病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)

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妄想型⑨

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 次の日。休み時間、後ろのロッカーに寄りかかりながら三人で談笑していた。いつも通りこちらの教室に訪れていた翔に、頼もうと思っていたことをふと思い出して口を開く。

「翔さ、電子辞書持ってる?」

「ん? あるけど、なに。忘れた?」

「いや、電池が──」

 言葉は途切れる。誰かに腰を引っ張られ、翔から引き剥がされたからだ。

「わり。こいつに用あっから借りるわ」

「おわっ」

 参宮くんだった。澄ました表情で腰を抱いて、返事も待たずに俺をどこかへ引っ張っていく。口から思わず間抜けな声が漏れた。

「は? ちょ──」

「え、田山くん──」

 困惑したような顔の翔と文月くんが何かを言おうとしていたが──それを聞き届けることも叶わず、廊下へと連れ出されるのだった。
 なんとか回された腕は外され、やっとまともに歩けるようになる。人気のない廊下まで来てしまったようだ。何か話でもあったり? ここでないと話せないことなのだろうか。

「参宮くん、用って? なんかあった?」

「あー? あんなん嘘に決まってんじゃん」

「え?」

 じゃあ、なんで。頭の中が疑問符でいっぱいになる。そんな俺を置いてけぼりにして、顎に手を当てて何かを思案しているようだった。

「他の奴とくっつきすぎだっての。もうちょっと周り牽制した方がいーか?」

「……ん?」

「てか、下の名前で呼べよ。怜央って言ってみ」

「……ん、え? れ、怜央くん?」

「ん。いーじゃん」

 ああ、あれか。恋人になるのは無理だったから、せめて友だちとしてはもっと仲良くなろうってことか。牽制に関しては──友人として嫉妬心が湧いたとか。恐らくそんな感じだろう。

 そう思っていた。そのときまでは。

 ***

「お前ってなんかぱっとしないよな」

「え、煽り?」

 なんだいきなり。……自分だって地味なのは自覚している。派手で顔も整っている彼に言われると、言葉が余計に胸に刺さる。紙パックのジュースを飲み、ストローを噛む。もう少し目立つ人間になりたいものだ。
 悔しさを覚えていれば、見上げた参宮くんはまた口を開く。

「ちげーよ。そこもかわいいって話」

 平然と言われたそれに、飲んでいたジュースを盛大に吹き出しそうになった。気管支に入ってむせてしまう。「うわ、大丈夫かよ」降ってくる声。誰のせいだと思ってるんだ。
 咳が落ち着いてから顔を見つめる。柳眉倒豎の顔に浮かぶその色は、冗談を言っているようでもない。

「……っげほ、……疲れてる?」

「は? いつも通りだけど」

 じゃあなんだ、かわいいって。
 全くかわいくないよと正論をぶつけてみるも、「じゃあ教えてやろうか。田山のかわいいとこはまず──」と、世迷言を続けられそうになったため、慌てて止めた。

 ***

 また別の日の放課後。

「え、参宮も帰んの?」

「……最近、多い、ね」

 俺の肩に腕を回す参宮くんに、ふたりは目を瞬いた。教室の中、周りの視線が地味に集まっていて痛い。

「方向ちげーし遠回りになっけど、田山と帰りてーし」

 そうだ。彼の家は俺の家から正反対の方向にあるのだが、わざわざ俺を家の近くまで見送ってから帰宅しているらしい。手間だろうと前に言ったのだが、同じことを言われて却下された。俺と帰りたいがために、そこまでするなんて。
 時間がかかるだろうそれが日課になりつつある。なんだか悪い。

「……おー……?」

「…………へえ……」

 なにか物言いたげに、ふたりは参宮くんの顔を見つめる。しかし特に言及するようなこともなく。
 俺の横の車道側を歩く参宮くんとともに、俺たちは帰路に就いたのだった。

 ***

「……俺と参宮くんって付き合ってる?」

「は?」

「な、え、……え?」

 机に肘をつき、手を組んで。眉を寄せ真剣な声で問いかけると、ふたりはそれぞれ珍妙な声を発した。

「……いや知らねーけど。告白でもされたん?」

「されたけど……今までの関係でいようって言った」

 え、と文月くんがまた声を漏らす。翔も目を大きく見開いた。

「されたのかよ! ……てかなんだそれ。じゃあ付き合ってなくね? 普通に考えてありえねーじゃん」

「……向こうが、勘違いしてる、ってこと? 距離、近いな、とは思ってた、けど……」

「……まさか」

 文月くんの言葉にまさか、とは思いつつも──その疑惑が、自分の中では大きくなりかけていて。友だちでいようと確かに伝えたはずだが、なにか誤解が生じてしまったのだろうか。

「なにはともあれ、ちゃんと話した方がいいだろ。……なにがあるかわかんねーから、ついてくか?」

「……うん。助け、入るよ……」

 心配するような、浮かない顔をするふたり。俺は手を横に振って、へらりと笑った。

「いや大丈夫! 参宮くんだし、話せばわかってくれるって!」

 結果的に、俺はその選択を後悔することになると──後ほど知るのだった。
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