君のためなら、何でもできる

足早ダッシュマン

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第2章 ─アイドルゲーム編─

第10話 灯滅せんとして光増す

※本作は一部に生成AI(ChatGPT)による言語補助を活用していますが、ストーリー・キャラクター・構成はすべて筆者が作成しています。
ご理解の上でお読みください。

1
――準決勝、前日。

ピッピのバイト先のチキン屋には、開店前から分厚い封筒の束が届けられていた。

「これ、全部……私たち宛?」

思わずハナが声を上げる。山積みになった封筒には、丁寧な手書きで名前が記されており、中には子どもらしい字や、高齢者のような筆跡も混じっていた。

「すごいよね。ほんと、ファンレターって感じ!」

ピッピは早速開けた一通に目を通し、「かわいかったって!」「ダンスかっこよかったって!」と楽しそうに声を上げる。ハナもおずおずと封を切ると、心のこもった応援の言葉が綴られていた。

ユウはカウンターで、スマホと一緒にその様子を見守っていた。

だが、ふと手に取った一通の封筒に、ユウは違和感を覚えた。

「……この封筒、なんか、重い?」

何気なく開けようとしたとき――

《ユウ!!その封筒を開けちゃダメだ!!!》

スマホの声がユウの脳内に響く。ユウは驚いて手を止め、中身を慎重に確認する。そこには、カミソリが――無造作に差し込まれていた。

「っ……こんなの、冗談じゃない」

ピッピが顔をしかめ、ハナは小さく息をのむ。

スマホの補助を得て中身を再チェックすると、ごく一部の封筒には「呪詛の札」や不気味な紙人形が混ざっていた。ユウは眉をひそめながら、スマホに仕分けを任せていく。

「……準々決勝で一緒だった、あの子のファンかもしれない」

ハナがぽつりと呟いた。デビュー済みで知名度のある参加者が脱落し、無名の彼女たちが勝ち上がったことに、誰かが納得できなかったのかもしれない。

「でもさ!」

ピッピが声を張った。

「こんなのにビビってたら、あたしたち何のためにここまで来たのかわかんないじゃん。明日は準決勝なんだよ。泣いても笑っても残り2戦。やるだけやろう!」

その言葉に、ハナは一瞬たじろいだが、やがて真っ直ぐにピッピを見つめ、こくりとうなずいた。

ユウは2人の姿を見て、そっと微笑む。スマホの画面には、「安全封筒:残り12通」と表示されていた。

2
本日は定休日のチキン屋。
店内のテレビには、いつものようにアイドルゲームの特別番組が映っていた。

「……さて、本日はいよいよ準決勝!」

司会者の明るい声が響くたび、ユウはイスに座りながらも、無意識に膝の上で手をぎゅっと握りしめていた。心臓が、少しだけ速く鳴っている気がした。

画面が切り替わり、豪華なスタジオの様子が映し出される。天井から吊られた照明が虹色にきらめき、観客席にはすでに大勢の人が集まっていた。

《今回の準決勝から、ルールが大きく変わります!》

司会者がそう宣言すると、スタジオの空気がピリッと引き締まったのが、画面越しにも伝わってきた。

《まず、前半はバラエティトークショー! 準決勝進出者の皆さんには、プライベートなこと、過去の思い出、夢や葛藤――いろいろなお話をしてもらいます》

ユウの額に、静かに汗がにじむ。
それはステージの緊張ではなく、どこか自分のことのように思えるからだった。

《そして後半、皆さんには順番にステージパフォーマンスを披露していただきます。今回から観客による投票制は廃止。代わりに、観客全員に“like感情測定バンド”を着けていただいております》

観客席を映したカメラが、客たちの腕に光るシンプルなバンドをクローズアップした。淡いブルーの光が、脈に合わせて鼓動している。

《このバンドは、観客が誰かに「いいな」「好きだな」と感じたときの脳波や心拍の変化を検知してlikeカウントを加算! 遠くの席の方が感情の反応が純粋とみなされ、得点もやや高くなります》

