RYANGA-リャンガ・【俺の性格上それは無理!!】

錬寧想 リンロ

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第一章:リャンガとして

第六話:屋上の二人・ミハリとラルム

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 リポムファンカース屋上──────

 先ほどまで大きな長方形だったこの場所には、真ん中の通りを空けそこを囲むように5つのゾーンが存在する─────

 
 この屋上を縦長たてながとして見て、まず右側。 

 《休憩ゾーン》
 ここには屋上への出入り口がある。花壇かだんや噴水・ベンチ等が置かれ、わきには木陰こかげがあり人工芝じんこうしばかれている。
 
 続いて上側。

 《サーカスゾーン》
 サーカスをテーマとした室内遊び場がありその横にはカラフルなクッション椅子の観覧席が設置され、目の前には舞台幕がかかったステージがある。
 (このステージでは休日、イベントや【アニマルヒーローサーカスショー】などが開かれているようだ)
  
 そして出入り口向かいの左側。

 《風流ふうりゅうあるゾーン》
 みやびやかなこの場を美しく飾っているのは、大きな緋毛氈ひもうせん・きめ細やかな肌をした砂利じゃり小舟こぶねの浮かぶ池・美しい小さな森のような盆栽ぼんさい・数本の桜の木。
 そんな中でも目を奪われるのは、落ち着きのあるアメジスト色のあかりがともされている蝶が満面に描かれた超特大な石造りの屏風びょうぶだ。

 《風流あるゾーン》から少しスペースを空けた同じく左側。

 《まるで西部劇せいぶげきゾーン》
 隣の場の雰囲気とはうって変わり、そこはまるで西部劇にでも出てくるかのような町並みを想像させる。ここには主に飲食店が立ち並んでいる。

 最後に下側。

 《運動ゾーン》
 ここは遊具やスポーツ用器具が備わった身体を動かせる自由広場。


 今日は天気も良く、屋上には気持ちの良いそよ風が吹いている。きっと良い気分転換ができただろう。
  
 こんな廃墟はいきょのようにしずまりかえり、死体が点々てんてんと転がってさえいなければ…………。
 

 《まるで西部劇ゾーン》────
 
 風流あるゾーンに一番近いバーガーショップの裏。
 真ん中の通り寄りのそこには、体育座りでうつむき暗い表情を浮かべて身を隠す少年の姿があった。

 少年の名前は【ラルム・コーカ】年齢7歳。

 ぱっちりとした茶色い瞳に天然のふんわりパーマがかかった栗色くりいろの髪、色白プニプニさらさらの大福みたいな肌。
 体格は痩せ型・小柄でパッと見だと、弱気なライオンの赤ちゃんといった印象を受ける。
 緑色の七分丈のズボンを履き、着ている黄緑色のTシャツには人面太陽じんめんたいようと丸メガネの頭つるピカのスーツを着た男のイラストが描かれている。

 「もう……駄目だめだな………」 

 自分の置かれた状況に観念かんねんしたかのように、ラルムは弱音をらした。
 
 「大丈夫だよ」
 
 ラルムが弱音を漏らしてすぐ、彼の右から優しい声がかかった。
 ラルムは顔を少し上げ、上目遣い気味に声の方へと視線を移す。無言のまま見つめるラルムに、視線の先の人物が再び声をかけ始めた。
 
 「えっと……私は声木こえぎミハリって言います。君の名前聞いてもいいかな?」 
  
 ラルムの横にいたのは声木ミハリ、彼女だった。無事とは言いがたい状況だがとりあえずは生きていて何より。
  
 「…………ラルム」
 
 ミハリに名前を聞かれたラルムは他人と話し慣れていないのか、少し恥ずかしそうにしながらボソッと答えた。

 「うんっ。ありがとう、ラルムくんだねっ。
 それで……ラルムくんは………」

 ミハリが聞きづらそうに質問の言葉を選びをしていると、その様子を見て何を聞こうとしているのか察したラルムは彼女に聞かれるのよりも先に口を開いた。

 「最初はパパとママと一緒に逃げてた……。

 でも途中で転んじゃって……。そしたら怪物が近くまで来てて……危なかったから僕、急いで死んだフリをしたんだ。
 そしたらママとパパ……僕が死んだと勘違いして、僕の分まで生きるんだって言って諦めてそのまま行っちゃったんだよ。
 その後怪物が離れた隙を見てここに隠れたんだ」

 「そっか……頑張ったんだねラルムくん……。大変だったのにここまで頑張ってくれてありがとう。
 ここを出たら後でちゃんとラルムくんのパパとママ、ラルムくんの元気な姿で驚かせにいかなきゃだねっ」
 
