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第一章:リャンガとして
第十二話:その者の正称
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丁度夕方頃。
トゥーチョにここだと言われリンロが辿り着いたのは、森を抜けた先に広がっていた原っぱだった。
二人の正面に沿って平行に木々が等間隔で立ち並び、その前は緩やかな傾斜地になっている。
そこよりほんの少しだけ遠くを二人は木の後ろに隠れ偵察していた──────────────────
「トゥーチョ……お前は今一体どこを見てるんだ?」
「チョあ? 何言ってるんだっチョか。目の前にあるヤツ(2WCC)の巣窟に決まってるだっチョ」
そう……だよな……。俺達は別に平和な町の風景見て、心を落ち着かせに来てる訳じゃないんだもんな……。
リンロがそう思ったのは、そこが彼の思っていた場所とは随分かけ離れた場所だったからである。
ロコイサ王国を間に挟んだハレタカヨとは反対に位置する街【シューヨイナ】──────────────
リンロ達が今いるここは、その街の最北端に位置する【ビャコイヤ】という小さな区域の中にある【ビャコイヤ商店道】と言われる場所。
傾斜地を下った先にはピンクベージュ色と麹色の石畳が敷き詰められた道が広がり、リンロ達から見て左の奥には住宅地・正面奥には昔ながらの雰囲気漂う様々な職種の小さな個人店舗が見られる。
髪の靡きが気にならないくらいに優しく風が吹き、時間の流れがゆっくりに感じられる程とても穏やかで温かな居心地の良い場所だ。
トゥーチョ曰く、他の店から離れ孤立して目の前に建っているこの【冒テントイ録】と書かれた看板が設置された玩具屋が、ダブルホワイトコットンキャンディーの巣窟らしい。
これまた信じ難い話だが、トゥーチョの真剣さを見るにどうやら本当っぽいんだよな……。
「見たところロコイサ王らしき人物もダブルホワイトコットンキャンディーらしき毛むくじゃらも見当たらないけど……このままじゃ閉店しちまうぞ」
──と俺は事実を述べただけのつもりなんだが、トゥーチョが俺を見て引いているのは何でなんだろうか。
「チョ……おいお前……嘘だろっチョ………。あんなに神々しい存在感をお持ちになられているロコイサ王様の御尊容が目に入らないっチョかッ!!? 」
(え? いるのか?)
「え……だってあそこには誰もいないし……あそこにも……あそこも……あそこも……。
あとは、かろうじて人という字がつくあの人形だけだし……。
というかあのサイコロ頭の人形……何かめちゃくちゃ偉そうに足組んで座ってるんだよな……。それと羽織っているものすごく高そうな赤いマントの場違い感がすごい……。
ごめんトゥーチョ。どう探しても俺には見つけられないんだが、どこに居るか教えてもらえないか?」
リンロが話している間、トゥーチョはじっと彼を見ていた。
「……………………。
お前に見えているものを一個ずつ言ってみろっチョ。オレ様が答え合わせしてやるッチョ」
ん? 何だよ答え合わせって。単刀直入にどこに居るかだけ教えてもらえれば済むのに。
俺が確認済みの所を言ったところで、時間の無駄になるだけな気がするんだが……。
まぁでも、もしかしたら見落としがあるかもしれないし再確認も大事か。
「分かった……それじゃあまず、ワニ形シルエットの虹が架かった空を色んなおもちゃ達が気球に乗って楽しんでいる様子の模様の壁のところ」
「あるっチョ」
「…………。
いや……あるのは分かってるから、そこにロコイサ王がいるのかいないのかを教えてもらえないか?」
「あるっチョ」
だめだ、話が通じてない。
とりあえず全部言い切ってからじゃないと会話は無理そうだ。
「いろんな動物のぬいぐるみの頭に浮き輪を嵌め込んだ【ライオン擬き集団】が天井からドーナツ状に吊り下げられている」
「あるっチョ」
どうせ全部あるっチョだってのに、トゥーチョは一体何がしたいんだ?