《つまり、組織票や買収は一切意味を成しません。あくまで“本物の好感度”で競ってもらいます!》

この時ユウは胃の奥がきゅっと縮まるような感覚を覚えていた。
今回は6人――そのうち、決勝に進めるのはたったの2人。

そして、画面にカメラが切り替わる。
煌びやかな照明の中、1人ずつステージの中央へと呼ばれていく。

「……ハナ、ピッピ」

ユウが名前を呟いたそのとき、ふたりの姿がテレビに映し出された。
ハナは短くなった髪を風に揺らしながら、落ち着いた足取りで登場する。
ピッピはまぶしいライトの中、いつものように明るく手を振っていた。

――勝ち抜けるのは、2人だけ。
けれど、このステージに立っている6人それぞれが、誰かの「本気の思い」を背負っている。

ユウはその画面を、ただ黙って見つめ続けていた。

3
煌びやかなステージ。スポットライトが6人の準決勝進出者たちを包む。
客席はまばゆい光に照らされ、無数の観客がステージを見つめていた。

司会者の声が響く。

「さてさて! ここからはトークパート! テーマは“子どものころの思い出”です!」

和やかな空気の中、参加者たちは順にマイクを取り、それぞれの幼少期のエピソードを披露していった。
観客の笑い声、拍手、驚きが飛び交い、スタジオのボルテージはじわじわと上がっていく。

そして、ハナの番がやってくる。

彼女は椅子からすっと立ち上がり、胸元のマイクに手を添えて語り始めた。

「私、桃木蘭の出身なんですけど……統一されるまでは、外の世界をほとんど知らなかったんです。ニュースも、音楽も、全部“こっちの世界”とはちょっと違ってて」

観客が静かに耳を傾ける。

「統一されてから初めて“外来語”ってものに出会って……えっと、最初に覚えたのが“アイスクリーム”でした」

小さな笑いが観客席に走る。

「響きが面白くて、何度も口に出してました。アイスクリーム、アイスクリームって。でも、発音が下手で、みんなに笑われて……それがすごく嬉しかったんです。“ああ、ここでは、笑っていいんだな”って」

観客席から自然と拍手が起きた。

ハナはそれを受け止めるように目を細め、一礼して座に戻る。

その空気を引き継ぐように、ピッピが立ち上がる。

「わたしの子どものころですか? えっと、友達とよく外で遊んでました。木登りとか、虫取りとか。でも……夕方になると、みんなは親に迎えに来てもらって帰るんですよね」

観客は微笑ましい思い出話を期待するように見つめている。

「でも、わたしは誰も来なかったので、そのまま夜まで空を見てました。星がきれいだったなぁ。おかげで視力がいいんですよ、ふふっ!」

一瞬、場が凍りついた。

笑顔で語られるそのエピソードに、観客は何か言葉を探すように黙り込む。
どこか胸をつかまれるような、でも手放しに同情してはいけないような……そんな温度差が、空気を重くした。

席に戻ったピッピの隣で、ハナがそっと目線を送る。
その視線に、ピッピはふふっと笑って肩をすくめた。

ユウはテレビ越しにそのやりとりを見て、そっと手を握りしめる。

「……ピッピ、今の……よかったのかな……」

そして、司会者が空気を切り替えるように声を張り上げた。

「ではここからは、いよいよパフォーマンスパート! 準決勝、後半戦へと突入です!」

緞帳が静かに降り、会場はふたたび息を呑む緊張へと包まれていった――。

4
舞台袖に立ったピッピの脳裏に、今までの人生が静かに蘇ってくる。

──お金がなかった。だから、大学には行けなかった。

高校卒業後、彼女の選択肢は限られていた。あちこちの飲食店、倉庫作業、清掃業、レジ打ち。短期で辞めた職もあれば、長く続けた職もあった。どこも悪くはなかった。でも、そこには「先」がなかった。

__やりたいことなんて、やってもいいのかすらわかんなかったんだよね。

何年か前の春。いつものように通勤路を歩いていると、警察のバリケードが貼られていた。
聞けば、近くの高校生が受験に失敗して飛び降りたという。

──毎年、合格発表の日になると、誰かが落ちて消えていく。
──輝かしい芸能界では、著名人が心ない言葉に潰されていく。
──そしてあの子。
「明るい未来なんて来ないよ、だから金借りて散財して、パーッとやってから死ぬの」

