異世界グランハイルド・アレンと召喚獣-守護魔獣グランハイルド大陸物語ー

さん

文字の大きさ
60 / 107
第五章

第六十話・王都へ③国王の招待状(雨の中の出来事)前編

しおりを挟む
 ジョエルがバルトに散歩の許可を得て宿屋の外に出ると、アレンの姿は何処にも無かった。
 (あれ、どこに行ったんだろう?勝手に裏手に回ったのかな)ジョエルは裏手を見たが、アレンの姿はない。戻って来ると、厩舎係のジルに会った。
 「ジル、アレリス様を知らないかい」
 「はい、知ってます。アレリス様なら、厩舎でジョエルさんのベルに張り付いてましたよ」
 「??張り付いて・・。ありがとう、ジル」ジョエルは早速、厩舎に向かう。

 厩舎を覗いて回ると、ベルの馬房にアレンが居たのを見つける。
 (確かに、な。どうしたんだろう)アレンはベルに腕を回して、身体ごとピッタリと張り付くように身を寄せていた。ベルは首を回して、アレンの髪の毛をムシャムシャと口に入れている。
 「アレンここに居たの、探したよ」
 「・・・ジョエル。ごめん、ちょっといやされてた。ありがとう、ベル」ポンポンと軽くベルに触れると、馬房の横棒を潜って出て来た。
 「あ~あ、髪がベルのよだれで、べとべとじゃないか」ジョエルは歩きながら、アレンの頭を軽く拭いてやる。
 「ありがとう、ジョエル」珍しくアレンが、ジョエルの腕に頭を凭せ掛けたので、腕を回して肩を抱いてやる。
 「どういたしまして、散歩していいってさ。これから裏庭に行くかい?」
 「ううん、いいや。中に入ってお爺様とお茶を飲んでるよ」ちょうど、宿屋の入り口に着く。
 「ごめんね、ジョエル。せっかく聞いて来て貰ったのに」
 「はは、お安い御用さ。ささ、どうぞ若君様」ジョエルはおどけながら入り口の扉を開けてやり、二人並んで仲良く宿屋に入って行った。

 (信じられない。使用人に、謝るだなんて。その上、あんなふざけた態度を許すなんて有り得ないわ!)後ろから、それを見ていたエカテリーナは思った。彼女は、目で合図して扉を開けさせて、宿屋に入って行く。

 アレン達が入って行くと、奥のテーブルに見知らぬ貴族の男性と、こちらに背を向けたお爺様が座っていた。なぜか、手前の別のテーブルにバルトが座っている。バルトは、アレン達に気が付いて軽く頷く。

 バルトが伯爵に合図する前に、同じテーブルに座っていた見知らぬ人が大きな声でアレンに呼び掛けた。
 「おお、やっと、自慢のお孫さんがやって来ましたぞ、ダンドリュウス伯爵。早速、紹介願いたい」その声に振り返った伯爵がアレンを手招きしたので、二人のテーブルまで近寄り挨拶した。
 「初めまして、アレリス・フォン・ダンドリュウスと申します」胸に手を当てて、軽く頭を下げる。相手は座ったまま手を差し出した。
 「ヘリオキス・フォン・ワンダーホルン四世と申す。君の噂はわしの耳に迄届いておるぞ、素晴らしい活躍ぶりじゃ。是非とも懇意願いたい」アレンが手を差し出すと両手でぎゅっと握りしめて来た、まるで、逃がさんぞという風に。
 (確か、公爵家の一つだったっけ。前王朝の血を引く三代公爵家の一つだ)アレンは記憶を手繰り寄せる。
 
 「ささ、そちらに座りたまえ」ダンドリュウス伯の横の席を指して言うと、伯爵もアレンに頷いた。
 「失礼します」ジョエルが椅子を引き、そこにアレンが座った。これも、マナーの一環だ。一人で座ってはならない。他にも、がたくさん増えた。

 エカテリーナは、入り口に立ってそれを呆然と見ていた。
 (彼が、アレリス・フォン・ダンドリュウスですって・・・なんてこと。ほんとに、まだ子供だわ。礼儀も貴族のマナーもなっていない、田舎貴族丸だしね)

 「おや、ちょうど娘が戻って来た。エカテリーナ、こちらに来なさい」公爵が、彼女に気付いて呼び掛ける。彼女はドレスを少し手繰り、しゃなりしゃなりと歩いてテーブルにやって来た。
 アレンは、ジョエルに椅子をもう一度引いて貰って立ち上がり、彼女の顔を見て驚いた。さっきの少女だ、彼女の顔も少し強張っている。

 「エカテリーナ、彼があの有名なのアレリスだよ」公爵が嬉しそうに付け足す。
 (耳にタコができるくらい、何百編も聞いたわ)彼女は、心の中で密かに思った。
 
 「アレリス・フォン・ダンドリュウスと申します」
 「エカテリーナ・フォン・ワンダーホルンと申します」彼女はそう言うと、手を差し出した。
 アレンは差し出された手を受けると、軽く持ち上げ会釈したが、キスもせずそのまま放す。彼女は即座に赤くなった。
 (この私が手を差し出してやったのに、拒絶するなんて。田舎貴族のくせに!!)だが、彼女はその怒りを外に出すまいと努めた。
 別に礼儀として、手にキスをして返すとは決まっておらず、手を受けるのが通常だ。だが、手の甲にキスをするのは、若い娘や美しい女性に対する賛美の一環であり、彼女はキス無しで手を返された事が今までに一度もなかった。
 彼女は誰からも美しいと褒めそやされて来たし、実際にとても綺麗だった。

