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目が覚めると、僕は自室のベッドで横になっていた。でも自室の様子はいつもとは違って、まだこの家に来たばっかりの時とおんなじだった。
「マーク様?いかがなされました?」
いつの間にかいた侍女が僕のそばに立っている。彼女はキャサリンだ。僕がここに来たばっかりの時にいた侍女の。
「なんでもないよ、キャシー。ねぇ、それよりお腹すいちゃった。もうご飯の時間?」
「はい、そうでございます。ご案内しますね」
ベッドから立つとやっぱりいつもより目線が低い。もともと背は低い方だったけど、こんなに低いほうじゃなかったはずだ。
「………?ねぇ、キャシー?僕一人でも行けるよ?」
僕が聞けばキャサリンはびっくりした顔をして言う。
「そんな、いらっしゃってまだ1週間もたっていないじゃないですか!道がわからないでしょう?」
そんなキャサリンの答えに僕はもっとびっくりした顔をする。
――やっぱり、来たばっかりの時なんだ!
「ごめんね、冗談だよ」
「ああ、驚きました。さ、こちらです」
キャサリンについていった場所には、やっぱりいつもより若いお父様とお母様がいた。でも、テーブルには3人分しかなくて、お兄様の姿はどこにもなかった。
『ラインがなんで家族の食卓にこないのかしらないくせに!』
男の声が頭に響く。昔なら気にしなかったような事実が、ずんと胸を重くした。
「マーク?どうかしたの?」
お母様が心配そうに僕を見てる。お母様も、気づいてないのかな。それとも忘れちゃったのかな、お兄様のこと。
「マーク?どうしたんだい?ほら、お父様に聞かせてご覧?」
お父様は覚えてるでしょう?お兄様のこと、ちゃんと覚えてるでしょう?だって、お父様はお兄様の父親だもの。
「…なんで、お兄様はいないの?」
「……お兄様?」
お父様の笑顔が一瞬曇った。でも一瞬で戻して、僕に思い切りの笑顔で話しかける。
「お兄様は……あー、少し、忙しいのだよ。ほら、食事に戻ろう」
とびきりの笑顔だったけど、ごまかそうとしてるのが見え見えだ。これでも17歳だ、それくらいじゃだまされない。
「お兄様が来れないなら、僕が会いに行きます!キャシー、案内して!」
「え!?あ、はい!」
お父様の待ちなさい!という声が後ろで響いていたけど気にしない。だって、これをたどった先にきっと真実があるのだから。
気にしてなんて居られない。そうでしょ?
―――
案内された先は、あの時お兄様が首を吊っていた部屋だった。あの、小さな部屋に、お兄様は今もいる。なんだか信じられなくて、震える手でなんとかノックをする。
「……どうぞ」
子どもらしい柔らかいアルトの声が響く。
……そうだ、お兄様だって子どもなのだ。僕と一つしか変わらない。
「は、はい!失礼しま…す……」
小さな部屋にぎゅうぎゅうに置かれている骨組みだけのベッドに、お兄様は横たわっていた。コケた頬が、浮き出た骨が、何日も何も食べていないことを物語っている。
「………?ごめん………あまり体力を使いたくなくて……食事、ではないのかな……?」
寝たままのお兄様がなんとか頭をこっちに向けて話す。そのぼんやりとした目が閉じたら、また死んでしまうのではないかと思うほど弱々しい姿だった。
「お、お兄、様……こんな、こんなに、お痩せに……」
ベッドに近寄って手を握れば、ほんの弱い力しか返ってこない。それが怖くて、悲しくて、なんだか涙があふれた。
あの髪をなでる男は、こんな気持ちだったのかな。
「おにい、さま?……ああ、あの……マーク、か……子供を、泣き止ませるのは、得意じゃ、ないのに……」
震える手が僕を離れて、ベッドの脇に滑る。そこから出てきたのは一匹の茶色いテディベアだった。
「シルキー、と言う……俺の、母の、形見だ…なんで、まだ泣くの……」
テディベアを受け取っても泣き止まない僕を、お兄様が心配そうに見つめる。ああ、知らない、僕は、何にも知らない。
こんなにお兄様が細かっただなんて知らない。か弱かっただなんて知らない。つらそうな顔をしても、人を優先できるだなんて知らない。
僕にこんなに心配そうな顔をするだなんて、知らない。
「マーク様?いかがなされました?」
いつの間にかいた侍女が僕のそばに立っている。彼女はキャサリンだ。僕がここに来たばっかりの時にいた侍女の。
「なんでもないよ、キャシー。ねぇ、それよりお腹すいちゃった。もうご飯の時間?」
「はい、そうでございます。ご案内しますね」
ベッドから立つとやっぱりいつもより目線が低い。もともと背は低い方だったけど、こんなに低いほうじゃなかったはずだ。
「………?ねぇ、キャシー?僕一人でも行けるよ?」
僕が聞けばキャサリンはびっくりした顔をして言う。
「そんな、いらっしゃってまだ1週間もたっていないじゃないですか!道がわからないでしょう?」
そんなキャサリンの答えに僕はもっとびっくりした顔をする。
――やっぱり、来たばっかりの時なんだ!
