24 / 45
第24話 ゼオの訪問
しおりを挟む
王都支店は相変わらず暗雲が立ちこめたままだ。
お金になる依頼はないし、社員も増えない。ただ、父からの手紙によると、デルファン本店は問題なく営業できているようだ。それだけが救いだった。
日を追うごとに夜明けが早くなり、夕暮れが遅くなっていく。打開策が何も思いつかないまま時間だけが過ぎていく。
今の王都支店は宣伝などの営業ができないのがスウミは一番歯がゆかった。
人手不足なため無料の清掃をこなすので精いっぱいなのだ。だから社員を増やそうとあれこれやってみたが、どれも結果に結びつかない。それでも経費だけはかかるから、どんどんお金がなくなっていく。稼ぐどころか、赤字が膨らむ日々だった。
(だけど無料の仕事もいつかは終わる。そこから新たなスタートを切れるはず。だから今は無料の仕事をなるべく早く片付けることを考えよう)
エルド王子は、あれ以来、たびたびスウミを呼び出すようになった。
同じ王都に住んでいるから気軽に来られると思われているのだろう。スウミにはスウミの都合があるのだが、立場上あまり強くも言えず、仕事が忙しいと言ってはみたが、聞き流されてしまっている。王子からの呼び出しを断るということも考えたが、果たして貴族にそんなことが許されるものなのだろうか?
呼び出されて何をやらされるのかというと、他愛もないことが多かった。政治談義をしたり、茶飲み相手を務めたり。リオンと一緒に王城の書庫へ本を探しに行かされたこともあった。ひどい時は用すらなく、自室で書類仕事をしているエルド王子をただ眺めるだけで終わった日もあった。
一度、部屋の掃除を言いつかったこともあった。報酬は払うというので、幾らもらえるのか聞いたら、1回200万ギルだという。それなら10回で借金分になる。不要な仕事をやらせて報酬という形でお金を渡す、それもまたよくある汚職のやり口ではないかとスウミが指摘すると、エルド王子は「強情すぎる」と嘆いた。もちろん掃除は断った。
スウミは焦りを感じ始めていた。王子と会うこと自体は楽しくないわけではないことは認めざるを得ないけれど、今は時間が惜しい。
ただ、馬の遠乗りにつれていってくれたのは嬉しかった。おかげでうちの子を思いきり走らせてやれた。そして、そんなふうに都合の良いときだけ喜ぶ自分は身勝手に思えて、自己嫌悪してしまい、結局王城から帰ってくるときは暗い気持ちになっているのだった。
そんなある日、事務所にゼオがやってきた。相変わらず耳には白い珠のピアスをつけていて、彼がドアを開けて入ってきたとき、白珠が陽光を反射してきらりと輝いた。
「大丈夫なのかよ」
「いきなり何のこと? というか、私がここにいるのをなんで知ってるの。王都支店をオープンさせたって、ゼオには言ってなかったよね?」
受付カウンターで気の滅入る帳簿をつけていたスウミは、座ったままゼオを見上げた。
「噂で聞いたんだよ。そう、それできょうは来たんだ。おまえのところ、すげえ評判悪いじゃねえか」
「う、それを言われると辛い」
「何があった?」
太い腕を伸ばしてカウンターに手を突き、スウミの顔を覗き込んできたゼオに、肩をすくめて見せた。
「チラシの書き間違いがあって、無料で仕事をやることになって、あと窃盗を疑われて、社員が去って……」
指折り数えていると泣きたくなってきた。
「情けねえなあ。やっぱりお嬢様に仕事なんて無理か」
「そ、そんなことない。ここから巻き返すんだから」
「へえ、どうやって?」
「……それは……まだ……考えてないけど」
ゼオはため息をついた。
「この分だと、愛人になるのは確定だな。アリージャの愛人になるか、俺の愛人になるか、あるいは両方……、まあ、どうなるかは俺たち夫婦の話し合い次第だけどな」
「うう……。というか、ゼオは私を助けてくれたよね? それなのに私を愛人にする気なのっておかしくない?」
「何言ってんだ、それはそれ、これはこれだ。返済は応援してやるけど、金が返せないなら、こっちも遠慮しねえ」
借金取りには借金取りの理屈があるようだ。
ゼオはスウミのくせ毛を一房掴んで、軽く引っ張った。
「もしも好きな男がいるなら、返済期限の春までに抱かれておきな。心残りがないようにな。愛人になったら、もうほかの男に会わせてやる気はねえから、俺もアリージャも」
「私は愛人にはならないから余計なお世話よ」
スウミは手を振り払った。
「それならそれでしっかり稼げよ」
ゼオは後ろ向きに数歩下がり、くるりと向きを変えるとドアを開けた。そのまま出ていこうとしたが、ふいに振り返った。
「どうしても愛人になるのが嫌だっていうんなら、夜逃げも視野に入れたほうがいいかもな。……今のはひとり言だ」
ゼオが眩しい日差しの中へと出ていき、ばたんと音を立てて、ドアが閉まった。
お金になる依頼はないし、社員も増えない。ただ、父からの手紙によると、デルファン本店は問題なく営業できているようだ。それだけが救いだった。
日を追うごとに夜明けが早くなり、夕暮れが遅くなっていく。打開策が何も思いつかないまま時間だけが過ぎていく。
今の王都支店は宣伝などの営業ができないのがスウミは一番歯がゆかった。
人手不足なため無料の清掃をこなすので精いっぱいなのだ。だから社員を増やそうとあれこれやってみたが、どれも結果に結びつかない。それでも経費だけはかかるから、どんどんお金がなくなっていく。稼ぐどころか、赤字が膨らむ日々だった。
(だけど無料の仕事もいつかは終わる。そこから新たなスタートを切れるはず。だから今は無料の仕事をなるべく早く片付けることを考えよう)
エルド王子は、あれ以来、たびたびスウミを呼び出すようになった。
同じ王都に住んでいるから気軽に来られると思われているのだろう。スウミにはスウミの都合があるのだが、立場上あまり強くも言えず、仕事が忙しいと言ってはみたが、聞き流されてしまっている。王子からの呼び出しを断るということも考えたが、果たして貴族にそんなことが許されるものなのだろうか?
