無口でデカイ泣き虫くん。

さよ

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前編

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 じりじりと太陽が照らす窓際。カーテンを閉めるが風でめくり上がりあまり意味をなしていない。風も生ぬるくて余計に暑い。
 汗をかきながら授業を受け、ノートに手を突いた部分が少しだけへこんだ気がした。

 同じ教室、隣に座るその男は、初めて会った頃から無口だった。話しかけても「ああ」とか「そうだな」とか「違う」なんて一言で終わってしまう。
 俺も話しかけるのをやめようかと思ったが、一人ぽつんと座っているのを見ると気になるじゃないか。
 人と関わるのが苦手なのか一人でいることが多く、俺以外に友達がいるのか未だにわからない。

(顔は良いのに、女の子が側にいるところもほとんど見たことないな)

 あ、俺はいたって平凡です。その他大勢に埋もれるくらいに。
 そして今日も雨木あまきはこちらをじっと見るだけで何も言わない。……いや、言いたいことがあるなら声をかけてくれよ。
 もう二年以上一緒なんだぞ? 友達だろ? ……友達だよな?

「どうした?」
「あ、……夏休み……」
「おお、どっか遊びに行くか? つっても田舎だし遊ぶところ何もねぇんだよな……金があれば遠出できるけど、ゲームにつぎ込んですっからかんだし。うち来るか?」
「……ああ」

 雨木はこくりと頷くと、再び前を向いた。日にちは後で良いか。
 まぁ、帰りも一緒になったんだけど。スポーツしてそうなのに、俺と同じく帰宅部である。俺より背も高くてがたいが良いからすごく目立つ。

「じゃ、ここで。また後で連絡するわ」

 軽く手を振って別れ、家へと帰った。

 会う日を決めた翌日から夏休みまでの数日、蝉の鳴き声を聞きながらぼうっとする頭で過ごした。うん、先生の話を聞いていないんだから怒られるよね。

◇ ◇ ◇

 そして夏休みに入り一週間。約束の日。遊ぶ約束ではあるが、先に課題を片付けてしまおうということになった。
 机に教科書を広げたまま雨木を待つ。ベッドに寝転んでいたら、いつの間にか眠ってしまったようだ。

「……ん?」

 目が覚めて感じるのは不快感。朝に一回シャワーを浴びたが、また汗をかいている。この部屋にクーラーなんてものはないのだ。べたつく首元を拭いながら横を向いて肘を突く。
 雨木が机で勉強していた。汗だくじゃん。俺は寝てるし、誰かが部屋へ通したのだろう。

「……」
「お? なんだ、来てたんなら起こしてくれよー」

 雨木が顔を上げ何も言わず動かない。どこ見てんだこいつ? と視線をたどると、俺の股間に……。

「おっと」

 俺はズボンの上から息子を手で隠した。
 夢の中できれいなお姉さんが踊ってただけだから。……踊ってないけど、ほら、色々と、ねぇ?

「……? おま、ちょっ、それ俺の……!」
「こういうのが好きなのか?」

 勉強していると思っていたが、机の上をよく見てみると教科書に混じって俺が持っているエロ本が開かれていた。あれ? 出しっぱなしで放置してた? というか、こいつもエロ本とか興味あったのか……。

 でかいぬいぐるみを抱えて読んでいるところは可愛い…………可愛い、か? 読んでいる物は可愛くないぞ。何考えてんだ俺。
 そうだ、俺だってぬいぐるみが好きで結構な数が部屋に並んでいる。そんなぬいぐるみを雨木が抱えていようが普通普通。

「別にどんなのが好きでも良いだろ」
「そうだな。……ただ気になっただけだ」

 気になった? 俺の性癖がか? よくわからん、と詳しく聞くのはやめて目をそらす。
 視線の先にあった開いたページを見ると、女の子が男のモノを口に咥えている顔が描かれていた。

「どんな感じなんだろうな。気持ちいいのかねぇ? そもそも、こんなことしてくれる子なんて本当にいるのか……? 雨木、経験ある?」
「いや」
「そっかー。雨木でもないか」
「……試してみるか?」
「何を?」

 それ、と雨木が指さしたのはエロ本である。

「いや、さすがにそんなことさせるわけには……トイレでなんとかするわ」
「興味あるんだろ? ……俺も興味がある」
「あるけどさぁ……」

 俺にとって女の子に頼むなんて夢のまた夢だろうが……雨木、男にさせるのも勇気がいるぞ?

