あなたと歩む未来を取り戻したい。

飛燕 つばさ

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第二章 遡及編(アフターストーリー)

第51話 If(アフターストーリー)

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◇ ナレーター : レジャック ◇

 さあ、さあ、お立ち会い。

 以下に続くのは、『二章 遡及編』で正しい未来を歩むことになった後の物語だよ。

 未来は予測不可能な要素が含まれている。

 それによって未来の展開を楽しみながらも、時には順調に進まないこともあるのが人の道だね。

 そんな予測不可能な未来における、一つの話の展開として、Ifもしも バージョンの物語を紹介しようじゃないか。

 それは、真由君や観ている君が望む未来の姿かも知れないね。それじゃあ、また後で会おう。
 

◇ 未来の分岐点から一年後 ◇

「真由ちゃん、本当にありがとうね。」

「いえいえ、どういたしまして。新田さんなら、あの子に紹介してもいいかなって思ったんです。あの子、大学を卒業してすぐに韓国に渡って、日本に戻ってきたばかりなんですよ。」

『未来の分岐点』を正しい未来へと歩み始めてから、約一年が経った。

 私にとって最も驚くべき出来事は、別の未来で命を落としてしまった新田さんに再び出会えた瞬間だろう。

 卒業後、私は別の未来の時と同じ会社に就職し、そこで再び新田さんと再会することができたのだ。

 別の未来での彼は、私や拓弥さんを庇って亡くなってしまい、私はその後も彼の死を悲しみながら10年以上の歳月を過ごしたのであった。

 再び彼の姿を目にした瞬間、感慨深く涙があふれ出てしまったのは、至極当然のことだった。

 恵美に関しては、卒業以降も素晴らしい絆が絶え間なく続いていた。

 彼女は大学を卒業した後、韓国の地に赴き、美の領域における知識と経験を蓄積することに励んだ。そして、再び日本の故郷へと還ってきたのだ。

 恵美はその習得した専門知識を駆使し、韓国流の美容サロンで勤務しながら、将来的には自己の独立を志向しているとのことだ。

 先日、一年ぶりに恵美に再会し、一緒に食事を楽しむ機会に恵まれた。

 その時、私は彼女の変貌ぶりに驚きを禁じ得なかった。

 以前はファッションや美容には無縁の存在だと思っていたが、彼女が真に美しく成長して戻ってきたのだ。

 別の未来では、彼女が整形手術を受けていたのだが、こちらではそうではないようだ。

 彼女の髪型やファッション、メイクの技術は素晴らしく、女性らしい自然な美しさが溢れていた。
 
 食事の席での会話の中で、彼女は男性との出会いが少なく、寂しい思いをしていることを打ち明けた。

 私は思い切って、新田さんを彼女に紹介することにした。

 以前の別の未来での出来事を思い出すと、新田さんを恵美に紹介することは過酷な選択のようにも感じられる。

 しかし、レジャックさんが最後に私に託した言葉、『恵美と仲良くしてやって欲しい』という言葉には何か重要な意味があるのではないかと思い、彼らを結びつけることを決意したのである。

