飛翔

藍色綿菓子

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飛翔

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 大きな翼が地に擦れる。痛みはない。むしろ地面の細かな石や湿った土、植物を削り取って歩いている。たまに羽ばたいて、引きずった地面の一部を除く必要があった。翼は重く、ひどく硬い。濁った灰色の、石でできているのだ。いつでも見上げると、どこまでも続く空がある。今は柔らかな青を一面に広げていた。時によって、赤くなったり、黒くなったり、細かな宝石を散りばめたり、光る球体を浮かべたりする。空は自由だった。近くに行きたいと強く思う。何度も翼を動かして、いつか体が宙に浮くのを夢見ているが、まだ誰も石の翼で空を飛んではいない。諦めの気持ちはくすぶる。焼けるような憧憬が日に日に強まる。
 ある時友達のツェが、目を赤くして、第二の空の欠片を零した。頬がしとどに濡れる。空の色が映りこんで光る。彼は耐えかねたのだ。
「丘を越える」
 その一言を最後に、彼の姿は消えた。丘の向こうに何があるのかは知らない。最後に見たツェの目が、恐ろしいほど力強く、かける言葉を探すこともできずに気圧されていたのを覚えている。
 仲間は増減を繰り返す。石の翼では空は飛べない。飛ぶことを諦めたこともあった。酷くどうでも良いことのように思えた。しかしふと意識の内に空を受け入れれば、その瞬間に容易く再燃する。恋焦がれ、憎悪のように渦を巻く。気持ちを持て余した。不意に目頭が熱くなり、第二の空の欠片が落ちていくのだ。ツェの言葉を思い出す。丘を越える。
 丘を越えた仲間はいるが、そこから戻ってきた仲間はいない。死に場所を求めて行くのだと誰かは言った。いざ丘へ、と思う今では、死に場所だなどとはとんでもない。丘の向こうに望みを託す。空を想う胸の痛みに比べれば、道中の苦労は無いに等しい。
 登り終えた丘の上で、開けた視界を手にした。なんと、予想だにしない光景、一面が青。空が視界の上部を覆い、下部に空色を煮詰めた色の第二の空がある。伝え聞いていたのみの第二の空が、なみなみと地を覆い尽くしていた。第二の空は、空の色を宿して波打つ。
 思考の余地はもはや無い。第二の空と、空の境界は確かにある。しかし暮れだした日は境界を混ぜあう。やっと空を飛べる! 形だけ羽ばたいて飛び込んだ。第二の空に落ちていく。それは体にまとわりつき、気道はふさがれた。抵抗もむなしく、翼の重みでただ下に沈む。膨らんだツェの死体を見付けた。意識は遠のく。案外苦しくて不自由な。
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みんなの感想(1件)

那須与二
2022.01.04 那須与二
ネタバレ含む
2022.01.04 藍色綿菓子

感想ありがとうございます(^^)
とても嬉しく思っております。
ネタバレなどお気になさらないでくださいね。
ありがとうございました^_^

解除

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