 当然助かる。そう言わんばかりにミハリは、平穏な日常となんら変わらない笑顔をラルムに見せていた。

 「お姉ちゃんは何でそんなに平気そうなの?」

 今度はラルムが気になったことをミハリに聞いた。
 それはそうだ、この絶望的な状況の中で出会ってからミハリの姿は終始前向しゅうしまえむき。真逆の姿のラルムにとっては違和感でしかない。

 「いや……私もさっきまでは全然平気じゃなかったかな。安心できたのは君を見たからだよ」

 「?」
 
 ミハリの返答はラルムの違和感を余計に積もらせた。
 今の自分のどこに安心する要素などあるのだろうか、そんなことを思いラルムは固まってしまっている。
 
 「今の君の姿さ、私の友達にそっくりなんだ………」

 そう言った時の彼女の表情はどことなく寂しそう。
 
 「その人はリンロって言うんだけどね。
 自分に自信がなかったのかいつも何かある度に、今の君みたいに弱音を吐いてたの。
 それだから私はその度リンロのことが心配になって、彼の様子をできる限りで確認しに行くようにしてた。

 でもね、その心配は全部無用だったんだ……。

 私が様子を見に行く度にそこにいたのは弱音を吐いてた時とは全然違う姿のリンロで、その後で会う彼はいつも何もなかったみたいな顔をしてやって来てた。

 リンロはね。どれだけ弱音を吐いてても……追い込まれてても、なんだかんだで頑張って踏ん張って最後にはどんな壁も全部乗り越えて行ってたんだ……。
 
 そんな日々が続くから私リンロが弱音を吐くのに慣れちゃって、いつの間にか自分の中で弱音っていうものが弱音じゃなくなってた。
 すごくおかしいと思われるかもしれないけど、今の私にとって【弱音】は何かを乗り越えられる時の前兆ぜんちょうみたいなものなんだ。
 
 だから、きっと君もここを乗り越えて行くんだろうなって私は思ってるよ」
 

 ────ガ……ヒャウッ!!


 無理矢理喉むりやりのどしぼって奇声きせいのように出た男の叫び声が、突如とつじょとして屋上に響き渡った。
 
 叫んだ男の方を見てみるが、何もそんな叫ぶ必要もない状況にも見える。前に立つ誰かに右の片手で両頬りょうほほをムギュっとされているだけ……。

 ただ、男の前に立つ者には見覚えがある。

 月のような黄色い瞳に左右非対称の緑髪。鎖骨さこつが見えるくらいに首元が空いた、七分袖の白いオーバーサイズの麻服あさふく。首からはヒスイ色の氷柱つららのような石がいくつも付いたペンダントを掛けている。着ている服は違うが間違いない。彼はネユマ・テタバンフェだ。

 だとすれば今、男はリャンガであるネユマに触殺しょくさつされていることになる。男が叫んだのにも合点がてんがいく。

 その様子はミハリ達からは確認できなかったが、男の叫び声のおかげでミハリはネユマがいるおおよその位置を把握はあくできたようだった。
 運動ゾーン側からやって来ていたネユマがいたのは、西部劇ゾーンに差し掛かる手前。

 
 危機がそこまで迫っている中、ミハリは真ん中の通りに倒れる男の死体の方を見ていた。厳密げんみつに言うと警福隊であろう男の死体の近くに落ちていたものを見ていただ。

 男の側に落ちていたのはスノードームのようなものがついた銃。それは警福隊だけが常備している【派付ノ秘ハツノヒ】というものだった。

 派付ノ秘には主に銃型・短い直剣型・警棒型の三種類がある。
 派付ノ秘の中には【ヒーユン(別名:迷子まいご魔旅人またびびと)】と呼ばれる粒子型生物りゅうしがたせいぶつが入っており、それらが生命活動時常に発生させているエネルギーを別のエネルギーに転換させることでさまざまな力として使うことができるのだ。

 中に入っているヒーユンの量によって派付ノ秘の威力は異なるが、ヒーユンも有限なためそれぞれ警福隊の配属先・任務内容などによって支給されるものが変わる。
 彼女の目の前にそれがあったのは不幸中の幸いとも言えた。
 なぜならミハリはエンクローターズ育成学校の課外演習で、派付ノ秘に一度だけ触れる機会があったからだ。ミハリは派付ノ秘の使い方を知っている。
 
