魔力ゼロのポーション屋手伝い

書鈴 夏(ショベルカー)

文字の大きさ
6 / 18

道は違えど

しおりを挟む
 扉から顔を覗かせたのは、案の定ルーカスだった。帰ってきてくれた。わかってはいても、安堵の溜息をつく。

「ルーカス!」

 ここを飛び出したときよりも、どこか清々しい表情だった。まるでなにか、ふっきれたような。だけど俺と目が合うと、思いつめた色が浮かぶ。
 床へ視線を伏せて、「いきなり飛び出して、ごめん」と小さな声で謝罪を口にした。

「いろいろ、考えたんだ」

「うん」

 頷いて、続きを促す。言い淀むような素振りを見せたが──とうとう覚悟を決めたように視線を上げて、俺の瞳を見つめ。重い口を開いたのだった。

「…………俺、自分のことしか見えてなかった。もしリクを守れなかったら──死んだらって思ったら、……すごく、怖くなって……」

 自分の服の端を、固く握りしめている。鮮やかな琥珀色の髪と、伏せた長い睫毛がふるりと小さく震えた。瞳には、僅かな戸惑い。それと、怖れ。森の中、ひとりで己を見つめなおしたのだろう。フォールハイトさんの言葉を、真剣に受け止めたのだろう。

「前から考えてはいたんだろ」

「……だけど、やっぱり覚悟はできてなかった。悔しいけど、あの人の言う通りだ。考えが甘かったんだ」

 些細な言い方ひとつ。だけど、フォールハイトさんへの態度も柔らかくなっているのが感じ取れた。眦が下がる。心なしか、声色からも刺々しさは無くなっているように思える。
 いじらしさに、胸がくすぐられるような感覚を覚えた。

「真剣に思ってくれたんだな。それだけで十分だよ」

 笑って抱きしめる。息をのむ音。一拍置いて、おずおずと手が回された。ず、と鼻をすする音と、赤らんでいた目元には今は触れないことにした。……なんだか俺も、熱がこみ上げてきてしまう。根性の別れではないとわかってはいても。別れのときが来なければいい、なんて思ってしまった。ずっと一緒に居たいけど、それはお互いのためにならない。
 口惜しさを覚えながら、腕に少しだけ力を込めた。

 そうして、しばらくが経った頃。互いに赤い目元を見て笑い。目元を擦ってから言葉を紡ぐ。

「俺はここで手伝いをするよ。たまに来てくれたら、嬉しいな」

「あとお得意さんになってくれたら尚更」

 口を挟まずにいてくれたフォールハイトさんが、おどけた様子でそう言った。本当に、適度な距離感をわかってくれている人だ。気恥ずかしい空気が和む。

「……また、リクに会いに来る。得意先の話は、ポーションの出来次第で考えてやる」

「言うねえ。なら、テスターあげる。治癒ポーションだから、怪我した時にでも使いな」

 ほら、と促されて、手渡してくれたそれを差し出す。半透明のポーションが煌めく。いざ渡すとなると、なんだか妙な感情が生まれて。完成した直後は膨らんでいた自信が急速に萎んでいってしまった。迷惑ではないだろうか、押しつけがましくはないだろうか。そんな思いが、ぐるぐると頭の中を巡る。

「……俺が初めて調合したから、あまり効き目は無いかもしれないけど……」

「……リク、が?」

「監修と魔力込めるのはおじさんがしたし、代わりに保証するよ」

 ぽんと軽く背を叩かれる。勇気づけられるようだ。
 そうだ。手伝ってくれた彼の厚意を無駄にするわけにはいかない。

 彼の顔を凛と見据えて。息をひとつ飲んでから、唇を開いた。

「でも、本当は使って欲しくないんだ。危険になる前に逃げろよ。……絶対死ぬな、約束だからな」

 ルーカスは口を開きかけて──眉を下げ、くしゃりと泣き出しそうな笑顔を作った。瓶を受け取り、自身の胸へと抱き。そうして目を数秒閉じてから。ゆるり、柔らかな笑みを浮かべ、フォールハイトさんへと向き直る。

「……あんたにも、迷惑をかけた。悪かった。……リクをよろしく頼む」

「はーい。リクくんのためにも、いろいろと気をつけてよ」

 出口の前で、俺たちは改めて顔を合わせた。

「明日、旅に出る。もう準備はできているから、明け方には出発するよ」

「どこへ行くの?」

「ここから一番近い都だな。冒険者ギルドはそこにしかないから」

 もう一度、抱き合った。

「無事でな。無理はしないで」

「お前こそ」

 名残惜しさを振り払って、離れる。そうすると、ルーカスは微笑を浮かべて。振り返ることもなく、店を後にした。
 後ろで見ていたフォールハイトさんが、静かに呟く。

「あの子、あれ使わないだろうね」

「……なら、嬉しいな」

「勿体ないもん」

 それは俺が作ったから、だろうか。怪我をしたら遠慮せずに使って欲しいが──それを嬉しく感じてしまうのだからしょうがない。

「実際ポーションによっちゃ、強く念じる工程もあるんだよ。回復ポーションだと聞いたことはないけれど……今回はそれが効いたかもね。普通のものよりも、効果があるのが見てわかったから」

「……っはは、そうですかね」

 その言葉が、嘘でもいい。俺のために気を遣った方便でもいいのだ。
 込めた想いが、彼の旅路を明るく照らしてくれますように。祈りの形をしたそれが、ほんの少しでも役に立ってくれますように。
 願うことしかできない自分が歯がゆいけれど──ルーカスとまた出会えたその日には。今よりもたくさんのポーションを作れるようになっていよう。今日贈ったものだけじゃなく、もっと役に立つものも渡せるように。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

炎の精霊王の愛に満ちて

陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。 悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。 ミヤは答えた。「俺を、愛して」 小説家になろうにも掲載中です。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

幸福からくる世界

林 業
BL
大陸唯一の魔導具師であり精霊使い、ルーンティル。 元兵士であり、街の英雄で、(ルーンティルには秘匿中)冒険者のサジタリス。 共に暮らし、時に子供たちを養う。 二人の長い人生の一時。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】

まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

処理中です...