 一方、新田さんは入社時より、私に対して非常に親切な態度で接してくれていた。

 私は当時から拓弥さんとの関係を公言していたため、別の未来でのように新田さんと交際する関係にはならなかった。

 しかし、彼の人柄の良さから、親しい同僚として交流することはあった。

 新田さんからもまた、気の合うパートナーを求めていることを相談されたことがあり、今回恵美と彼を引き合わせることにしたのである。


◇ 焼肉屋『わっしょい一番』 ◇

「初対面でいきなり焼肉?」

「新田さんがどうしてもって。」

「ごめんね。楽しく食べて飲めると思って…。あ、俺は新田弘樹といいます。真由ちゃんの職場の同僚です。」

「いえ、そんな、そんな。私、焼肉好きだから大丈夫です。私は、佐々木恵美といいます。」

「恵美さん、いい名前だね。さあさあ、入ろう。ここは知り合いがやってるから顔が効くんだよ。」

 この焼肉店には、新田さんと何度か行った記憶がある。勿論前に経験した別の未来での出来事である。

 当時の新田さんとの思い出が甦り、少し悲しい気持ちになるが、二人には関係のない記憶だから、気持ちを切り替えて店に入ることにする。

「弘樹!何だ!?美女二人とお出ましか!?お前も偉くなったもんだな。」

「馬鹿か!?そんなんじゃねぇの。望月、変なこと言ってるとぶっ飛ばすぞ!」

「お~。そりゃ、こえ~わ。」

「あはは!今日も頼んだよ。」

「あいよ~!三名様ご来店です。」

 新田さんと店長さんは大学時代からの仲であることを私は知ってる。そのことをこの場の誰も知らないだろう…。

「乾杯ー!!」

 席に座ると登場する生ビールと、塩タン、上カルビ、上ロースのセットは、記憶通りだった。

 その後は、新田さんの独壇場となった。

 私と恵美は、焼肉を焼くのは新田さんにお任せして、楽しく飲んで食べて笑って、大満足だった。

「新田さんの焼き加減は絶妙ですね。美味しいです。」

「恵美ちゃん。本当に美味しそうに食べるね!俺は、そういう表情を見るのが好きなんだ。」

「あ、新田さん。恥ずかしいので、あまりジロジロ見ないでくださいね!」

「あ、そっか…。ごめんごめん。」

 なかなかいい感じの二人だった。

 新田さんは話しやすい人柄であり、恵美は以前の彼女とは異なり、洗脳が解けてからとても明るい性格になった。

 そのため、二人の相性も良さそうに思えた。

 この調子で私の企画した飲み会は大成功に終わった。

 上機嫌で店を後にした二人は、しっかり連絡先を交換しており、仲立ちした私もほっと一安心したのだった…。


◇ 未来の分岐点から三年後 ◇

 あれから三年後に私と拓弥さんは、入籍した。

 これまですぐに結婚しなかったのは、彼が仕事を重視したいということが大きかった。

 彼は、会社でその能力を評価され、知識や技術、そして経験を積むのに必死だった。

 私は、陰で彼を支えながらここまでやってきたのだ。

 拓弥さんは、みるみるうちにその実力が確かな物となり、若手一番の有望株と言われる程に成長を遂げていた。

 運命の悪戯か、私は再び『夕涼みの丘公園』に来ることになった。

 ここは、別の未来では私が彼からプロポーズを受けた場所であるが、新田さんを失った場所でもあった…。

 私は、複雑な気持ちを抱きながら拓弥さんと丘の上の展望台に立つ。

 近代的な東京の景色が茜色に染まって美しく見えている。

 ホントにしばらくぶりに見た景色に心がざわめいている。

「真由。待たせてごめんね。俺もようやく真由を迎えられる土台が築けたようだ。でも、仕事や生活が上手く行っているのは、陰ながら俺を支えてくれた真由のお陰だと思っているよ。」

「拓弥君…。」

 私は、二人で夢見ていた未来が確かな物であることはわかっていたが、まだまだ仕事や生活の面で足元が固まっていないと言う彼の気持ちを尊重しながら待っていた。

 しかし、しっかりと私との未来を見据えて考えてくれていたことや、私の気持ちをちゃんとわかってくれていたことが嬉しかったのである。

「福田真由さん。俺は、どんなことがあっても必ず君を大切し、守り抜くと約束します。そして、真由のことか世界一好きだよ!俺と結婚してください!」

 再びこの場所で彼の口から愛の言葉が伝えられた。

 場所は同じでもシチュエーションや状況が変化しており、それでも変わらぬ彼の気持ちが私の心を強く揺さぶった。

「はい!」

 私は、感激に涙を浮かべながら返事をすると、彼は婚約指輪を取り出してそっと薬指へとはめてくれたのであった。

 その時である。

《パン!》
《パン!》

 火薬が爆発するような音に驚き、その場にしゃがみこんで身をすくませた。

(まさか…。あの時のように…。)

 別の未来で起きた悲しい展開が脳裏をよぎる。

(せっかく幸せを手にしたと思ったのに…。)

 瞬間的に多くの絶望感が心の中を埋めつくしていく。

 しかし、目の前の拓弥さんは相変わらず笑顔のままである。

(どうして!拓弥さんはそんなに笑顔なの?)