そう言って、ほんとに飛んだ、あのビルの屋上から。
社会はそれを「個人の選択」として処理した。
法律は「自己責任」で括り、誰も手を差し伸べなかった。

……もう、いやだなぁって思った

気がつけば、アイドルゲームの告知を見ていた。
夢みたいな話だった。
バカげてた。でも、ひとつだけ思ったことがある。

__どうせ死ぬんなら、アイドルとして、派手に輝いて、終わろうって。

「じゃあ、行ってきます」

ピッピは誰にともなく呟き、舞台へと歩み出た。

まばゆいライト。
熱気をはらんだ空気。
観客は、6番目の挑戦者の登場に視線を送っている。

イントロが流れ出す。
選ばれたのは、ピッピが得意とするアップテンポなダンスボーカルナンバーではなかった。
それでも、彼女は息を吸い、唇を震わせ、最初の一音を放つ。

──音に、心を乗せていく。

バラード。苦手だった。テンポでごまかせない。息遣い、感情、言葉の重さ――すべてが曝け出される。

ピッピは、心臓の鼓動を静かに感じながら、ひとつひとつ丁寧に歌い上げていった。
手を伸ばし、視線を上げる。すると――

観客席のいちばん奥、ライトの届きづらい高い場所にいた、一人の観客が目に入った。

うつむいていたその観客が、ふと顔を上げた瞬間だった。
ピッピは、その人に向かって手を振った。
ほんの一瞬のファンサービス。

すると――

「おや……! 観客のlike感情バンドが反応しました!」

司会者の声が響く。

「遠距離の観客からのlikeは高得点です! さあ、感情の波が連鎖するか……?」

実際に、まるで何かのスイッチが入ったかのように、他の観客たちのlikeバンドも次々に光り始めた。

ピッピは何も言わず、ただ歌い続けた。
目の前にいる誰かに、ちゃんと届くように。
そして、自分の中にあった“終わらせる”という覚悟が、どこか遠くへ薄れていくのを感じていた。

ラストの音がホールに消えたとき、観客席は大きな拍手と、立ち上がる人の気配に満ちていた。

「……では、いよいよ結果発表に移ります!」

司会者の声に、会場の空気が一気に緊張へと転じる。

ピッピは深呼吸をして、目を閉じた。

(わたし……生きて、いいのかな)

そして、照明が結果を照らす。

5
「……以上の得点をもちまして、決勝戦に進出する二名は――」

司会者の声が高揚する。

「参加番号4番、ハナ!」

「そして参加番号6番、ピッピ!」

その瞬間、会場が割れんばかりの歓声に包まれた。

ハナは信じられないというように瞬きを繰り返しながら、司会者の言葉を噛みしめた。隣でピッピが彼女の手をぎゅっと握る。

「やった……やったね……!」

「うん!」

ふたりの頬に、涙ではなく、笑顔が浮かぶ。
互いの存在が心強かった。
負けたくないと思った。だけど、負けても嫌いにはなれなかった。
そのすべてが、いま、ひとつの光として結ばれていた。

一方そのころ、バイト先のチキン屋。
テレビの前で結果を見守っていたユウは、まさにその瞬間、イスから転げ落ちていた。

「やったぁあああああ!! ふたりとも、すごい! すごすぎるよぉ!」

歓喜と興奮が混ざり合い、全身の力が抜ける。
あまりの勢いで床に頭をぶつけたが、まったく痛くなかった。

「ぼくの知ってる人が、ほんとに……決勝に……!」

そこへ、控えめな足音が近づいてくる。
黒のスーツを身にまとった、無表情の男だった。

ユウは目を瞬かせる。

「え……?」

男は無言で、ユウの前に何かを差し出した。
手渡されたのは、白銀の枠に刻印が施された一枚のカード。

そこには――

《決勝戦・最前列特別観覧パス
参加者専用控室 入場許可証付き
本証明書は本人のみ有効とする》

ユウは目を丸くして、それを見つめた。

「これ……ぼくに……?」

男は無言のまま、軽く一礼して店を去っていった。
その背中が通りの向こうに消えるまで、ユウはただ呆然と立ち尽くしていた。

「すごい……これって……!」

ぎゅっと、チケットを握るユウの胸ポケットの内側で、
あの お守り が、静かに、けれど確かに、光を灯していた。
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