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間幕Ⅱ MIKA
ACT95
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妹――美波が私の事を嫌っている理由は知っている。
美波は全て知っているのだ。私が母の財布からお金を抜き取っていることを。
そして、母がそれを承知でお金を切らさないようにしていることを。
美波は優しい子だ。だから私のやっていることを許すことが出来ないのだ。
母を苦しめる私を。それでも拒絶することが出来ないから冷たい態度を取る事しかできない。
本当に嫌いで、拒絶するのであれば私を無視すればいい、空気として扱えばいい。でもそれが出来ない優しい子。
恨まれてもいい。
私は皆を護る。その為だけにスターになる。
いつか和解できればいい。もし和解できなかったとしても、私と違って好きな事を好きなように楽しめばいい。私は弟妹たちに可能性を見せてあげるのだ。お金があればその分だけ可能性は広がる。夢を持つ資格が与えられるのだ。
きっと妹は理解してくれないだろう。
それでもいい。そう思えた。
もう少しでスターへの足掛かりができる。
今回のチャンスは逃さない。絶対にだ――。
早朝。霜が降りる冷え冷えとした中、は出支度をする。
都内のスクールに通うには電車を乗り継いで一時間以上かかる。私は狭い部屋に敷き詰められた弟妹の布団の間を縫うようにして歩く。途中、か妹かは分からないが二度三度踏みつけた。
こちらも何度となく寝相の悪い弟妹たちに足を――主に脛を蹴られたのだからおあいこだろう。
誰も見送りには来てくれない。
背中に感じる視線に気づかないふりをして家を出る。
玄関のドアが閉まって一歩二歩と足を運ぶと、ガチャリと施錠する音が聞こえた。続いてドアチェーンを滑らせる音がした。
白い息を吐きながら私は駆け足で家から離れた。
スクールのレッスンは日に日にその激しさを増した。
二次審査、三次審査と勝ち進むだけ先生の指導にも熱が入った。
血反吐を吐く思いをした。昼夜どちらなのか分からなくなるほどに追い込まれた。時間感覚は狂い、丸一日食事を抜いていることにすら気づかないなんてことはざらにあった。
瞬く間に時間は過ぎて、最終審査を迎えた。
最終審査まで勝ち残った者は皆、誰もが即デビューできる容姿・能力があった。
合否を決めるのは容姿や能力以外の何か。他とは違う特別な何かが必要なのだ。
スターには一般人とは違う存在感――オーラがある。
そのオーラを作りだすものを持っている者が合格するのだ。
今まで散々、歌唱力やダンス・演技と審査をしてきて、最後にスター候補たちは面接という手段を用いて実力以外の何かを見極められる。
エントリー番号、名前、年齢、出身地。そして20秒以内での自己PR。正味30秒程ですべてが決する。
それぞれの持ち時間が終わると、面接官を務めるお偉方がそれぞれ質問する。
30秒で目に留まらなければ、質問されることなくライバルたちが合格――スターへの道を一段、また一段と上ってゆくのを指をくわえて見る他なくなる。
それが分かっているからこそ私たちは、自分の名前すら反芻して運命の時を待っていた。
「それでは皆様。最終審査会場へご案内いたします」
女性スタッフの声掛けに皆過敏に反応を示す。
覚悟を決めた者から立ち上がり、女性スタッフについて歩く。
仰々しい扉には「最終審査会場」と張り紙がされてある。
扉が開かれると同時に私たちの目に面接官の姿が飛び込む。
皆一様に唾を飲み込み小さく息を吐いてから入室した。
エントリー番号順に座らされる。
私の順番まであと二人……あと一人……ついに順番が回ってきた。
「それでは次の方」
視線を手元の書類から上げることなく手で「どうぞ」と指図する。
私は「はい」と返事をして立ち上がるとエントリー番号、名前、年齢、出身地とつつがなく言い終え、20秒の自己PRに入る。
すると、先程案内をしてくれた女性スタッフ血相を変えて入室してきた。
「三島加奈さん! 三島加奈さんはどちらですか!?」
私は小さく手を上げて、
「私が三島です」と答えた。
「今連絡があって、貴女のお母様が危篤だそうよ」
私は彼女の言っている意味が解らなかった。
「タクシーは呼んであるから」
女性スタッフの呼びかけに答えることが出来ない。
面接官の一人が、
「君! 急いで病院へ――」
私は言葉を遮って、
「大丈夫です。続けます」
面接官たちの間にどよめきが起こった。
しかし、と口を挿もうとした面接官に向かって再度「大丈夫です」と言い切った。
頬を伝う涙が薄く笑みを浮かべた口へと流れ込んだ。
