をする。
「お姉ちゃんとの約束」
クルサがポラリスにお礼を言うと、ラナに話し掛ける。
「ありがとうございます、良かったねラナ」
ラナはクルサに顔を向けて元気に答える。
「うん! ラナあいどるになるの!」
そしてクルサがポラリスに話し掛ける。
「この子、お姉さんのライブを見ていると、
泣いていてもすぐに元気になるんです。
また見に行きますね」
「ありがとうございます、また見て頂けたら嬉しいです」
「それでは失敗します」
「おねえちゃんバイバ~イ」
「バイバ~イ」
小さな手を振って笑うラナに、ポラリスも笑って手を振る。
「ラナ、帰るわよ」
「か~え~る~の~う~た~が~」
「あらあら、ご機嫌ね」
親子は仲良く手を繋いで、和やかに通りを歩いて行った。
親子を見送って見つめるポラリスに、隣のスピカがぽつりと呟く。
「あの親子を見ていて思い出してしまったわね……」
それはスピカが19歳、冬の明け方だった。
屋敷の寝室でベッドに横になるベージュのネグリジェ姿ステラと、顔を近付けて「お母様!」と呼ぶ白いネグリジェ姿のスピカ。
『大好きよスピカ、産まれてきてくれて……ありがとう』
それはベッドで母親ステラが、涙が溢れるスピカの頬に触れて、最期に伝えた言葉。
「スピカさん……?」
心配そうに顔を覗き込むポラリスにスピカは顔を向けて返事をする。
「ううん、なんでもありませんわ」
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