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EX5 ガールズトーク?
しおりを挟む『アリスちゃんアリスちゃん。ちょっといいですか?』
真夜中の一騒動も収束し、就寝しているところを聖剣がこっそりと声かけてきた。
当然の隣で横になっている明星君は深い眠りの中だ。起きる気配はまるでない。
このタイミングをわざわざ狙って話しかけてきたということは、
「明星君には聞かせられないお話ということかしら」
『イグザクトリー、理解が早くて助かります。魔剣ちゃんは……』
魔剣に目を向けると、
『ムニャムニャ……駄目よぉクソ雑魚マスター♡』
彼女は大変気分良さそうにフワフワと浮かんでいた。
『魔剣ちゃんは……爆睡しているようですし、ほっときましょうか』
◆
明星君達に話を聞かれないよう私達は隣の部屋へと移動した。
「それで話ってなにかしら?」
『単刀直入に行きましょうか。マスターは隠しているつもりでしょうが、確実に何か心的外傷なるものを持っています』
それから聖剣は明星影人という存在の危うさについて淡々と語り始めた。
彼女の話す内容はどれも突っ込みどころ満載だったが、やはり特筆すべき内容は彼の自身に対する無頓着さだ。
王国を脱出してからは一度もないそうだが、異世界転移してからというもの何度も聖剣を手放そうとしていたそうな。
この状況下でその選択は正気の沙汰ではない。実際似たようなことを私の前でも一度行ったし、その行為には一種の危うさを感じた。
それらを鑑みて心的外傷と表現するのはあながち間違えではないと思えた。
「それをなんで私に?」
『そりゃ貴方がマスターの同郷かつ女だからですよ』
「……それは女としての役割を期待しているということかしら?」
聞く人が聞けば激昂するような発言だが、私はさして驚かなかった。
そもそも私自身、保身やリスクリターンを考慮して夜這いを仕掛けた身だ。結果はお察しだったが。
『まぁ有り体に言えばそういうことです。私がしてもいいんですが中々警戒を解いてくれませんからね』
「彼あぁ見えてなんというか頑なだものね」
更に言うなれば彼はクラスメイトである私にすら心を許していない。そういう捉え方も出来ると思う。何せあれだけ覚悟して決行した夜這いも上手いことかわされてしまったわけだし。
……思い出したら何かムカムカしてきたわね。明星君のくせに生意気よ。
『マスターにも困ったものです』
聖剣は苦笑した。
その苦笑には私も概ね同意だ。
私から見ても明星影人という存在は異常の一言に尽きた。
そしてその考えは聖剣が話した今までの経緯を聞き一層深まった。
彼は何もかもチグハグなのだ。
聖剣や魔剣という絶対的な力があるのにも拘わらず、驕りもしなければ振るおうともしない。そしてあまつさえそれを捨てようとする。
では彼が人格者なのかと聞かれればそれも違う。むしろ無駄に捻くれた思考回路をした男子高校生という感じだ。
こんなの頭のネジが外れた聖人君子か自殺志願者でしかない。心的外傷があると言われるのも頷けるというものだ。
『彼はとても危うい、私はそう思うのです。そしてそれにより命を落としてしまうのではないかと気が気ではないです』
「ふふっ」
彼女のあまりにも真剣な物言いに私はいけないと思いつつも笑みを零してしまった。
『な、なんですかその余裕シャクシャクそうな笑みはぁ!!』
「あ、いえ。気を悪くしたら謝るわ」
別に悪い意味でも馬鹿にしたわけでもない。むしろその逆。
「聖剣なんてよく分からない武器だと思っていたけれど、存外彼のことは気に入っているみたいなのね」
『ぐぅっ』
聖剣は苦虫を嚙み潰したような呻き声を上げた。
『だ、だいたい貴方だってそれは同じじゃないですか!』
その言葉に思わずドキリとした。
誤解なく言おう。私、一ノ瀬アリスはハッキリ言って明星影人に惹かれ始めている。
確かに私の好みとは似ても似つかない。性格だってハッキリ言って論外のはずだ。そのはず、そのはずなのに私は明星君から目を離せなかった。
最初はあの王国から逃げ出すために利用する存在程度でしかなかった。しかし今はどう思っているかと聞かれれば首をかしげてしまう。
私自身も心のうちに生じた解析不能な感情に戸惑っているほどだ。しかしそれは何故か不快さを感じさせるものではなかった。
今日だってそうだ。
恐らく彼は私の思惑など全て見抜いていたに違いない。そのはずなのに私を傷つけないような提案をしてくれた。彼自身、ほとんどメリットが存在しないにも関わらずだ。
惹かれないわけがなかった。
『こ、コホン。まぁそんなわけであの阿呆マスターはいつかコロッと死にそうなんです。だから楔が欲しいなと』
男にとって女とは分かりやすい生存理由だ。守るべき存在がいるから命を懸けて戦うし、生き残ろうともする。分からないでもない話だ。
「話は分かるけどそう上手く行くかしらね」
『それなんですよねぇ。マスターは童貞の癖に変にがっついていないというか。いや興味津々なのは確かなんですが肝心なところで一線を引くといいますかね。……よし一服盛りますか』
それもどうだろうか。あまり上手くいくように思えないが。
「お互いに苦労しそうね」
『えぇまったくもってその通りです。マスターには本当に心の底から困ったものです』
これにはお互い示し合わせるわけでもなく同時に苦笑してしまった。彼と関わる以上、その未来はほぼ確実なように思えたからだ。
彼女との真夜中の密談はこれにて終了した。そのまま明星君達がいる部屋に戻ると、
『むにゃむにゃ……マスターは本当にざこざこなんだからぁ♡』
そんな魔剣の気の抜けるような寝言が私達を出迎えた。それを聞いた私達は思わず顔を見合わせてしまい、また苦笑を漏らしてしまうのだった。
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