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第一章:リャンガとして
第八話:再会は酷い
しおりを挟むケホッケホッ
リンロの後方、サーカスゾーンにあるカラフルなクッション椅子が並ぶ観覧席。
そこでカウリに心配そうに見守られていたミハリが、意識を取り戻し咳き込んだ。
半信半疑で息を呑んでいたリンロはホッと息をつく。
(……良かった)
「ありがとう……カウリ君」
一部記憶のなかったミハリはカウリが救ってくれたのだと思い込み、カウリにお礼を言った。
「……うん」
(助けたのは僕じゃないんだけどな………)
そう思いつつもカウリは、リンロからの口止めも含めここで自分から話すのは違うなと一旦ミハリからのお礼を預かった。
カウリはなるべくリンロ達に触れないようにと気を使っていたが、それに反して向こうの騒がしさは著しく目立っていた。
「チョーチョー。ネガティブ・逃げティブに続き、棒読みティブときたっチョか。
お前……俺様のことまだ信頼してねーだろぉっー!!」
(ティブとは一体………)
「いや……本当に助かったと思ってるぞ」
「だったらもっとちゃんと言うっチョーっ!!
こう跪いて、神々しいものを見るように眩しそうな目をしながら感涙を流して『ああ……信頼の神っチョ、トゥーチョゴッドゴッドゴッドトゥーチョ3ゴッドサンド様ぁ~。最早あなた様以外誰も信頼できなくなりましたっ!!』って言えぇぇぇーーーーっ!!」
「あの人達は?」
必然的にミハリからそう問われたカウリは困ったように答えた。
「……えっ……と……。
あの人達は、ミハリちゃんを助ける時に力を貸してくれた謎の人達だよっ」
ミハリが謎の人達とされた二人を見つめる。
「……………」
その時突として、どこか懐かしいような雰囲気が風のようにミハリへ向け流れた。
5秒……10秒……とミハリがリンロの後ろ姿を見つめ続けていると、その瞬間だけまるで氷が溶けていくかのようにミハリの頭の中のリンロ以外の記憶が消えていった。
ミハリの記憶から鮮明に抽出されたリンロの面影がその後ろ姿に重なっていく。
────!!!
「あっ……あのっ!」
「!!」
「!!」
ミハリが突然大きく出した声にびくつくカウリとリンロ。
「リンロ? ……………………ですか?
あっ……間違ってたらごめんなさいっ」
「ン? 何だあの当てずっぽう女。何かお前のこと呼んでるみたいだチョ?」
リンロは冷や汗を流していた。
「………………」
おい嘘だろ。7年も会ってねー奴を後ろ姿見ただけで分かんのかよ……。
やばい、気まず過ぎて声が出ねえ。
とりあえず何か言わねえと………。
「俺──」
ゾヒッ!!
顔を左に向けた直後。リンロの身体の正面、目線よりも下から彼に向けられ殺気が飛ばされた。
「分からないなぁー」
そこに立っていたのは移動した勢いのまま両腕を後ろで靡かせ、左足を前に大きく足を開き両膝を曲げ前屈みに姿勢を落としたネユマ。
「!!」
リンロはすぐさまネユマの方へ視線を落とした。
「リャンガである君が何故人間を守ろうとするんだい?
人間は僕たちが普通に生きようとしているだけで、平気でそれを否定し存在を否定し傷つけ殺しに来るようなやつらなんだよ?」
キュッ
ネユマは左足を軸に腰を捻った。
「そんな奴ら守る価値もないだろうっ!!」
メキメキメキッ
右足で風を巻き込み竜巻の如く繰り出されたネユマの回し蹴りは、リンロの右脇腹に強くめり込みくの字を描いた。
でュボゴッ!!!!
リンロは子供に投げられた人形のように自身の左手側へと勢いよく蹴り飛ばされた。
「人間とリャンガは共存できないよ」
────────────
(ミハリにずっと嘘つき続けて心配かけて…………。
その間ずっとカウリに支えてもらって迷惑かけてきて…………。
さっきまで動けずにいた他人の俺を、トゥーチョはここまで連れて来てくれた…………。
やっとここまで来れたっつうのに、結局このまま何も守れず終いで終わんのかよ……)
「ほんと最低だな…………俺」
リンロの身体は柱・花壇・ベンチ・転落防止柵付きの腰壁とぶつかるものをことごとく突き破り、そのままリポムファンカースの屋上外へと飛び出た───────
やがて横へ飛んでいた勢いが止まり、今度は遠く下に見える地面へ向け落下を始めた。
(ごめん………トゥーチョ…………カウリ……………ミハ───『………じゃん』
その時走馬灯のように浮かんだのはリンロが8歳の頃、図書館の解体工事現場でミハリと出会った時のこと。
『死んじゃ……ダメじゃんって……言ったん……だよ。
ちゃんと聞きなよばかっ!!』
(なんで今更こんな記憶……)
…………あれ? もしかして俺、自分で思ってるより生きたいとか思ってんのかな?