「ところどころにデッドスペースがある、おもちゃの箱が並べられている棚」
(あるっチョ) リンロ
「あるっチョ」 トゥーチョ
「右側の奥のレジの手前から、右側の壁を伝って玩具のオマケ付きのお菓子が並ぶ棚がある」
(あるっチョ) リンロ
「あるっチョ」 トゥーチョ
「じゃあ最後に店の真ん中のでかい長方形の緑色の木の土台の上で牧柵に囲まれてる、あの超偉そうに座ってるサイコロ頭人形」
(あるっチョ) リンロ
「ないっチョ」 トゥーチョ
「あるだろ」
「ないっチョ!!」
「あるっチョだろっ!」
「ないって言っとるんだッチョがやんッ!!!!!!」
…………………【チョがやん】……何か新たな語尾出現した。
てか、何だこのトゥーチョの反応は。明らかにおかしいがこれはどういう意味だ?
「!」
その意味を汲み取ろうとトゥーチョを見たリンロが、彼のフォルムを見て何かを悟った。
(え? まさかだろ?)
直後リンロは最後に言ったものをもう一度、私感を一切無視してオーバーな表現で言い直した。
「あちらの威厳ある姿勢でお座りになられている、貴賓ある見事な立方体のお顔をお持ちの崇高極まりない御方はロコイサ王様であられますでしょうか?」
「………チョふぅ……やっと見えるようになったチョかっ。
どうやらリンロは初見だったから、ロコイサ王様の後光に目をやられて酷い幻覚が見えていたようだっチョね」
なるほど……そういうことか……。
てっきり人だとばかりに思ってたが、まさかトゥーチョと同じタイプだったとはな。
「あっ、なんかお爺さん増えてる。
あれは………お店の人だなっ」
「チョホォッ!!!?」
リンロの言葉を聞いた途端、トゥーチョが激しく狼狽え始めた。
「あっ居なくなった。中の方に戻ってったみたいだな。
見つかって通報される心配はなくなったから、もう大丈夫だぞトゥーチョ」
ザッザッザッザッ
この時、リンロだけが店の老夫が迫ってきていることにまったく気付いていなかった。
老夫の容姿は年の割に肉付きがよく、シワのできた頭の形は若干長方形気味で銀縁の丸メガネをかけている。服装はオレンジの長靴に白黒のチェック柄のオーバーオール、その上からは灰色の半纏を着ている。
そして彼の容姿の中でもなんといっても目立つのがあの髪の毛。軽くフワフワとした巨大綿菓子のような丸くまとまった白髪が、彼の頭の両脇についている。
老夫はとても柔らかく今にも飛んでいきそうなフワフワとした雰囲気だ。
「ダ……ダブ……ダブリュッ……」
トゥーチョは途中で言葉を止め、リンロの背中に登りしがみつき身を隠した。
「…………ダブリュって、ダブルホワイトコットンキャンディーの事──────!!」
そこでようやくリンロは、老夫の存在に気付いた。
既に二人まで数メートルの距離まで迫っていた老夫が、傾斜の下からゆっくりと姿を現す。
「おやっ、もしや坊や私のことをご存知なのですかなっ?」
「こっ……こんばんは」
「こんばんはっ。
そのダブルホワイトコットンキャンディーというのは、近所の子供達がつけてくれたあだ名でしてね。
私の正称は【駄遊玩駄モチャオーチ】なんです。
ときに坊や。先ほどから私のお店の方を見られていたようでしたが、こんな遠くから一体何をしていたのですかな?」
話しながらゆっくりと距離を詰めていくモチャオーチ。
「あっ……と……それは……」
リンロとモチャオーチの距離、リンロの歩幅約3歩分。
(ぬおぉっ!! 滅茶苦茶近いっ!!!)
これ以上警戒されないように動かないようにしてたけど、これ以上はさすがに無理だっ!!
堪え兼ねたリンロがモチャオーチに気付かれぬよう、超小声で背中に貼り付いているトゥーチョに語りかける。
『トゥーチョ一旦距離を───』
リンロが足を一歩引き後ろに下がろうとした瞬間、トゥーチョは後ろからリンロの背中を殴り止めた。
「いっ!!」
『ダメだ~退くなっチョ~。
ここで退けば完全にアウトだっチョ。ここはオレ様がなんとかするから、とりあえずリンロは口をパクパクさせるんだっチョ!! オレ様を信じろッチョ!!』
『………………拳一個分、その距離になったら何がなんでも俺は下がる』
そして、(吹き替え声優・トゥーチョ)によるリンロの口パクが始まる。
「とッ!……止まれッチョッ!!!」
急に声変わりしたリンロに驚き、モチャオーチが足を止める。
「今オレ様はなぁ~っ!!