「なめる趣味はありません」
「俺もない。……だが、他人の手だとどんな感じなのかは気になる」

 はっきりと雨木に言うが、真顔で言葉を返される。

「まぁ、彼女でもいなきゃ自分の手がお友達だよな」
「見たくなければ目をつぶったままで良い」
「…………俺の手を貸せば良いんだな?」

 正直、気にはなるんだ。“彼女いない=年齢”の俺には他人の手の感触なんてこの先感じられないかもしれない。
 男が相手というのは不思議な感覚だ。微妙な空気になったら「失敗したなー」と笑い話にしてしまえば良い。
 お互い以外に話せばドン引きだろうけど、二人だけなら「そんなこともあったな~」っていつかバカなことをしたと思い出にできる。きっと。永遠に話せない思い出になるかもしれないが。

「俺が先にする」

 そう言って雨木は俺のズボンに手をかけた。腰部分はゴムになっているから、すぐにずらせる。膝立ちになった俺はこれからすることを思っても萎えない自分に、元気だなぁとのんきに考え目をつぶった。

 雨木の手が触れるのがわかると、少し緊張した。片手で一度擦ると、ぬるりとしたものが先端をくるむ。……あれ? そっと目を開けると、雨木が俺のを咥えていた。

「!?」
「……っ」

 衝撃的な光景に、手でするんじゃなかったのか!? な、なめ……! などと混乱した。
 奥まで咥えて苦しそうにしているが、声を出さないように頑張っていて、ついじっと見てしまう。

(口内の温かさが、うわー、な、なんだこれ……)

 経験したことのない感覚にぶるりと震える。
 こちらを見た雨木が俺が見ていることに気づき顔を真っ赤にした。それでも行為はやめない。

(え、可愛いな。…………あれ? やっぱり、思ってる、よな?)

 顔を動かし吸い上げ、口から出しては亀頭を舌でザリッと擦られ、そのまま根元までなめられる。案外気持ちいいかも。
 雨木は唾液を絡ませじゅぼじゅぼと男根の出入りする口をすぼめ、舌を当てる。擦る手の勢いが増して、自分の限界が近くなった。

「雨木、口離せ。出る……っおい!」

 止まることなく手と口を動かす雨木の口に、思い切り射精してしまった。
 慌ててティッシュを渡すと、雨木は口元を拭いていた。飲んだのか? ティッシュに出したのか? ……わからん。

「ありがと、呉宮くれみや
「いや、それ俺が言うことでしょ。やってもらったんだから」

 次は俺の番だ。なめてもらって悪いが、俺は手でする。
 ちなみに、今までの会話は全て小声である。だって、誰か来たら困るし。お互い汗だくだがドアを開けっぱなしにはできない。扇風機で我慢する。
 パンツとズボンを上げ、雨木に向き直った。

 正面からはなんだか恥ずかしく思い、後ろから手を回す。ファスナーを下ろし、雨木のモノをつかんで出した。お前、バキバキ……俺のをなめる前は普通だったよね? 一応確認してたんだよ、俺。

 ティッシュを何枚か引き抜いて横に置いておく。自分でやるようにしかできないが、要望があったら応えるとしよう。

「……は、……っ」
「してほしい触り方があったら言えよ?」
「ん……」

 雨木は何も言うことなく、俺が自由に触れていく。本当に気持ちいいのかはわからないけど、時折ぴくりと反応はあるので続けて触っていく。
 俺の汗が雨木に落ちて、雨木の汗が俺の肌に伝う。背中にぴったりとくっつき、両手で陰茎をなで擦る。

「……っ……呉宮、……」

 はっ、はっ、と熱い息がこぼれ、雨木は俺のことを呼んだ。片手を亀頭にかぶせそのまま続けると、床に突いた両手がピクッとはねて俺の手に精を放った。
 ねっとりしたそれをティッシュで拭いゴミ箱へ入れる。雨木はズボンを直して座り直した。

「……今日は、もう、帰る」
「おう。……ま、また、連絡するわ」
「ああ」

 二人はしばらく無言でいたが、勉強する空気でもなくそのまま片付けることとなった。
 俺は玄関で雨木を見送り、部屋へと戻る。着替えを持ち風呂場へと向かった。
 シャワーを浴び終え、部屋のベッドに転がっているネコちゃんの抱き枕を抱きしめながら考える。

(雨木は、嫌じゃなかったってことだよな)

 あー、わっかんねぇ! と頭をガシガシかいて、自分の所は放置していた机を片付け始めた。
 すると、ノートが一冊多いことに気づく。

「あ? ……これ、あいつのじゃあ……持って行かないと困る、よな」

 少し期間を空けても良いだろうか。まだ頭が整理できていない。

 本当、俺ら、何やってんだろうな。
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