ダンマス(異端者)

AN@RCHY

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第1107話 こだわった意味が無かった

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 鬼人族は、グリエルからの話を聞いて、悩む暇すらないノータイムで仕事を引き受けてくれたようだ。俺がゼニスに話してからわずか30分の早業だった。実質、グリエルの移動時間と説明時間だけしか、かかっていないことになる。

 と言っても、まずは意見箱や目安箱を作らねばならん。

 盗むやつはいないと思うが、開けたり動かしたりするためには、特殊な方法が必要になる物でないとな。

 さてどうしたもんだか。

 作業スペースでのんびり考え事をしていると……

「どうしたでござるか?」

 バザールが顔を出した。声は出していないつもりだったが、何やらブツブツ言っていて怪しい人みたいだったとか、マジか!

 一連の流れを説明して、持ち運びできない特殊な箱を考えている事を伝えた。

「それは難しいでござるな。ただ動かせないだけなら、簡単に作れるでござるが」

「そうなんだよね。そこまでする人間がいるか分からないけど、収納の鞄を使えば設置してあるタイプの箱位ならしまえちゃうんだよな。それこそ建物にくっついている状態でもないとね」

「建物に接している部分に、釘を打ち込むとかでは無理でござるか?」

「ん~釘を打ち込めば問題ないかな? 実験してみるか」

 バザールと実験をしてみた結果、どうやら釘を打ってしっかり固定されていると、1つの物だとシステム上認識されるらしい。

「って事は、動かしにくい箱を作ってから釘を打ち込めば、とりあえず大丈夫か?」

 そう結論を出して、箱の作成をしていく。簡単にあけられたら意味が無いので、一応金属製の箱を採用した。カギは盗まれたら意味が無いので、金庫のダイヤル方式を採用して試作品を完成させた。

「あんたたち何してんの?」

 綾乃が作業スペースにやってきて質問をしてきた。かくかくしかじかうまうまと今の状況を説明する。

「あんたたちってバカ? たかが意見箱や目安箱に、そんなに手間暇かけてるのよ。盗む人はいないと思うけど、盗まれても問題ないでしょ。盗まれたらそれを街に知らせれば、また書いてくれるんだし。何より、その扉はあけるのが面倒だから回収する人がかわいそう!

 それに初めは、問題なさそうな紙だけコルクボードとかに張り付けてみてもらえばいいんじゃない? そうすればどんなこと書いているとか分かるしね。私たちでお手本を書くのもいいかもしれないしね」

 それを聞いて俺とバザールはガックリとうなだれた。

 少し話あった後、箱は各自で用意してもらう事に決まった。素材にこだわらなければ高いモノでは無いので、問題ないだろうとの事。

 そして、お手本になる物を書こうとした結果、何も思いつかずに3人で苦笑してしまった。

 なので、ひとまずこの工房にいる人間に何かないか聞いてみた。

 ブラウニーAの意見『もっと仕事を下さい』
 ブラウニーBの意見『暇な時間があるのでする事ないですか?』
 ブラウニーCの意見『メニューを色々考えたいので意見を下さい』

 ブラウニーたちの意見は、要約すれば『仕事をくれ』の一言のようだ。どんだけ家事が好きやねん!

 ドワーフAの意見『酒の種類を増やしてほしい』
 ドワーフBの意見『酒のアテを増やしてほしい』
 ドワーフCの意見『酒の量を増やしてほしい』

 ドワーフたちは見事に、酒関係の希望しか出なかった。ただの飲んだくれじゃねえか!

 この工房にいる人間に聞いたのが悪かった。特殊な人しかいないんだからそれは当たり前だよな。

 と言う事で、おやつの時間を過ぎた頃に隣の広場に集まっている子供達に聞いてみた。

 子供男の子A『学校でもみんなでサッカーがしたい』
 子供男の子B『学校給食は美味しいけど、嫌いな野菜が出るからあれを減らしてほしい』
 子供女の子A『お母さんたちが忙しいから、弟や妹のために美味しいお料理を作れるようになりたいので、お料理を教えてほしい』
 子供女の子B『私は冒険者になりたいから、それが勉強できる学校が欲しい』

 最後の女の子の意見は、普通男の子が考える意見じゃないかな?

 特に子たちは他の子に聞いても、学校の事について意見を言ってくる子が多かった。が、勉強をしたくないという子がいなかった事に驚きもしたし嬉しくもなった。

 ただ1人だけ家の事を書いた子がいたけど、父ちゃんと母ちゃんが良く喧嘩をするから、仲良くしてほしいって言われても、さすがにどうする事も出来ないな……

 子どもたちが学校の事について色々と書いてくれるので、箱を置く場所の候補として学校にも置くべきかな? それに近くのおばちゃんたちが集まったり、怪我をした人たちが集まる治療院もありかもしれないな。待ち時間に書いてもらうとか。

 今の所、俺たちにはこれ以上の意見が思い浮かばないので、他に箱を置く場所はグリエルたちや、各街に任せよう。最低限置く場所を決めておけば大丈夫だろう。

 そんな感じでお願いをグリエルにする。苦笑する声が聞こえたが、気のせいだという事にしておこう!

 仕事が終わり、家に帰って汚れを落としてから娘達の部屋に向かう。

「おぉ! ミーシャ!」

 俺が部屋に入ると、ハイハイをしていたミーシャが、俺の方に向かって突進してきた。スミレとブルムは抱っこされている。

 迎えに行っても良かったのだが、その場に座ってミーシャが来るのを待った。そうすると俺の足を登って、頭から俺のお腹に突っ込んできた。

 やられたふりをするためにそのまま後ろへ倒れると、俺のお腹の上にミーシャが来るような形になった。そうするとミーシャは、私の場所だと言わんばかりに俺の胸の上あたりまでくると、へばりつくような形で手足を広げて抱き着いてきた。

 あくまでもシュウの主観であって他から見れば違うのだが、シュウが喜んでいたため誰も口を挟む人がいなかった。

 あぁ! ミリーにミーシャを回収されてしまった。他の娘たちも母親に連れて来てもらい俺の近くにいたので、手を伸ばすとがっしりと掴まれてしまった。俺の指をしゃぶろうとするので、慌てて手を引いた。

「そっか、2人共なんでも物を口に入れるようにし始めたのか。あんまり清潔過ぎて、体に抗体ができないのも怖いけど、清潔じゃなくて病気になられても困るよな」

「それは分かるけど、そこら辺はシルキーたちが色々してくれているみたいだから大丈夫だと思うよ」

「シルキーって本当にすげえな」

 俺のセリフに3人の母親は苦笑した。
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