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②子雲が子供部屋にやってきた!

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◯川瀬さんチ・庭
芝生に日差しが当たり輝いている。
小鳥の鳴き声。
狭いが、きれいに整えられた花壇。
その隅に、『オバサン』と書かれた板(墓標)が立っている。
墓標の横で寝ている、太ったメスネコのオバサン。(実は幽霊で、人には見えない。)
目を覚まし、 立ち上がるオバサン。大きなあくびをする。
空を見上げるオバサン。(ん?と)首を傾げる。

◯空
青空に、ぽっかりと浮いている大きな白い雲と、その横に小さな雲。まるで、雲の親子のよう。
母雲のお腹の中に入ったり出たりしている、いたずらっ子の子雲。

◯川瀬さんチ・庭
空を見上げているオバサン。雲の親子に出会い、ワクワクする。つまり、ツンデレのデレ顔になる。が、直ぐに首を振り、ツン状態を装う。
そこへ、聞こえてくるミカの声。

ミカの声「あぁ忙しい忙しい」

振り向くオバサン。
物干し竿の下に置いてある台に乗るミカ。洗濯物のタオルをパンパンと伸ばしてから干す。
ふと横を見るミカ。
タオルをくしゃくしゃのまま干す寸前のパパ。

ミカ「パパ、ちゃんと伸ばしてから干さなきゃダメじゃない」
パパ「あ、ごめんごめん…… 」

タオルをパンパンと伸ばすパパ。
台から下り、パパを見上げるミカ。手を腰にもっていく。

ミカ「もぉ、これだから男の人は困るのよねぇ」

呆れて、鼻で笑うオバサン。
ミカ、後ろに置いてある籠から、洗濯物のタオルを取ろうと振り向く。すぐ後ろに立っているショウタとぶつかりそうになる。

ミカ「(驚き)キャッ」

ショウタ、口をポカンと開け、ぼーっと空を見上げている。
ショウタを睨むミカ。

ミカ「ショウタ、邪魔なんだから、もぉ」
パパ 「(笑顔で)ミカ、そんなに怒らない怒らない」
ミカ「だってぇ……」

口を尖らすミカ。
空を見上げたままのショウタ。

パパ「ショウタ、何見ているんだい?」

見上げたまま、空を指すショウタ。

ショウタ「あれ…… 」

空を見上げるパパ。

◯空
母雲と、その後ろでじゃれるように遊んでいる子雲。

◯川瀬さんチ・庭
空を見上げているショウタとパパ。

パパ「まるで雲の親子みたいだね。大空で遊べるなんて羨ましいぃ」

ピンとくるショウタ。

ショウタ「あ、そうか。パパ、オバサンはあの小さな雲になったんだね?」

驚くが、はっと思い出すパパ。

◯動物病院・診察室(パパの回想)
診察台で横になっているオバサン。苦痛顔。
診察台の周りに立っている獣医、パパ、ママ、おばあちゃん、ミカ、ショウタ。
息を引き取るオバサン。
聴診器をオバサンの胸に当てる獣医。悲しい顔で、パパに向かって首を左右に振る。
泣きだすパパ。
涙ぐむママとおばあちゃん。
辛いミカ。
死を理解できず、不思議顔で皆を見ているショウタ。

◯川瀬さんチ・庭(パパの回想)
泣いているパパ。花壇の隅にオバサンと書かれた小さな板(墓標)を立てる。
涙ぐんでいるママとおばあちゃん。オバサンの墓標の前にキャットフードを置く。
泣いているミカ。
首を傾げるショウタ。

ショウタ「(おばあちゃんに)オバサンはいつ帰って来くるの?」

ショウタの前で屈むおばあちゃん。

おばあちゃん「オバサンはね 、空にいるの。いつも空からショウタを見守っているのよ。 オバサン、いつまでもショウタのこと大好きだって。だから忘れたりしないでね」
ショウタ「うん。ぼくもオバサン、だーい好き」