 ミハリがラルムの方に向きを変えて言う。
 
 「でもさすがに、このまま止まったままじゃ乗り越えられないから……。乗り越えるために動こうっ」

 ミハリと話している内に恐いと思う気持ちが徐々じょじょに薄まり、根拠のない自身がき上がっていたラルムは何の躊躇ためらいも見せずミハリの言葉に頷いた──────


 出入り口の方をミハリの指が指す。

 「あそこ……ななめ左前のところ出入り口があるの分かる?」
 
 「うん」

 「うんっ。そしたらこの後私が合図を出すからその時ラルムくんには、後ろを振り返らないままあそこに向かって走ってもらいたいんだけどお願いできるかな?」

 「……分かった。でもそのかわり、ミハリお姉ちゃんも僕がまた転んだらその時はちゃんと僕のこと置いてってね」 

 「………大丈夫転ばないよっ」

 さてここから逃げ出そうという訳だが、ただ考え無しに出口までもうダッシュで助からないことはミハリも百も承知だ。

 で……どうするのか。

 そこでミハリはウエストバッグからあるものを取り出した。それは水庭トヨニから護身用にと貰った、スーパー防音機能付きのポーチ。中には【水庭トヨニお手製おとり缶】が入っていた。

 缶の中にとある石を貼り付けているだけという、めんどくさがりやのトヨニらしい全く手の込んでいないものだ。
 
 トヨニいわく中に貼り付けられている石というのは【風竜船ふうりゅうせん】といって【コーホチヨーレ】と呼ばれる石を育てるモンスターが育てたものらしい。コーチホヨーレに育てられた石は様々な突然変異を遂げ、色や形だけに留まらず様々な効力を持つこともあるという。
 
 【水庭トヨニお手製オトリ缶】の仕組みはこうである。
 
 まず缶を投げ、落下による強い衝撃を缶の中に貼り付けてある風竜船へと与える。すると衝撃により風竜船の外側、葡萄ぶどうふさのようについた石が風船のように弾け割れ始める。
 この時缶はネズミ花火のように無作為むさくいな動作で跳ねる。(飛んできた方向を錯乱させるためらしい)

 数秒で周りの石が全て割れて、中心にある石がき出しになる。そして石が剥き出しになった状態で更に数秒経つと、石からは竜の咆哮ほうこうのような轟音が発せられる。
 これにより一瞬ではあるが近くにいる者の聴覚ちょうかく平衡感覚へいこうかんかくを奪うことが可能とのことだ。
 
 ちなみに実際にトヨニはミハリの前で自己を犠牲にして披露してくれたので、効果は実証済みである。

 それを今からネユマへ向けてやる。

 ネユマの死角を保ちつつお店から少し離れ距離をとったミハリ。
 缶の軌道がネユマの視界に入らぬように注意しながら、お店の裏からありったけの力を込めてミハリがオトリ缶を投げる。


 ひゅッ!


 缶は大きなを描き飛んでいき、ほぼドンピシャでネユマの背後へと落ちていく────
 

 ───カンッ!!
 

 「?」

 突然の音だったが、ネユマは一切表情を変えない。
 だが風竜船の影響によって缶が跳ね始めると。

 カンッ カッ カッ カンッ カッ カッ カンッ
 
 ネユマの目は、急に生き物のように動き出した缶へと釘付けになった。辺りを見回し、ネユマはゆっくりと缶に近づいていく。

 缶の前でネユマが足を止めると同時に缶の動きも止まった。 

 「…………」

 じっと見つめたあとネユマは缶に触れようとした。
 すると───


 ピュオオオオォォォーーーーーーンッ!!!!!!


 空気の振動が直視できそうな、耳が潰れてしまいそうなほどの高い轟音がネユマの耳に襲いかかった。

 「!!」

 キィーーーーーン 

 目が回る感覚がネユマの平衡感覚を奪い、耳鳴りの音がネユマの聴覚を奪う。

 グッ

 その瞬間ラルムの背に優しく置かれていた手に力が込もった。その手が勢いよくラルムを前へと押し出す。

 ばっ!!

 ロケットスタートを切ったラルムは、ミハリに言われた通りに前だけを見て出入り口へ向かい無我夢中むがむちゅうに走り出した。

 同時に飛び出したミハリはラルムを押し出した手で地面に落ちていた派付ノ秘を拾いながら、横目でラルムの様子を確認した。 
 
 (まだだっ!)

 ミハリは飛び出した勢いを殺すように重心を後ろに移し、更に自身へ気を引き付けようとネユマに向け派付ノ秘を構える。


 パリューンッ! パリューンッ! パリューンッ! パリューンッ!