いやそんなことねーか。あってないような命だったし……。
きっとミハリへの罪悪感からだろうな。
「ごめん、無理だミハリ………。俺はもう……」
ポタッ
リンロの左の目の下に1滴の水が落ちた。
あったけえ………雨…………。
そんな雨にふと、今どんな空をしているのか気になったリンロはゆっくりと目を開き始めた。
余程の光景なのか彼の目はどんどん大きく広がっていく。
ミハリがいた───
彼女の目から零れた涙が再びリンロの顔に落ちる。
「死んじゃダメじゃんっ! バカっ!!」
は?
口をぽかんと開けたまま力の抜けたような顔でリンロはミハリのことを見ていた。
「ミ……ハリ……何で……お前………」
「手を伸ばしてリンロっ!!」
「…………何……来てんだよ……俺はっ」
その瞬間俺はカウリに言われた言葉を思い出した。
俺はミハリに何も言ってない…………。
言っておくべきだったとリンロは後悔した。
「俺はもう人間じゃねえっ…………。リャンガっつう化け物なんだっ! 一瞬でも俺に触れれば、お前は死んじまうっ!!」
俺がそう言うとミハリは一瞬驚いたような表情を見せて、それから優しく笑った。
「うん、分かった」
何だよ…………その反応。
「…………。分かったんなら、まずそのこっちに突っ込んでくる今の体勢を変えてくれっ。少しでいいから上着とかも使って空気抵抗を増やしてくれないかっ?
俺が何とかするっ。昔に約束しただろっ? 支える番交代だって……だから今度は俺がっ」
(ミハリと出会ってから支えられていたのはいつも俺ばっかりだった。俺は一度だってミハリのこと支えられてねえのに)
ミハリは何も聞こえていないかのようにそのままリンロを目掛け落ちていく。
「おい……聞こえてんだろっ! 俺に触った瞬間死ぬんだぞ!? んなことしても何も意味ねえんだよっ!!」
(俺なんか生きてる価値もねえ最低な命なのに。
俺はずっとお前を心配させて傷つけて。挙げ句お前の人生奪おうとしてんだぞ? そんな奴助けに来る必要なんてねえだろっ!! 何でだよっ!!)
「死んだ後の私の身体を使えば、リンロならきっと助かれると思う」
「…………何……言ってんだよ……んなことできるわけ……。
………やめろ─────
やめろおおおおおおおおおぉぉぉぉーーーーっ!!!!」
喉が裂けそうになる程にリンロは大声で叫んだ。
ミハリの手が俺に見えている空を少しずつ消していく。
「頼むから…………やめてよ……」
「リンロはこれからも強く変わっていける。だから最後までちゃんと変われないと思った自分越えて生きなきゃダメだよ?」
「いやだ」
「ごめんね……バイバイ、リンロ」
ぐッ!!!!!!
それ以上は恐くなり俺は目を閉じた。
(ああ終わったな……。
もう目開けたくねえな…………。
次目ぇ開けてミハリのいない世界を見ちまったら俺、きっとすげえ泣き叫んじまうんだろうな。そのまま失神とかして死んだり出来んのかな。
でも今さっき、それはミハリに駄目だって言われちまったんだよな…………。
とりあえず……生きねえと……)──────
《目を開くとそこには、普段と何ら変わらない平凡な青空が広がっていた》
それを見ていたのはミハリ──────
「え?」
「ほんとリンロの言ったとおりだったね」
その声はミハリの下の方から聞こえる、だがリンロの声ではない。体勢も変わっていた、さっきまで下を向いていたはずなのに今は仰向けになっている。
下に目を向けミハリは、自分が屋上よりも上に高く上がっていることに気が付いた。
声がしていたのは屋上からだった。
リンロが転落防止柵付き腰壁を突き破った屋上の縁、そこに立っていたのはカウリ。
左肘を上げた彼の手はキラキラと光る空色の風を纏っていた。そしてそれはミハリの左手へと繋がっている。
「ねえミハリちゃん。
君の気持ちも分かるんだけど、今のは少しムチャし過ぎかな。
この際だから言うけど。リンロはね、今みたいになるのが嫌だったから君に生きてることを隠してたんだよ。彼の気持ち汲み取ってあげてもらえないかな?
ミハリちゃんを傷つけたくない、ミハリちゃんに生きてほしいって想ってるリンロの気持ちをさ」
「…………」
目を開けると俺は屋上から伸びている、まるで雪が日に反射したようなキラキラと輝く空色の風で作られた太い糸に左手を掴まれ宙に吊るされていた。
何が……起こったんだ? なんでミハリはあんなとこに……。
涙が溜まりうっすらと開いたリンロの左目は、それが現実なのか区別ができずにいた。反対の閉じた右目からは一本線の涙が垂れている。
スッ
カウリが左手を下ろすとミハリがゆっくりと降下した。そのままカウリに手をとってもらいミハリは地に優しく足を着けた。
タッ
カウリは右手を前に出しそこから繋がるリンロを屋上から見下ろす。
「僕だって二人に死んでほしくない……二人は大切な存在だから。
それに今まで僕が過ごしてきた君達は自分を圧し殺した君達で、一度だって本当の二人のことを支えられていない」
カウリがリンロに明るい笑顔を見せる。
「僕はまだまだ君達とは全然生き足りないよっ」
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