空を見上げるショウタ。

◯同・同(現在)
悲しい顔でショウタを抱きしめるパパ。

パパ「ショウタ…… 」

心配顔で、パパを見るミカ。そのあと、ショウタを睨む。

ミカ「ショウタ、約束忘れたの? (と怒る)」
ショウタ「だって、オバサンは空にいるって、ぼくをずっと見ているって、おばあちゃんが言ったもん。だからオバサンはあの雲になったんだよね? パパ……」 
パパ「( 作り笑いで)そうだね。きっと……」

心配顔で、パパを見るミカ。

ショウタ「やったぁ。オバサンの雲だぁ」

大はしゃぎするショウタ。が何か気づき、考え込む。

ショウタ「パパ、あの小さな雲、名前なんていうのかな?」

考えるパパ。

パパ「ん~……あ(と閃き)、英語で言うとクラウディ・ベイビーてところかな」

頭を捻るショウタ。

ショウタ「クラ……」
パパ「ショウタにはちょっと難しいかな? じゃ、ショウタが名前をつけてやったらどうだろう?」
ショウタ「うん」

一生懸命考えるショウタ。

ショウタ「うーん……えーとね……(思いつき)あ、小さいからチビだ」

プッと吹き出すオバサン。

ミカ「あんただってチビのくせに」

ショウタのおでこを指で突くミカ。

ショウタ「パパァ、お姉ちゃんがぁ……」

パパに抱きつき、嘘泣きするショウタ。
ミカに、苦笑顔で首を左右に振るパパ。
口を尖らすミカ。

ミカ「だってパパ、ショウタは約束を破ったのよ。オバサンのことはもう言わないって約束したのに……」

驚くパパ。
泣き止むショウタ。

ショウタ「お姉ちゃんだって子供のくせにぃ(と怒る)」
ミカ「わたしはショウタみたいにチビじゃないから、オバサンがいなくたって平気だもん」

怒って、口を尖らすミカ。
驚くパパ。

パパ「ミカ……」

言いかけて迷うパパ。

ミカ「パパ、何?」
パパ「んー(と少し考えて)何でもない」

“?”と首を傾げるミカ。

パパ「それよりミカ、今日ショウタと2人きりのお留守番、本当に大丈夫かい? 初めてだから心配だよ」
ミカ「大丈夫だって」
パパ「いや、やっぱり仕事断るよ。急な電話での呼び出しなんだから、その権利はある。そうしたら最初の計画通り、皆でおばあちゃんのお見舞いにもいけるしね」
ミカ「パパ、わたしはもう8歳なのよ。お留守番ぐらい平気よ。失礼しちゃうわ」

口を尖らすミカ。

パパ「そんなつもりじゃないんだけど……」
ミカ「パパがお仕事休んだって知ったら、おばあちゃん、自分のせいだって思うでしょ」
パパ 「でもなぁ……」
ミカ「午後だけだから大丈夫よ。ママにもお留守番は任せてって約束したの。嘘つきになりたくないよ」

首を捻り、心配顔のオバサン。

パパ「じゃ、何かあったらすぐ携帯に電話するんだよ。いいね」

うんざりするミカ。

ミカ「 はいはい……それより時間大丈夫?」

携帯で時計を見るパパ。携帯の時計は『13:30』。

パパ「もうこんな時間。遅れるぅ」

ショウタの手を握り、歩きだすパパ。慌てて玄関から家の中に入る。
空を見上げるミカ。

◯空
母雲のお腹の中に入ったり出たりして、じゃれて遊んでいる子雲。
だんだん母雲が苛立ち、灰色になっていく。
母雲の変化に気付いていない子雲。相変わらずのいたずらっ子。

◯川瀬さんチ・庭
空を見上げているミカ。

ミカ「わたし、雲って大っ嫌い」

玄関から家の中に入るミカ。
不思議顔でミカを見送るオバサン。
再び空を見上げるオバサン。驚き、身震いする。

◯空
激怒し、赤くなっている母雲。遂に子雲に雷を落とす。
“ピカ” “ゴロゴロ”
(ヒェ、と)驚く子雲。思わず逃げだす。

◯川瀬さんチ・庭
(ほらね、とばかりに)鼻先で笑うオバサン。
壁を通り抜け、家の中に入っていくオバサン。

◯同・玄関
オバサン、奥から玄関に向かって、玄関ホールを歩いてくる。
たたきで靴を履いているパパ。
ミカとショウタ、パパを見送るため、玄関かまちに立っている。
ショウタの横まできて立ち止まるオバサン。
靴を履き終わり、ミカの両肩に手を置くパパ。

パパ「ミカ、いいかい。絶対表に出ないこと。それから、誰が来ても家の中に入れちゃだめだよ。わかったね」

口を尖らすミカ。

ミカ「もう、わかってるって」

ショウタの手を握るパパ。

パパ「ショウタ、お姉ちゃんの言うことをよく聞いて、お利口にしているんだよ。お土産買ってくるからね」
ショウタ「あのおもちゃだよ」
パパ「はいはい。じゃぁミカ、ショウタのこと頼んだよ」
ミカ「大丈夫だって。それより仕事遅れるわよ」
パパ「あ、いけない。行ってきまーす」

慌てて出て行くパパ。

◯空
から下りてくる子雲。興味津々で楽しい。が、体はどんどん縮んでいく。

◯川瀬さんチ・子供部屋
ショウタ、おもちゃ箱をひっくり返して遊んでいる。
入ってきて呆れるオバサン。
掃除機を引っ張りながら入ってくるミカ。
散らかった子供部屋を見て呆れるミカ。腰に手を当て、ため息をつく。

ミカ「ショウタ、掃除するんだから片付けてよ」
ショウタ「パパは掃除しろなんて言わなかったよ」
ミカ「パパを喜ばせたいの」

ミカを無視し、おもちゃで遊ぶショウタ。

ミカ「ほら、早く」

ショウタの手からおもちゃを取り上げるミカ。

ショウタ「いいもん」

子供部屋を出ていくショウタ。
呆れるミカ。

ミカ「(独り言で)ホント、子供なんだから……」

掃除機をかけ始めるミカ。
床に座り、ミカを見ているオバサン。
再び、入ってくるショウタ。手にはショートケーキを持っている。
ショウタに気づくミカ。呆れる。

ミカ「パパが、おやつは3時って言ったでしょ」 

ミカを無視するショウタ。ケーキを食べようとする。

ミカ「ショウタ!(と怒鳴る)」

ビクッと驚くショウタ。その拍子に、手に持っているケーキを床に落としてしまう。

ショウタ「(驚き)あ……」

一瞬、固まるショウタ。すぐに口を尖らせ、床に落ちているケーキを恨めし顔で睨む。 
呆れるミカ。

ミカ「パパに全部言うんだからね。ショウタなんか、パパに怒られればいいのよ」

半泣き顔になるショウタ。

ショウタ「(口を尖らせ)お姉ちゃんなんか嫌いだよ。パパのところに行くー」
ミカ「パパはお仕事なの。我慢しなさい」
ショウタ「じゃ、ママのところに行くー」
ミカ「ママはおばあちゃんの看病をしているんでしょ」
ショウタ「だから、病院に行くー」
ミカ「ショウタが行ったら、ママおばあちゃんの看病ができないでしょ」
ショウタ「やだ、行くー。だって、ママとおばあちゃんに会いたいんだもん」

ため息をつくミカ。 

ショウタ「お姉ちゃんがパパを仕事に行かせたから、病院に行けなくなっちゃたんだからね。お姉ちゃんのせいだからね」
ミカ「そんなことしたら、おばあちゃんが心配するでしょ」
ショウタ「お姉ちゃんはおばあちゃんが嫌いだから、会いたくないんだ。おばあちゃんに言いつけてやるー」

