ダンマス(異端者)

AN@RCHY

文字の大きさ
2,284 / 2,518

第2284話 俺、大丈夫か?

しおりを挟む
 対峙した俺は、ミーシャたち3人の動きを注視する。

 ミーシャは若干引き気味にも見えるが、スミレとブルムはいつもより前かがみの様な気がする。左右の2人が攻めてきて、ミーシャは囮か防御担当?

 俺が素手と縄……紐で戦うため、盾は選ばずに3人とも両手に木刀を持っている。

 素手と盾は、相性悪いから使わないのは当たり前として、鞭の機動は魔力によって思っている以上に動きが変化するので、こっちも盾と相性がいいとは言えない。だから、盾で守ることはせずに、木刀で弾くなり回避する方法を考えたのだろう。

 地球ではどうか分からないが、この世界では圧倒的に素手の方が盾に対して有利なんだよな。浸透勁もあるし、防御が防御の意味をなさない攻撃があるからな。守りに徹してたら、盾を持つ腕がすぐに壊れるのは火を見るよりも明らかだ。

 機動を確保するために小型の盾を使えば、手をかける場所が増えるので、簡単に投げ飛ばせてしまうだろう。中型に関しては中途半端過ぎて、大型や小型に比べると無駄が多すぎると言わざるを得ない。

 賢い選択だと思う。そして驚くべきは手放すことも考えて、代わりの木刀も結構な数を準備している事だろう。木の短剣なども準備していることから、投擲武器も使うだろう。弓も準備していることを考えると、近付けさせない戦法も考えている気がする。

 子どもたちの弓の精度はそんなに高くないと聞いている。狩りをするのに使える程度だとさ……なぁ、そのどこが精度が高くないんだ? 何度もツッコんでみたが、妻たちが考える精度の高い攻撃とは、的が動いていても致命傷になる部位もしくは、その周辺に当たることをさす。

 狩りの時は、動いている獲物に向かって撃つことは少ない。止まっているところを不意打ちか、逃げ道を限定したところへ追い込んでからの攻撃なので、当たって当たり前なんだとさ。

 この世界にも偏差射撃はあるが、一般的に腕利きと言われる弓使いでも、音速に達する矢を放つことはできない。良くて音速の半分。それでも十分に凄いのだが、銃弾の半分にも満たない速度で、地球では考えられない速度で移動する的には、当てられないだろう。

 俺の矢は付与魔法をするため簡単に音速を超えるし、銃弾よりも真っすぐ飛ぶ。だから簡単に当てることができるが、子どもたちにはそれはできないらしいので、精度はそんなに高くないんだとさ。後で聞いたマリアなら、俺と同じくらいの矢を放てるから言えることだろう。

 突っ込んでくると思って瞬間に、虚を突かれる形になった。

 3人が3人とも、少し前に動き出したと思ったら、手に持っていた木刀をいきなり投げてきたのだ。しかも、片手だけでなく両手の木刀をだ。

 俺も木刀を持っていれば簡単に弾けたのだが、今持っているのは生憎、鞭だけである。

 手足で弾くのは無しだしな……もし実践だったら、これは刃がついているわけで、それを蹴ったとなれば負傷判定、もしくは戦闘続行不能の判定が出る可能性だってある。

 迫ってくる木刀を大きく左に移動して躱すと、2本目の木刀が迫ってきていた。

 逃げる方向を予測して投げてたのか……俺から見て若干右に寄っていたのは、俺が回避する方向を誘導するためか。子どもたちにしてはよく考えている。

 コの木刀はどっちに回避しても地雷な気がする。

 勘でしかないが、それはやめておけと俺の勘が訴えるので、第3の回避方法を選択する。

 鞭の両端に余裕を持たせて両手で、余裕を持たせた部分を高速回転させる。その速度と威力で木刀を弾くことにしたのだ。空手でいう所の、受けまわしと同じ理屈の防御方法だ。

 俺の防御方法に驚いたミーシャたちは、次の手を打っていたが不発に終わる。

 俺が回避するであろう場所に向かって、木刀より早い木の短剣が投擲されていたのだ。俺の勘は、あれを感じ取ったってことか。

 子どもたちをしっかり見ているのに、いつの間にか攻撃が仕掛けられている事を不思議に思う。俺が目を離した一瞬に手を売っているってことだろうが、子どもたちにそんな技術があるなんて知らなかった。

 驚きを隠せないが、その原理が気になる。どんなタイミングで俺の虚を突いているのだろう。

 木刀は、投げる瞬間を見ていたので、いきなり投げるという虚以外は突かれていないが、短剣に関しては攻撃に対処するため、一瞬子どもたちから目を離した瞬間はある。だけどそこを狙っていたのだとすれば、誘導されたことになるのかな?