「ごめんね、冗談だよ」
「ああ、驚きました。さ、こちらです」
キャサリンについていった場所には、やっぱりいつもより若いお父様とお母様がいた。でも、テーブルには3人分しかなくて、お兄様の姿はどこにもなかった。
『ラインがなんで家族の食卓にこないのかしらないくせに!』
男の声が頭に響く。昔なら気にしなかったような事実が、ずんと胸を重くした。
「マーク?どうかしたの?」
お母様が心配そうに僕を見てる。お母様も、気づいてないのかな。それとも忘れちゃったのかな、お兄様のこと。
「マーク?どうしたんだい?ほら、お父様に聞かせてご覧?」
お父様は覚えてるでしょう?お兄様のこと、ちゃんと覚えてるでしょう?だって、お父様はお兄様の父親だもの。
「…なんで、お兄様はいないの?」
「……お兄様?」
お父様の笑顔が一瞬曇った。でも一瞬で戻して、僕に思い切りの笑顔で話しかける。
「お兄様は……あー、少し、忙しいのだよ。ほら、食事に戻ろう」
とびきりの笑顔だったけど、ごまかそうとしてるのが見え見えだ。これでも17歳だ、それくらいじゃだまされない。
「お兄様が来れないなら、僕が会いに行きます!キャシー、案内して!」
「え!?あ、はい!」
お父様の待ちなさい!という声が後ろで響いていたけど気にしない。だって、これをたどった先にきっと真実があるのだから。
気にしてなんて居られない。そうでしょ?
―――
案内された先は、あの時お兄様が首を吊っていた部屋だった。あの、小さな部屋に、お兄様は今もいる。なんだか信じられなくて、震える手でなんとかノックをする。
「……どうぞ」
子どもらしい柔らかいアルトの声が響く。
……そうだ、お兄様だって子どもなのだ。僕と一つしか変わらない。
「は、はい!失礼しま…す……」
小さな部屋にぎゅうぎゅうに置かれている骨組みだけのベッドに、お兄様は横たわっていた。コケた頬が、浮き出た骨が、何日も何も食べていないことを物語っている。
「………?ごめん………あまり体力を使いたくなくて……食事、ではないのかな……?」
寝たままのお兄様がなんとか頭をこっちに向けて話す。そのぼんやりとした目が閉じたら、また死んでしまうのではないかと思うほど弱々しい姿だった。
「お、お兄、様……こんな、こんなに、お痩せに……」
ベッドに近寄って手を握れば、ほんの弱い力しか返ってこない。それが怖くて、悲しくて、なんだか涙があふれた。
あの髪をなでる男は、こんな気持ちだったのかな。
「おにい、さま?……ああ、あの……マーク、か……子供を、泣き止ませるのは、得意じゃ、ないのに……」
震える手が僕を離れて、ベッドの脇に滑る。そこから出てきたのは一匹の茶色いテディベアだった。
「シルキー、と言う……俺の、母の、形見だ…なんで、まだ泣くの……」
テディベアを受け取っても泣き止まない僕を、お兄様が心配そうに見つめる。ああ、知らない、僕は、何にも知らない。
こんなにお兄様が細かっただなんて知らない。か弱かっただなんて知らない。つらそうな顔をしても、人を優先できるだなんて知らない。
僕にこんなに心配そうな顔をするだなんて、知らない。
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