呼び出されて何をやらされるのかというと、他愛もないことが多かった。政治談義をしたり、茶飲み相手を務めたり。リオンと一緒に王城の書庫へ本を探しに行かされたこともあった。ひどい時は用すらなく、自室で書類仕事をしているエルド王子をただ眺めるだけで終わった日もあった。
一度、部屋の掃除を言いつかったこともあった。報酬は払うというので、幾らもらえるのか聞いたら、1回200万ギルだという。それなら10回で借金分になる。不要な仕事をやらせて報酬という形でお金を渡す、それもまたよくある汚職のやり口ではないかとスウミが指摘すると、エルド王子は「強情すぎる」と嘆いた。もちろん掃除は断った。
スウミは焦りを感じ始めていた。王子と会うこと自体は楽しくないわけではないことは認めざるを得ないけれど、今は時間が惜しい。
ただ、馬の遠乗りにつれていってくれたのは嬉しかった。おかげでうちの子を思いきり走らせてやれた。そして、そんなふうに都合の良いときだけ喜ぶ自分は身勝手に思えて、自己嫌悪してしまい、結局王城から帰ってくるときは暗い気持ちになっているのだった。
そんなある日、事務所にゼオがやってきた。相変わらず耳には白い珠のピアスをつけていて、彼がドアを開けて入ってきたとき、白珠が陽光を反射してきらりと輝いた。
「大丈夫なのかよ」
「いきなり何のこと? というか、私がここにいるのをなんで知ってるの。王都支店をオープンさせたって、ゼオには言ってなかったよね?」
受付カウンターで気の滅入る帳簿をつけていたスウミは、座ったままゼオを見上げた。
「噂で聞いたんだよ。そう、それできょうは来たんだ。おまえのところ、すげえ評判悪いじゃねえか」
「う、それを言われると辛い」
「何があった?」
太い腕を伸ばしてカウンターに手を突き、スウミの顔を覗き込んできたゼオに、肩をすくめて見せた。
「チラシの書き間違いがあって、無料で仕事をやることになって、あと窃盗を疑われて、社員が去って……」
指折り数えていると泣きたくなってきた。
「情けねえなあ。やっぱりお嬢様に仕事なんて無理か」
「そ、そんなことない。ここから巻き返すんだから」
「へえ、どうやって?」
「……それは……まだ……考えてないけど」
ゼオはため息をついた。
「この分だと、愛人になるのは確定だな。アリージャの愛人になるか、俺の愛人になるか、あるいは両方……、まあ、どうなるかは俺たち夫婦の話し合い次第だけどな」
「うう……。というか、ゼオは私を助けてくれたよね? それなのに私を愛人にする気なのっておかしくない?」
「何言ってんだ、それはそれ、これはこれだ。返済は応援してやるけど、金が返せないなら、こっちも遠慮しねえ」
借金取りには借金取りの理屈があるようだ。
ゼオはスウミのくせ毛を一房掴んで、軽く引っ張った。
「もしも好きな男がいるなら、返済期限の春までに抱かれておきな。心残りがないようにな。愛人になったら、もうほかの男に会わせてやる気はねえから、俺もアリージャも」
「私は愛人にはならないから余計なお世話よ」
スウミは手を振り払った。
「それならそれでしっかり稼げよ」
ゼオは後ろ向きに数歩下がり、くるりと向きを変えるとドアを開けた。そのまま出ていこうとしたが、ふいに振り返った。
「どうしても愛人になるのが嫌だっていうんなら、夜逃げも視野に入れたほうがいいかもな。……今のはひとり言だ」
ゼオが眩しい日差しの中へと出ていき、ばたんと音を立てて、ドアが閉まった。
0
あなたにおすすめの小説
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる