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アリスと魔導本の真骨頂③
しおりを挟む「ふぅ……こんなところかしらね」
たった一人かつ、ものの一分もかからず王国軍隊を壊滅させた一ノ瀬アリスは、まるで一冊の本を読み終えた時のような軽さで一息ついた。
そんな彼女の態度とは裏腹に、俺の目に前に広がる光景は地獄と言っても過言ではなかった。
しかも何故か彼女だけ演出が違うんすけど。
殲滅された王国兵士達は辛うじて息はあるものの、どいつもこいつも死にぞこないであり死屍累々と地獄のような様相を呈していた。
しかし彼女だけは違う。雲の隙間から伸びる一筋の光が照らし、地獄に降り立った純白の天使にすら見えてしまった。俺、病院行った方がいいな。
当然、こんな光景を目の当たりにすれば俺の中には一つの疑問が浮かんできた。
「ねぇねぇ聖剣ちゃん聖剣ちゃん。一ノ瀬って本当に無能扱いだったの? 目の前の地獄絵図を見ているととてもそうは思えないんだけど」
『まぁマスターの気持ちも分からないではないですがねぇ。まぁ流行りってやつですよ流行り。マスターの世界でも追放ざまぁとか流行っているじゃないですか。あれと似たようなもんですよ』
んなわけあるかい、と思ったがそれだけアリスの潜在能力が高かったということだろう。
実際、聖剣ちゃんに聞いたステータス値(王国兵士のステータス値がだいたい100ってやつ)が真実なら可笑しな話でもない。なにせ彼女の魔力ステータス値は10000を軽く超えているからね。
目の前の凄惨たる光景に呆けていると、
「――なに調子乗ってんだコラァ!!」
ヤンキー氏が聞くに堪えないダミ声を上げた。
あ、まだいたんだ。
「ハ、ハ、ハ! ハハハ!! 確かにさっきの魔術はそりゃ凄ぇけどよ。所詮は見掛け倒しだ、そうに決まっている!!」
そしてそんなあまりにも見当違いなことをおほざきになられた。
「えぇ、見掛け倒しって目の前で完膚無きまでに王国兵士達がフルボッコにされているじゃん」
『マスター、この手の輩に正論をぶちかますのは可哀そうですよ。どうせ下半身に脳がついているんですからそんなこと理解できるわけないじゃないですか』
『聖剣ちゃん言うね~まぁでも魔剣ちゃん的にもダサダサの極みで論外♡』
「うるせぇよ! なんだったらこの俺様の力を見せて――」
「ハァ」
アリスはヤンキー氏の言葉を露骨に遮るように溜息を吐いた。俗にいうクソデカ溜息というやつだ。
「うっ」
アリスのあまりにも威圧的な雰囲気に圧倒されて、ヤンキー氏は次の言葉が出せないでいた。
しかし彼女はそんな彼の惨状を見てもお構いなしだ。矢継ぎ早に言葉を重ねていった。
「まったくお目出度過ぎて失笑すらでないわ。さっきの魔術、まだ残弾が腐るほどあるの」
あ、ほんとだ。
よくよく見ればまだ彼女の頭上にはいくつもの炎弾が浮かんでいる。全然気がつかなかったわ。
『ま、つまりこういうこった。収束っと』
そんな中、魔導本がそっけなく呟いた。
すると次の瞬間、驚くべきことにヤンキー氏の体を覆い尽くすようにいくつもの魔術陣が浮かび上がった。
「ちょっ、おまっ!?」
「さようなら、灰燼に帰しなさい」
そして数十発にも及ぶ炎弾がヤンキー氏に殺到し、問答無用で炸裂するのだった。
……本当に余談だが俺はこの時、キンタマがひゅんっとなる感覚に陥ったね。本当に余談だけど。
◆
「ぶ……べ……」
アリスの炎弾をもろにくらったヤンキー氏はプスプスと黒煙を上げ気絶するように地面に倒れ込んだ。
しかし彼女がそれを気にかけることはない。一瞥すら向けなかったほどだ。
そして、そんな彼女はとある一点に絶対零度とも言えるほど冷徹な視線を送っていた。
「それでどうするのかしら?」
「はは、これは予想外だ。少々困ったな」
その視線の先には陽キャイケメンこと天上院天下がこんな状況にも関わらず余裕な笑みを浮かべているのだった。
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