全機械式天使の宿望

藍色綿菓子

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舞台

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 五藤君を見舞いに行くと、何度か芝居じみた言動の女医と遭遇した。話しかけてくるので、いくらか雑談もする。その人の名前は横越桂。変わった人だ、という第一印象は、ぶれることなく強まっていた。彼女は医師でありながら、同時に劇団員としても活動しているらしい。趣味のような集まりで、仕事の合間に稽古と公演をしているのだそうだ。話していると、どうも医師より劇団員として語る言葉に熱量を感じる。どうして医者を志したのか、と尋ねてみると、彼女は達者な口を数秒沈黙させて目を泳がせていた。はは、と笑って、手を金の形にして見せてきた。
「だけど、忙しいから、少し後悔してるんだ。私は本当は、医師としてより、劇場に立つ人間として死にたいな」
 そう言ってすぐ、死にたいなんて医師が言うのは不謹慎かな? と言っていたのが、「医師」に縛られているように思えて不憫だった。
 五藤君は段々と元気な姿を取り戻しつつあった。急に体重が変わって、一時的に平衡感覚が狂ってしまったらしく、歩行や日常動作のリハビリに励んでいた。
 五藤君に外出許可が出るちょうどその頃、桂さんの劇の公演があるらしい。ノルマがあるんだ、と言う桂さんにチケットを売りつけられてしまった。五藤君と二人で観に行こうと約束をした。

 無事外出許可が降りた。待ち合わせ場所にやってきた五藤君の顔には、まだケロイドのような凹凸が残っている。軟膏を忘れずに塗って馴染ませていけば、目立たなくなるようだ。脂肪が無くなっても、醜さは変わらないのは何の因果だろう。
 彼の見た目は随分変わったので、醜い天使といって人が集まることは無かった。じろじろと不躾な視線は寄せられる。目を背ける人もいる。これは五藤君が天使と呼ばれる前からそうだ。
 桂さんの劇は、貸し出しホールの一室で行われた。並べられたパイプ椅子には、数十人の観客がひしめいている。そこに混ざって観劇した。舞台の上の桂さんは、いつにも増して生き生きしていて、いつもの言動もよく合っていた。
 劇中で、辛い境遇にいる老婆が、神に祈っている。
「祈るのをやめろ!」
 主役が叫んだ。声量が、空気を揺らす。肌がびりびりした。神は助けてくれない。印象的なシーンだった。
 劇の後に、キャストと写真を撮ったり、話したりするための時間がある。私達は桂さんのところに行った。来てくれてありがとう、と言う桂さんに、二人で劇の感想を伝える。彼女の頬は上気していた。そういう化粧なのか、劇の興奮か。
 桂さんのところには他にも患者が押し寄せていた。先生、と彼女を呼ぶ人達が大勢いたので、五藤君と私は席に戻った。同じチケットで、続けて別の劇団の劇が見れるらしい。
「桂さん、いつもより綺麗に見えたよ」
 五藤君は先程の劇を気に入ったようだ。そうね、と答える。面白くない。キャストが退出し、舞台が整って、また幕が上がる。
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