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目が覚めたのは、いつもと違ったからだ。メイドが起こしに来るわけでもなく、執事が入ってくるわけでもない。いつもと違う日常に訝しげに思いながらも、カトリーナはベッドから起き上がった。
違和感に気が付いたのは、その時だ。部屋の扉が昨日までの物ではなかったのだ。
(…? どうして扉が開かないのかしら…?)
どれだけ強く押しても、まるで鍵のかかったように動いてくれない。鍵。そう思い当たり、ドアノブの下を見る。小さい鍵穴があったのだ。けれどそれを解除するレバーも何もない。
ふと考えたことが余りにも恐ろしくて、急いで窓の方へと駆け寄る。やはり窓枠も昨日までとは違うものだった。
「どうして…!?旦那様!?」
窓をガチャガチャと揺らしてみるが開く気配はない。その音に反応したように鍵を開けて入ってきたのは他でもない、アルベルトだった。
「旦那、様…」
顔を見て落ち着くと同時に、慌てて服装を整えた。
「おはようございます、旦那様」
如何なる時でも淑女然としなければならない。落ち着きを失い取り乱すなど、公爵家の奥方として許されぬ行為だ。
いつも通りに振る舞うカトリーナにアルベルトは幾分か驚いた顔をしながらも、冷たい顔を装った。無論、カトリーナには何故アルベルトが冷たい表情を浮かべているのは分からなかったのだけれど。
「あぁ」
「…つかぬことをお聞きしますが、何故私の寝室に鍵がかけられているのでしょうか」
カトリーナには全く以っての謎だった。目が覚めれば窓も扉も変わり果てているのだから当たり前だ。
「…お前はここから出ることを許さない。食事もここで摂らせることにする」
「え…?ど、どういうことでしょうか?」
「っ…お前の顔を、見ていたくない!!」
「…どうして…?」
カトリーナには本当に分からなかった。目が覚めれば変わった部屋と、変わった夫。
「どうして、だと?お前も馬鹿ではないのだから、考えたら分かるだろう!お前の顔なんて、一秒たりとも見ていたくない!二度とこの部屋から外へは出るな、分かったか!」
そう言うだけ言って出て行ったアルベルトは、カトリーナが自分を愛しているといいながら、懲りずにフランツと逢瀬をしていたのだと思い込んでいた。
そして思い込みの激しい男にはやはり、思い込みの激しい女である。
「…もしかして、他に愛する方が出来たのかしら…?だから、私が邪魔になった…?」
貴族はそうそう離婚など出来ない。主人の一存で振り回され、時には閉じ込められ、酷いときには『事故』という名の殺害さえもあるという。カトリーナはそれを思い浮かべて、泣き崩れた。
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