「結婚おめでとう!」

「えっ…!?」

 爆発音ではなく、クラッカーだった。

 目の前に現れたのは、新田さんとお腹が大きくなった恵美の二人であった。

 二人は、拓弥さんからプロポーズの話を聞き、その場でお祝いをしたくて駆けつけてくれていたのであった。

「ほら、真由。あなたたちのプロポーズのシーンをしっかり動画におさめてあるわよ!一生の宝物ね。」

「恵美ー!」

 私は、ホッとしたのと嬉しいのがごちゃごちゃになって思わず恵美に抱きついたのであった。

「こら、真由。赤ちゃんが苦しがるから!」

「あ、ごめん。恵美ありがとう。」

 恵美は、妊娠していた。

 実は昨年恵美と新田さんは、一足先に結婚し、新たな命を授かっていたのである。

 私は、別の未来で新田さんと恵美の悲しい出来事を知っている。

 それがずっとトラウマになっていたが、この場所でこの二人にお祝いされたことによって、そのこともすっかり解消されたようだった。

 私は、再び感極まって泣き始めてしまい、その後拓弥さんに落ち着くまで抱きしめてもらったのであった…。


◇ 未来の分岐点から11年後 ◇

 11年が過ぎ去り、私たちには二人の愛らしい子どもたちに恵まれた。

 夫の拓弥さんは、会社を独立して新会社を率いており、現在では100人以上の社員を抱え、医療用ロボットの大手企業と肩を並べている。

 私たち一家は都心にマイホームを持ち、幸福に暮らしている。

 私たち夫婦が大学時代に夢見た未来は、遂に実現したのだ。

「ママ、パパはどこにいるの?」

「パパは、自分の部屋で仕事をしているわよ。」

「分かった!ヒロくん、パパに遊んで貰おう!」

「あっ、お姉ちゃん待ってよ!」

 私は庭で花壇を手入れしていたところ、子どもたちから遊び相手を求められた。

 今日は拓弥さんが家にいるので、子どもたちはパパと一緒に遊ぶことができるだろう。

 子供たちが去って、再び花壇に集中すると、突然、庭の塀の向こうから誰かが私を見ているような感覚がした。

 女性だったように思うが、詳細は分からなかった。

 その瞬間、不気味な感覚が私の身体を走り、鳥肌が立った。

(こんなことが前にもあったような…。)

「ヨッ!」

「わっ!びっくりした。」

 その声に驚いて、私は慌てて振り向いた。

 目の前には、まだまだ美しい恵美と、少しふっくらした新田さん、そして可憐な娘のヒトカちゃんが立っていた。

 新田家の一同が、私の家を訪れてきたのであった…。

―――― END ――――

◇ ナレーター : レジャック ◇

 やあやあ、諸君。どうだったかね?

 未来というものは、予測できないから楽しみであったり、場合によっては悲しい結末が待っている場合もあるだろう。

 真由君の未来もそうだろうし、『未来の分岐点』以降に再び彼女が不幸な運命を辿る場合だって有り得るのだよ。

 それは、君にも言えるはずだよ。

 君の行い次第では、君の未来は大きく変化する場合だってあるのだよ。

 だから、今この瞬間を大切に歩んで欲しいものだね。

 そろそろ、時間だね。

 僕は戻るが、今度は君の物語を見せて貰おうじゃないか。君にはどんな物語が待っているのだろうね…。

◇ to be continued ◇
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