【ゼンブミナキャ望遠隊】の任務中で、ここの風景調査してる途中なんだっチョッ!!
チョあっ!! 爺さんがオレ様の前に立ってるっチョから、遠近法でオレ様の視界が全部爺さんで埋まってしまって仕事に支障が出てしまってるっチョ~~~ッ!! チョあ~~~~~~上の者に怒られてしまうっチョ~~~ッ!!」
トゥーチョにそう言われたモチャオーチは、慌てて後退し横に逸れた。
「ほわわいっと!!
それはすまないことをしてしまったっ、本当に申し訳ない。そうだっ、お詫びといってはなんだがね私の大好物の【煎餅のズッガ蜜漬け】をあげよう。
また近づいてしまうと悪いからね、ここでいいかね?」
そう言ってモチャオーチは自身のスチームパンクゴーグルならぬ【スチームパンクゴーグル型タッパー】を外し、両レンズの蓋を開ける。
その中に入っていたのは、ズッガ虫という虫の巣から採れる【ズッガ蜜】に煎餅を3日間漬けた【煎餅のズッガ蜜漬け】。モチャオーチはベッタベッタなそれを素手で取り出すと、剥き出しの状態のままの煎餅を草が生い茂る地面の上に置いた。
「邪魔をしてしまって悪かったね、坊や。
良ければまた今度、時間が空いた時にでも遊びにおいでなさいな。
それじゃあ、引き続き調査の方頑張ってね」
その言葉を最後にのんびりとした足取りでモチャオーチは帰り始めた。【高齢者・駄遊玩駄モチャオーチ(82歳・性別男)】のその弱々しい背中を二人は無言のまま見送っていた。
「……………………」
「……………………」
暫くしてモチャオーチの姿が完全に見えなくなると。
リンロは心の中でトゥーチョは口から、二人は同時に塞き止めていた言葉を無感情で溢した。
(地面に置かないで下さい)
「地面に置くなっチョ」
トゥーチョにここだと言われリンロが辿り着いたのは、森を抜けた先に広がっていた原っぱだった。
二人の正面に沿って平行に木々が等間隔で立ち並び、その前は緩やかな傾斜地になっている。
そこよりほんの少しだけ遠くを二人は木の後ろに隠れ偵察していた──────────────────
「トゥーチョ……お前は今一体どこを見てるんだ?」
「チョあ? 何言ってるんだっチョか。目の前にあるヤツ(2WCC)の巣窟に決まってるだっチョ」
そう……だよな……。俺達は別に平和な町の風景見て、心を落ち着かせに来てる訳じゃないんだもんな……。
リンロがそう思ったのは、そこが彼の思っていた場所とは随分かけ離れた場所だったからである。
ロコイサ王国を間に挟んだハレタカヨとは反対に位置する街【シューヨイナ】──────────────
リンロ達が今いるここは、その街の最北端に位置する【ビャコイヤ】という小さな区域の中にある【ビャコイヤ商店道】と言われる場所。
傾斜地を下った先にはピンクベージュ色と麹色の石畳が敷き詰められた道が広がり、リンロ達から見て左の奥には住宅地・正面奥には昔ながらの雰囲気漂う様々な職種の小さな個人店舗が見られる。
髪の靡きが気にならないくらいに優しく風が吹き、時間の流れがゆっくりに感じられる程とても穏やかで温かな居心地の良い場所だ。
トゥーチョ曰く、他の店から離れ孤立して目の前に建っているこの【冒テントイ録】と書かれた看板が設置された玩具屋が、ダブルホワイトコットンキャンディーの巣窟らしい。
これまた信じ難い話だが、トゥーチョの真剣さを見るにどうやら本当っぽいんだよな……。
「見たところロコイサ王らしき人物もダブルホワイトコットンキャンディーらしき毛むくじゃらも見当たらないけど……このままじゃ閉店しちまうぞ」
──と俺は事実を述べただけのつもりなんだが、トゥーチョが俺を見て引いているのは何でなんだろうか。
「チョ……おいお前……嘘だろっチョ………。あんなに神々しい存在感をお持ちになられているロコイサ王様の御尊容が目に入らないっチョかッ!!? 」
(え? いるのか?)