呆れるオバサン。

ミカ「(怒って)ショウタのバカ」

口を尖らすショウタ。

ショウタ「バカって言った人がバカだもん」

呆れるオバサン。
ため息をつくミカ。

ミカ「もぉ」

床に落ちているケーキをティッシュで拾い、ゴミ箱に捨てるミカ。
ショウタ、ゴミ箱の中のケーキを悲しい顔で見つめる。

ショウタ「ぼくのおやつはー?」

床をティッシュで拭いているミカ。

ミカ「ショウタが落としたんでしょ」

口を尖らすショウタ。

ショウタ「お腹すいて死んじゃったら、お姉ちゃんのせいだからね」

ため息をつくミカ。

ミカ「(仕方なく)わたしのケーキ半分あげるわよ。それでいいでしょ」
ショウタ「(嬉しくなって)うん」

呆れるオバサン。

ミカ「その代わり、おもちゃをおもちゃ箱に入れること」
ショウタ「うん」

おもちゃをおもちゃ箱に入れるショウタ。
ふと窓の方を見て驚くオバサン。
窓の外に、枕ぐらいの白くてモワモワしたものが、フワフワ浮いている。
前足で目をこすり、再び窓の外を見るオバサン。
窓の外にユラユラ浮いているのは、あの子雲である。好奇心旺盛で、あっちを見たり、こっちを見たりしながら、まるで散歩しているよう。 
一瞬、喜ぶが、わざとツンとするオバサン。
窓の外で、ピュー と強い風が吹く。
吹き飛ばされる子雲。
(あ、危ないと)驚くオバサン。

◯同・表
子雲の体は前の家の壁にぶつかり、まるで白い花火のように飛び散ってしまう。 あっちこっちに、小さくて白いフワフワした綿のようなものが浮いている。

◯同・子供部屋
窓から外を見ているオバサン。(どうしよう、と)心配する、が直ぐに驚く。

◯同・表
子雲、小さく飛び散った綿のような白いものを拾い集め、自分の体にくっつけていく。

◯同・子供部屋
窓から外を見ているオバサン。羨望の眼差し。すぐに、周りの目を気にしてツンとする。

◯同・表
やっと体が元に戻る子雲。(驚いたなぁ、といった感じで)ため息をつく。が、すぐに木に止まっている小鳥に気づき、じゃれつく。
嫌がる小鳥。

◯同・子供部屋
呆れるオバサン。

◯同・表
くちばしで子雲を突き始める小鳥。
逃げる子雲。追いかける小鳥。
小鳥と子雲の追いかけっこ。

◯同・子供部屋
窓から空を見上げ、あ、と気づくオバサン。

◯空
全体は青いが、母雲だけ灰色。(子雲を心配している。)
母雲が地上まで届く稲妻を発する。
“ピカ”

◯川瀬さんチ・子供部屋
窓の外に稲妻が走る。
“ピカ”
驚くショウタ。震えながら、ミカに抱きつく。

ショウタ「お、お姉ちゃん……」
ミカ「だ、大丈夫よ。ショウタは男の子でしょ」

言いながらも震えているミカ。
怖々、窓を開け、空を見上げるミカ。
空全体は青いが、母雲だけが灰色。

ミカ「(独り言で)あの大きな雲、なんか変。どうしちゃったんだろう?」

不安顔のミカ。
窓の上方を見て、驚くオバサン。
開いている窓。その上方から、入ってこようとしている子雲。
不思議顔のオバサン。
窓の外、再び稲妻が走る。
“ピカ”

ミカ「キャ(と悲鳴)」

思わず窓を閉めるミカ。その後、慌てて瞼を閉じ、両手で耳を塞ぐ。
ショウタも目を閉じ、両手で耳を塞ぐ。
窓の上方を見るオバサン。あ、と驚く。
壁と窓枠に腹部を挟まれている子雲。上半身と下半身が切り離されているが、気づいていない。
上半身だけで子供部屋に入ってくる子雲。物珍しそうに、キョロキョロしている。
やっと下半身がないことに気づく子雲。慌てて窓ガラスに顔を押しつけ、外に取り残された下半身を見る。
窓に怒る子雲。頰を膨らませ、腕組みをし、頭から煙のようなものをポッポーと出している。
机上に飛び上がり、前足で窓を少し開けてやるオバサン。
入ってくる子雲の下半身。上半身と合体する。
ほっとする子雲。
ワクワクした瞳で子雲を見ているオバサン。
テロップに、オバサンの心の言葉が表示。

『なにか面白いことが起きそうな予感。楽しみ~。』


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