 「さあさ、二人とも座りなさい。こんな所で偶然に会えるなんて、旅の女神ミテラに感謝だ」公爵は両手を軽く上げて感謝のポーズを取る。
 (偶然でも、なんでもないくせに。彼らがどの行程で旅をするか、必死で探していたくせに)

 そう、ワンダーホルン公爵家には、跡取り息子はおらず、公爵自身の魔力も弱く魔獣も普通の動物と大差ない。他の親戚も似たり寄ったりだ。現王朝になってからは政治からも遠ざけられて久しい。そして、アレンの噂を聞いて俄然、欲が出て来たのである。
 強大とも言える、アレンの魔力を宿した血が何としても欲しいと。そして、宮廷の場に返り咲きたいと。だが、そう思っているのは、ワンダーホルン家だけでは無いと分かっているので、なんとしても王都に着くまでにダンドリュウス家に近付きたかったのである。

 しかし、そんな公爵の思惑とは裏腹に若い二人は互いに目も合わせていない。最初は娘の美貌に恥ずかしがっているのかと思われたが、どうやらそうではないらしいと気が付いた。
 公爵の話は笑顔で聞いているようだが、娘に話を振ると、返事を聞きたくないかのように下を向いてしまう。娘も彼に、絶対顔を向けようとしない。
 (あれだけ彼に上手く取り入れと厳命していたのに、一体なにが有ったのだ。伯爵も、二人の微妙な空気に気が付いている。・・・今はこれ以上、押しても無理だろう)

 「どうやら、少し前に着いたばかりで娘も疲れたようだ、これで失礼するよ。伯爵」
 「そうですか。我々もそろそろ引き上げますから、お先にどうぞ、ワンダーホルン公」ダンドリュウス伯も立ち上がり、公爵達を見送った。
 
 公爵達の姿が見えなくなると、皆が椅子に座りこんだ。
 「ふ~、やれやれ」伯爵や、バルト達も溜め息を吐いた。
 公爵は始終上機嫌で、弾丸のように一人喋り続けていた上、アレンとエアカテリーナのお互いを無視するような雰囲気に周りの皆はやきもきしていた。
 
 「一体どうしたと言うのだね、アレン」伯爵は問い質す。
 「・・・・・・」アレンは、無言で返した。
 「ここでは、周りに話が筒抜けです。部屋に上がってから話合いましょう。」バルトが伯爵に提案し、皆で一旦、部屋で休む事になり、二階に引き揚げた。そうして、ジョエルが事の発端をアレンから聞き出した。
 
 「う~む。それは貴族として当たり前というか、王都に近付くにつれ、そういう場を目撃する機会が増えて行くだろうな。彼等は使用人を人として見ていない面がある。ましてや、公爵家だ。身分が高くなれば、高く為る程、彼等の選民意識は高くなる。うちは、それに比べて緩いと言うか、伯爵も、先代も使用人や民を大事に思ってくださっている。それは、貴族として非常に珍しいんだよ。アレン」バルトがアレンに言い聞かせるように言う。
 
 「・・でも、おかしいよ。」アレンには、どうしても納得いかなかった。
 「そうだね、おかしいね。彼等、貴族は小さい時からそう教育もされて来たので、変だとも思ってないよ。でもね、彼等に意見することは非常に危険な事だよ。伯爵様を引いてはフォートランドをとても危うい立場に追い込むことになるんだ。だから、我慢してアレン」ジョエルが優しく諭す。

 「まあ、宮廷付き合いってのは、見えの張り合い、本音の隠し合い、腹の探り合いだ。自分の感情を表に出した者が負け、我慢できなかった者の負けになる。それにだ、彼女を助ける一番のいい方法はアレンが貴族の少女に手を貸してから、ジョエルか誰かを呼びに行きメイドを助けることで全てが丸く収まったんだ。だから、これからは絶対に一人にならない事、一人で何でもしないこと、人に任せること、だな」
 アレンは漸く頷いた。
 アレンをダンテとメイグに任せて、バルトとジョエルは伯爵の部屋に行き、これからどう対処するかを話し合った。

 「全く考えが及ばなかったが、よくよく考えると、アレン程、娘婿として最適な人物はいないだろう。特に、政争に巻き込まれるのだけは勘弁して貰いたいものだ。我が家だけでなく、同盟領主にも事が及んで来る」伯爵は頭を抱えた。
 それは、バルト達も同じで、彼等にとっては十歳(誕生日が来た)の子供だが、将来の娘婿を探している者にとっては、超、有料物件だ。希少種と言っても過言ではない。宮廷にいけば、アレンを巡って争いが起こるに違いない。
 
 「今から、サージョエント家の誰かと婚約するとかはいかがですか」ジョエルが提案した。
 「いや、それをすると、サージョエント家に圧力が掛るかもしれん。それはできない」伯爵は即座に否定する。
 「兎に角、宮廷では、なるべく部屋から出さないようにするしかないですね」
 「それも、駄目だ。部屋まで尋ねて来た客を追い返すことはできない。例え、病気だと言っても、治るまで何度も来るだろう。決して、諦めたりはせん」
 「「・・・・・」」打つ手無しに思えた。
 
 「そうじゃ、リクシルド(アライエンス伯)だ。彼に頼もう、彼の叔母のスローディング侯爵家に繋ぎを取って貰おう。スローディング家に匿って貰えれば、抑止力になるし、政争に巻き込まれる恐れも無い」
 「なるほど、それは名案ですね伯爵様」

 一同はホット胸を撫で下ろした。




++++
 
 スイマセン、長くなったので前編と、後編に分けます。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...