しょっぱい、と味覚で感じて、ようやく自分が泣いているのだと気づいた。
それでも私は笑みを浮かべたまま自己PRをした――
美波は全て知っているのだ。私が母の財布からお金を抜き取っていることを。
そして、母がそれを承知でお金を切らさないようにしていることを。
美波は優しい子だ。だから私のやっていることを許すことが出来ないのだ。
母を苦しめる私を。それでも拒絶することが出来ないから冷たい態度を取る事しかできない。
本当に嫌いで、拒絶するのであれば私を無視すればいい、空気として扱えばいい。でもそれが出来ない優しい子。
恨まれてもいい。
私は皆を護る。その為だけにスターになる。
いつか和解できればいい。もし和解できなかったとしても、私と違って好きな事を好きなように楽しめばいい。私は弟妹たちに可能性を見せてあげるのだ。お金があればその分だけ可能性は広がる。夢を持つ資格が与えられるのだ。
きっと妹は理解してくれないだろう。
それでもいい。そう思えた。
もう少しでスターへの足掛かりができる。
今回のチャンスは逃さない。絶対にだ――。
早朝。霜が降りる冷え冷えとした中、は出支度をする。
都内のスクールに通うには電車を乗り継いで一時間以上かかる。私は狭い部屋に敷き詰められた弟妹の布団の間を縫うようにして歩く。途中、か妹かは分からないが二度三度踏みつけた。
こちらも何度となく寝相の悪い弟妹たちに足を――主に脛を蹴られたのだからおあいこだろう。
誰も見送りには来てくれない。
背中に感じる視線に気づかないふりをして家を出る。
玄関のドアが閉まって一歩二歩と足を運ぶと、ガチャリと施錠する音が聞こえた。続いてドアチェーンを滑らせる音がした。
白い息を吐きながら私は駆け足で家から離れた。
スクールのレッスンは日に日にその激しさを増した。
二次審査、三次審査と勝ち進むだけ先生の指導にも熱が入った。
血反吐を吐く思いをした。昼夜どちらなのか分からなくなるほどに追い込まれた。時間感覚は狂い、丸一日食事を抜いていることにすら気づかないなんてことはざらにあった。
瞬く間に時間は過ぎて、最終審査を迎えた。
最終審査まで勝ち残った者は皆、誰もが即デビューできる容姿・能力があった。
合否を決めるのは容姿や能力以外の何か。他とは違う特別な何かが必要なのだ。
スターには一般人とは違う存在感――オーラがある。
そのオーラを作りだすものを持っている者が合格するのだ。
今まで散々、歌唱力やダンス・演技と審査をしてきて、最後にスター候補たちは面接という手段を用いて実力以外の何かを見極められる。
エントリー番号、名前、年齢、出身地。そして20秒以内での自己PR。正味30秒程ですべてが決する。
それぞれの持ち時間が終わると、面接官を務めるお偉方がそれぞれ質問する。
30秒で目に留まらなければ、質問されることなくライバルたちが合格――スターへの道を一段、また一段と上ってゆくのを指をくわえて見る他なくなる。
それが分かっているからこそ私たちは、自分の名前すら反芻して運命の時を待っていた。
「それでは皆様。最終審査会場へご案内いたします」
女性スタッフの声掛けに皆過敏に反応を示す。
覚悟を決めた者から立ち上がり、女性スタッフについて歩く。
仰々しい扉には「最終審査会場」と張り紙がされてある。
扉が開かれると同時に私たちの目に面接官の姿が飛び込む。
皆一様に唾を飲み込み小さく息を吐いてから入室した。
エントリー番号順に座らされる。
私の順番まであと二人……あと一人……ついに順番が回ってきた。
「それでは次の方」
視線を手元の書類から上げることなく手で「どうぞ」と指図する。
私は「はい」と返事をして立ち上がるとエントリー番号、名前、年齢、出身地とつつがなく言い終え、20秒の自己PRに入る。
すると、先程案内をしてくれた女性スタッフ血相を変えて入室してきた。
「三島加奈さん! 三島加奈さんはどちらですか!?」
私は小さく手を上げて、
「私が三島です」と答えた。
「今連絡があって、貴女のお母様が危篤だそうよ」
私は彼女の言っている意味が解らなかった。
「タクシーは呼んであるから」
女性スタッフの呼びかけに答えることが出来ない。
面接官の一人が、
「君! 急いで病院へ――」
私は言葉を遮って、
「大丈夫です。続けます」
面接官たちの間にどよめきが起こった。
しかし、と口を挿もうとした面接官に向かって再度「大丈夫です」と言い切った。
頬を伝う涙が薄く笑みを浮かべた口へと流れ込んだ。
しょっぱい、と味覚で感じて、ようやく自分が泣いているのだと気づいた。
それでも私は笑みを浮かべたまま自己PRをした――
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