「え……だってあそこには誰もいないし……あそこにも……あそこも……あそこも……。
あとは、かろうじて人という字がつくあの人形だけだし……。
というかあのサイコロ頭の人形……何かめちゃくちゃ偉そうに足組んで座ってるんだよな……。それと羽織っているものすごく高そうな赤いマントの場違い感がすごい……。
ごめんトゥーチョ。どう探しても俺には見つけられないんだが、どこに居るか教えてもらえないか?」
リンロが話している間、トゥーチョはじっと彼を見ていた。
「……………………。
お前に見えているものを一個ずつ言ってみろっチョ。オレ様が答え合わせしてやるッチョ」
ん? 何だよ答え合わせって。単刀直入にどこに居るかだけ教えてもらえれば済むのに。
俺が確認済みの所を言ったところで、時間の無駄になるだけな気がするんだが……。
まぁでも、もしかしたら見落としがあるかもしれないし再確認も大事か。
「分かった……それじゃあまず、ワニ形シルエットの虹が架かった空を色んなおもちゃ達が気球に乗って楽しんでいる様子の模様の壁のところ」
「あるっチョ」
「…………。
いや……あるのは分かってるから、そこにロコイサ王がいるのかいないのかを教えてもらえないか?」
「あるっチョ」
だめだ、話が通じてない。
とりあえず全部言い切ってからじゃないと会話は無理そうだ。
「いろんな動物のぬいぐるみの頭に浮き輪を嵌め込んだ【ライオン擬き集団】が天井からドーナツ状に吊り下げられている」
「あるっチョ」
どうせ全部あるっチョだってのに、トゥーチョは一体何がしたいんだ?
「ところどころにデッドスペースがある、おもちゃの箱が並べられている棚」
(あるっチョ) リンロ
「あるっチョ」 トゥーチョ
「右側の奥のレジの手前から、右側の壁を伝って玩具のオマケ付きのお菓子が並ぶ棚がある」
(あるっチョ) リンロ
「あるっチョ」 トゥーチョ
「じゃあ最後に店の真ん中のでかい長方形の緑色の木の土台の上で牧柵に囲まれてる、あの超偉そうに座ってるサイコロ頭人形」
(あるっチョ) リンロ
「ないっチョ」 トゥーチョ
「あるだろ」
「ないっチョ!!」
「あるっチョだろっ!」
「ないって言っとるんだッチョがやんッ!!!!!!」
…………………【チョがやん】……何か新たな語尾出現した。
てか、何だこのトゥーチョの反応は。明らかにおかしいがこれはどういう意味だ?
「!」
その意味を汲み取ろうとトゥーチョを見たリンロが、彼のフォルムを見て何かを悟った。
(え? まさかだろ?)
直後リンロは最後に言ったものをもう一度、私感を一切無視してオーバーな表現で言い直した。
「あちらの威厳ある姿勢でお座りになられている、貴賓ある見事な立方体のお顔をお持ちの崇高極まりない御方はロコイサ王様であられますでしょうか?」
「………チョふぅ……やっと見えるようになったチョかっ。
どうやらリンロは初見だったから、ロコイサ王様の後光に目をやられて酷い幻覚が見えていたようだっチョね」
なるほど……そういうことか……。
てっきり人だとばかりに思ってたが、まさかトゥーチョと同じタイプだったとはな。
「あっ、なんかお爺さん増えてる。
あれは………お店の人だなっ」
「チョホォッ!!!?」
リンロの言葉を聞いた途端、トゥーチョが激しく狼狽え始めた。
「あっ居なくなった。中の方に戻ってったみたいだな。
見つかって通報される心配はなくなったから、もう大丈夫だぞトゥーチョ」
ザッザッザッザッ
この時、リンロだけが店の老夫が迫ってきていることにまったく気付いていなかった。
老夫の容姿は年の割に肉付きがよく、シワのできた頭の形は若干長方形気味で銀縁の丸メガネをかけている。服装はオレンジの長靴に白黒のチェック柄のオーバーオール、その上からは灰色の半纏を着ている。
そして彼の容姿の中でもなんといっても目立つのがあの髪の毛。軽くフワフワとした巨大綿菓子のような丸くまとまった白髪が、彼の頭の両脇についている。
