安全第一異世界生活

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イルグリット王国 魔道具編

146話 現状確認と黒について

「マルリシオ?この坊主の名前か?」

ウィルは困惑しつつも頷いた。トーさんは心底安堵したように笑った。

「良かった。坊主は運がいい。こんなにすぐに知り合いに会えたなんて」

そう言って少年をくるんでいるマントを片手でしっかり抱き直し、優しい顔で「よかったな」そう言いながら少年の頭を撫でている。そんなトーさんの姿を見て、困惑していたウィルも息を吐き一息ついて、ようやく顔を綻ばせ頭を下げた。

「この子は、私の弟マルリシオです。弟を助けていただきかたじけない」

そう言いながらトーさんに両手を差し出すウィル。そんなウィルにトーさんは丁寧にマルリシオ君を渡す。マルリシオ君を抱きかかえ、その寝顔を見たウィルが、

「この子はフリムストに居るはずなんですが…なぜこの国に居たのでしょう…」

ウィルの言葉を聞き、トーさんが思い出すように頭を上に上げ、天井を見ながら

「『ドルマーン、置いてかないで!』って泣き叫んでいた事くらいしか分からないな。俺が行ったときは随分と泣いた後らしく、全身汗で濡れていた位だ。抱き上げて少し作業している間に眠ってしまったしな」

「ドルマン…奴はなんてことを…」

ギリリと歯を食いしばる音がして、苦々し気に顔を顰めウィルは呟いた。そんなウィルの様子を見て空気を変えるようにトーさんが言う。

「でだ、ウィルは王族に会ってどう動く気だ?あまり悠長に時間は取れないぞ」

「この国の危機を王族に知らせ、魔獣寄せの魔道具の没収、我が国から来ている人間の捕縛でしょうか…」

ウィルの言葉を聞き、トーさんは首を横に振る。

「この国に来ているフリムストの者はごくわずかだ。こちらに主に来ているのはイルグリット王国から魔道具技師としてフリムストに派遣された人間で、彼らを送り返して騒ぎを起こさせ、魔獣寄せを起動させること。しかも本来ならその起動をこの国の王が自らする予定だったようだがな…ククク、小賢しいことだ」

ウィルは今回の全貌を知らされていなかったのか絶句していた。フリムストの国籍を持った人間は一人も居ない状況で事を起こす…その事を知ったウィルは衝撃を受けたように目を見開いて、小さな声で「…そうか……父上は…そういう事か…」とこぼし、暫く心を落ち着けるように黙ってマルリシオ君を抱きしめながら俯いた。

トーさんは立ち竦むウィルの肩を叩くと席に座るように促した。

「珈琲飲みたい」とトーさんが言い出し、コーヒーが苦手らしいな紬木ちゃんは緑茶をもう一杯、他の皆は珈琲を注文した。もちろんシンさん用の砂糖は忘れずお願いしたよ。
温かい珈琲を口に含む。舌の上で、ほろ苦さが広がり、香ばしい液体がゆっくりと喉を通るにつれて、その熱がじんわりと身体に染み渡る。そして、カップから立ち上る湯気と共に、コーヒーの香ばしさが鼻腔をくすぐり、心の奥まで澄み渡っていく。さっきまで辛そうだったウィルの表情が少し緩んだようでホッとしたところでトーさんと目が合い微笑まれた。さすがトーさんだなって笑ってしまった。

私たちの目線でのやり取りに気づいたウィルが恥ずかしそうに話し始めた。

「父…いや、フリムスト国王は私に言ったのだ。駒がある…と、そう言っていた。
『肝心の駒は揃っておる。それに、あの黒き悪魔をその化け物にけしかければ、見事、共倒れになってくれるやもしれぬぞ?』
そう笑いながら、それが最善の策の様に、臣下が居る前で話していた…まさか、フリムストの人間を使わないから、痛手が無いと言う事だとは思わなかった…だから父は止まらなかったんだな…」

「ん?ウィル、話の腰を折るが、黒き悪魔ってなんだ?あと化け物ってなんだ?」

ウィルはトーさんの質問に、眉根を寄せて答えた。

「化け物は…部下が言っていた事だから詳細は判らんが、黒き悪魔は、破滅を司る黒きドラゴンの事だ。わが国ではおとぎ話にもなっているのだが、実在する。父は黒を忌避するのだ…」

「黒を忌避?」

「黒は破壊や破滅を司ると言われていてね、我が国では差別の対象になっている…」

二人のやり取りを聞きながら私は自分の髪を触る…そしてトーさんを見ながら私が言葉を挟む。

「あらー。じゃあ私もトーさんもフリムストで差別されるって事かぁ。あれ、もしかして紬木ちゃんは…」

私が紬木ちゃんに視線を向けると、彼女は困ったように笑ってウィルを見る。ウィルは悔し気に顔を歪めトツトツと語る。

「紬木は戦闘を好まず、殺せと命じられた動物も殺せず泣いてばかりでな。父が若い女と言う事で私に宛がってきたのだ。望んでも居ない世界に勝手に呼び、命を奪えと…強制した。だが、紬木の様に拒否した者は要らぬとな…酷い話だ………。ただな、紬木が黒目、黒髪で在った事が彼女を守る盾になったんだ。彼女は色以外の容姿は大変美しいからな。下手をしたら攫われるようにやってきたこの世界で、女性の尊厳まで奪われる事になっていたかもしれないんだ…だから私は、彼女の黒はとても愛おしい、大切な色だと思っている」

紬木ちゃんを見て顔を少し緩ませ、彼女の髪を一房取り口付けた。その仕草に紬木は顔を真っ赤にさせ俯いてしまった。

あら…あらあらこの二人は…私は二人を見てニコニコしてると、トーさんがウィルに質問した。

「もう一人の召喚者は?」

ウィルはトーさんの質問になぜか顔から表情が消えて答えた。

「あれは……金髪だった。奔放な女性で…召喚されたその日に騎士をナンパして…夜を過ごしていたよ。次の日は別の騎士を、その次の日も違う者をと…夜の相手に騎士を所望する…騎士にだって矜持がある。なのに彼女はお構いなしだ………同郷の君たちには失礼かもしれないが、私には彼女は男が好きなただの好き者にしか見えないんだ」

わぁ…それはまた極端な子が召喚されたもんだな…。私は苦笑いするしかなかった。
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