 逃げる方向を限定させたことによって、視野が狭くなっていた可能性があるってことか。そこを突いて第3の攻撃を仕掛けていた……これがしっくりくる答えかな?

 無理に距離を詰めてこない娘たちの先ほどの攻撃を評価しながら、次の手で何をしてくるのかワクワクしながら待っている。

 妻たちよ、子どもを応援するのはかまわないが、俺の精神にダメージを与えるようなことを言うのは止めなさい。嫌われるわよ! とか、マジでやめて。

 手加減したらしたで嫌いって言われる可能性があるのに、攻撃しても嫌いって言われる可能性があるのは、俺の精神がボロボロになっても仕方がない事だぞ。

 子どもたちはいくつか言葉を交わし、準備してあった作戦を実行するのだろう。

 正面のミーシャが弓で、両サイドの2人が短剣を両手に持ってるな。投げることを考慮して、回避は慎重にするべきかな。

 精度は高くないとはいえ、この距離で撃たれれば一瞬で到達するわけで、回避を選択するしかない。矢を放つ瞬間が見えているから、掴めるだろうが余計な隙になるので回避を選択している。

 3本4本と矢を撃ってくるが、両サイドの2人はジリジリと距離を詰めるだけで攻撃はしてこない。ギリギリ鞭の届く距離ではあるが、鞭で攻撃するには遠すぎる。引っ張って鞭先を加速させるため、余裕がないと威力は出ない。その絶妙な距離にいるのだ。

 子どもたちは理解はしていないだろうが、これ以上近付くと危ないと分かっているのだろう。

 その間にもミーシャから、矢が絶え間なく飛んでくる。2人を警戒したいが、正面のミーシャを見るとギリギリ見えない位置に2人がいるのだ。

 多分この嫌らしい配置は、自分たちで意識してやっているわけではないだろう。忙しなく左右に目を動かしている俺に少し驚いている様子なので、棚ぼたな結果なのだと思う。

 ミーシャの矢は、ある程度視界に入れた状態でないと、回避がしんどいので正直困っている。

 大きくよけようとしても、進路にはスミレとブルムがいるので、回避が難しい。

 大きく下がっても、下がった分だけ近付けばいいだけだし、考えていたよりずっと嫌な配置だな。

 と言っても、このままやられっぱなしでいるわけにはいかないので、こちらから流れを変える必要がある。

 ミーシャとの最短距離を最速で移動する……

 それを感じ取ったミーシャは距離をとるように移動しながらも、矢を撃つことを止めない。

 スミレとブルムも近付いてくるが、俺の方が1歩早いな。2人に直接攻撃されることは無いだろう。

 そう思った瞬間に、子どもたちの移動とは別に空気を切り裂く音が聞こえた。スミレとブルムのいる方からなので、おそらく短剣。音は2本しか聞こえないが、両手に持っていたことを考えると、残りの2本は隠して使っている可能性がある。

 追撃するのを止めて、大きく飛び下がると、俺が移動していたであろう場所に、4本の短剣が通り過ぎたのが目に入ってきた。

 2本しか音が無かったのに、4本も通り過ぎたか。どうにかして隠蔽して投げたってことだな。どんな技術を使ったんだろうか?

 子どもたちの成長を喜ぶと同時に、背筋がうすら寒くなるのを感じた。
しおりを挟む
感想 316

あなたにおすすめの小説

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~

犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。 塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。 弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。 けれども違ったのだ。 この世の中、強い奴ほど才能がなかった。 これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。 見抜いて、育てる。 育てて、恩を売って、いい暮らしをする。 誰もが知らない才能を見抜け。 そしてこの世界を生き残れ。 なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。 更新不定期

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

ダンジョン作成から始まる最強クラン

山椒
ファンタジー
ダンジョンが出現して数十年が経ち、ダンジョンがあることが日常となっていた。 そんな世界で五年前に起きた大規模魔物侵攻により心に傷を受けた青年がいた。 極力誰とも関わりを持たずにいた彼の住んでいる部屋に寝ている間にダンジョンが出現し、彼はそこに落ちた。 そのダンジョンは他に確認されていない自作するダンジョンであった。 ダンジョンとモンスターにトラウマを抱えつつもダンジョン作成を始めていく。 ただそのダンジョンは特別性であった。 ダンジョンが彼を、彼の大事な人を強くするダンジョンであった。

ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。 まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。 しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。 一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。

処理中です...