老夫はとても柔らかく今にも飛んでいきそうなフワフワとした雰囲気だ。
「ダ……ダブ……ダブリュッ……」
トゥーチョは途中で言葉を止め、リンロの背中に登りしがみつき身を隠した。
「…………ダブリュって、ダブルホワイトコットンキャンディーの事──────!!」
そこでようやくリンロは、老夫の存在に気付いた。
既に二人まで数メートルの距離まで迫っていた老夫が、傾斜の下からゆっくりと姿を現す。
「おやっ、もしや坊や私のことをご存知なのですかなっ?」
「こっ……こんばんは」
「こんばんはっ。
そのダブルホワイトコットンキャンディーというのは、近所の子供達がつけてくれたあだ名でしてね。
私の正称は【駄遊玩駄モチャオーチ】なんです。
ときに坊や。先ほどから私のお店の方を見られていたようでしたが、こんな遠くから一体何をしていたのですかな?」
話しながらゆっくりと距離を詰めていくモチャオーチ。
「あっ……と……それは……」
リンロとモチャオーチの距離、リンロの歩幅約3歩分。
(ぬおぉっ!! 滅茶苦茶近いっ!!!)
これ以上警戒されないように動かないようにしてたけど、これ以上はさすがに無理だっ!!
堪え兼ねたリンロがモチャオーチに気付かれぬよう、超小声で背中に貼り付いているトゥーチョに語りかける。
『トゥーチョ一旦距離を───』
リンロが足を一歩引き後ろに下がろうとした瞬間、トゥーチョは後ろからリンロの背中を殴り止めた。
「いっ!!」
『ダメだ~退くなっチョ~。
ここで退けば完全にアウトだっチョ。ここはオレ様がなんとかするから、とりあえずリンロは口をパクパクさせるんだっチョ!! オレ様を信じろッチョ!!』
『………………拳一個分、その距離になったら何がなんでも俺は下がる』
そして、(吹き替え声優・トゥーチョ)によるリンロの口パクが始まる。
「とッ!……止まれッチョッ!!!」
急に声変わりしたリンロに驚き、モチャオーチが足を止める。
「今オレ様はなぁ~っ!!
【ゼンブミナキャ望遠隊】の任務中で、ここの風景調査してる途中なんだっチョッ!!
チョあっ!! 爺さんがオレ様の前に立ってるっチョから、遠近法でオレ様の視界が全部爺さんで埋まってしまって仕事に支障が出てしまってるっチョ~~~ッ!! チョあ~~~~~~上の者に怒られてしまうっチョ~~~ッ!!」
トゥーチョにそう言われたモチャオーチは、慌てて後退し横に逸れた。
「ほわわいっと!!
それはすまないことをしてしまったっ、本当に申し訳ない。そうだっ、お詫びといってはなんだがね私の大好物の【煎餅のズッガ蜜漬け】をあげよう。
また近づいてしまうと悪いからね、ここでいいかね?」
そう言ってモチャオーチは自身のスチームパンクゴーグルならぬ【スチームパンクゴーグル型タッパー】を外し、両レンズの蓋を開ける。
その中に入っていたのは、ズッガ虫という虫の巣から採れる【ズッガ蜜】に煎餅を3日間漬けた【煎餅のズッガ蜜漬け】。モチャオーチはベッタベッタなそれを素手で取り出すと、剥き出しの状態のままの煎餅を草が生い茂る地面の上に置いた。
「邪魔をしてしまって悪かったね、坊や。
良ければまた今度、時間が空いた時にでも遊びにおいでなさいな。
それじゃあ、引き続き調査の方頑張ってね」
その言葉を最後にのんびりとした足取りでモチャオーチは帰り始めた。【高齢者・駄遊玩駄モチャオーチ(82歳・性別男)】のその弱々しい背中を二人は無言のまま見送っていた。
「……………………」
「……………………」
暫くしてモチャオーチの姿が完全に見えなくなると。
リンロは心の中でトゥーチョは口から、二人は同時に塞き止めていた言葉を無感情で溢した。
(地面に置かないで下さい)
「地面に置くなっチョ」
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