 カラフルなピンポン玉程の小さな光の弾丸が4発発砲された。ヒーユンの量は少なくおそらく殺傷さっしょうできる程のパワーはない。 

 まだ耳鳴りが鳴り続けているネユマの耳には、発砲音は聞こえていなかった。
 ミハリが放った弾丸に対しネユマは未だ背を向けている。

 
 (よしっこれなら!────) 

  
 グりんッ!!

 いつの間にかネユマはミハリの方を向いていた。

 「へぇ」─────

 バッ!!
 
 そしていつの間にか彼は手に持っていた死体を右へと振り、飛んでくる弾丸を全てなぎ払っていた。
 死体はその勢いのままネユマの手から外れ宙に放られた。
 
 ドサッ
 
 「優しいんだね君」

 ミハリへ放たれたのは思わぬ一言だった。
 尚且なおかつそれを言うネユマの表情は、とても優しくうれいを帯びていた。その一見だけではこの惨場さんじょうをつくりだした者だとは到底思えない。
 
 ミハリの額には一滴の汗が伝っていた。ただそれはネユマに対してのものではない。 
 緊迫感ある表情でミハリが見ていたのは、ネユマではなく出入り口の方。
 そこまでの道にラルムの姿はなかった。なんとかこの場から逃げ出せたようだ。

 「良かった……」

 ホッと安心するとミハリは、既にやり遂げたような表情を地面に落とした。
 (下にはカウリくんもいるはずだから、きっともう大丈夫……)
 この後の事など一切考えてもいなかった彼女は、そこで時が止まったかのように立ち尽くしていた。
 
 無論そんなことはお構い無しにネユマは彼女の現実を進める。

 軽く俯き目を閉じ、握った左拳の人差し指を上げ頬に当てネユマが言葉を繋げる。

 「…………きっとそう言って、同情して君のことを見逃してあげたんだろうな………………。

 ─────僕が人間だったならさ」

 本心をさらけ出すと共にミハリを見る優しい青年の表情はガラリと変貌へんぼうした。睨みつける眼孔どうこうは鋭く憎悪だけがこもっており、恐ろしく冷たい。

 同時に頬に当てていた左手の人差し指がネユマ自身の頬をえぐる。傷口からは血と緑色のミストのような彼のリャンガ細胞が流れている。
 その行為による圧倒的な威圧感は、自分はリャンガだと強調しているようにも見えた。

 
 ブファァァッ!!


 ネユマの全身からシャボン玉が割れるようにリャンガ細胞が噴き上がった。
 宙に舞ったリャンガ細胞が、霧のように彼だけを覆い隠していく。中の様子は全く見えないが依然ネユマの声は続く。

 「でも僕は人間じゃない……リャンガだ。
 だから正直今の君の行動には虫酸むしずしか走らなかったよ」

 バギンッ!! バキッバキバキバキバキ………………

 緑色に包まれるその中から聞こえてくるのは雷鳴が轟くような音。それはもう、中にいるネユマが心配に思えてしまう程の。

 「─────」

 もはやミハリはその光景を見ていることしかできなくなっていた…………。
 まるで金縛りにでもなっているかのように、自分の意思では声も出せず身体も動かせずミハリは怯えた目で震えていた。
 
 やがて目の前の音が止み、不気味な静けさがせきを切ったように溢れ出していたミハリの恐怖を整えていった。
 ネユマという存在が恐怖としてミハリの中に染み込んでいく。

 スッ

 静けさの中、ネユマの前に転がっていた遺体の顔に暗い影が落ちた。
 影の形は先ほどのネユマの姿とは異っていた。昨晩トンロワラグで見せたあの形だ。
 

 そして静けさが終わる────

 
 グジャァンッ!!!!


 踏み込まれた一歩は足元にあった頭を何の躊躇ちゅうちょもなく潰して血を飛び散らせ、顔よりも下にあった地面に大きくヒビを造った。

 ヒビ割れた地面の隙間に血が流れ落ちていく。
 
 事が起きてから少し時間が経過した所で屋上にやって来たミハリは、ラルムがなぜネユマを怪物と呼ぶのか少し気にかかっていた。たった今腑いまふに落ちた。

 さっきまでの彼を人間だと言われても何の違和感も感じない。
 だが、今ミハリの目の前にいる存在に対し同じことを言われれば間違いなく誰もが否定するだろう。
 そして多くの者は言うだろう……それが怪物だと。
 
 「僕を苛立いらだたせてくれた君には、少し時間を掛けよう」

 現実は残酷だ。
 
 どれだけ善行ぜんこうを積もうが降りかかってくる悲劇は誰にでも容赦ようしゃなく平等なのだから……。
 
 
 
 
 
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