遊撃不動産 ~ヤメ警だらけの「夜の不動産屋」に転職してしまいました~

ゴオルド

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闇賭博編

第14話 ルーラー<統治者>という名のバー

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「それじゃ、景気づけに一杯やるか?」
「私がテキーラを飲んだら救急車を呼ばなきゃいけなくなりますよ。きょうはマスターに相談したいことがあるんです。だってマスターのところには、この街のあらゆる情報が集まるでしょう?」
「買いかぶりすぎだ。それで」
「このあたりでバカラをやってる店を知りませんか。探してみたんですけど、場所がわからなくて」
 仕事で盛り場を動き回る際、あちこちのビルを覗いてはみたものの、早田さん本人すら覚えていないものを探し出すことはさすがに不可能だった。彼は当時酔っていたというのもあるが、闇賭博に手を出したのはもう半年も前のことだから、記憶も薄れてしまったのだろう。
「バカラか。賭博だな」
「ええ。その胴元とつながっている連中がヤクザだって名乗ってるらしくて」
「ヤクザ? どこの」
巳一会みはじめかいだそうです」
「ふうん、最近よく聞くなあ」
「そうなんですか!?」
 警察はそうは言っていなかったが。
「ああ、まあ、いろいろな。でもそうか、ユウゲキが蛇退治に乗り出したか。さすが元警察、動きが早いな」
「ええ?」
 何か誤解されているような気がする。
「いやあの、私はお家賃回収のために情報収集していて、それでバカラをやっている場所を知りたいだけなんです」
「ああわかってる、もちろん調べておくよ。街の浄化活動、しっかりやれよ。ヤクザがのさばって客足が減ったらこっちも困る。やつらに人気キャバ嬢を違法風俗店に引き抜かれるのも勘弁願いたいしな」


 バーを出て、何かもやもやとしたものを抱えたまま、私はユウゲキ不動産へ向かって歩き出した。
 ルーラーのマスターはぜったいユウゲキを勘違いしていると思う。
 全面協力してくれるのは助かるけれど、私としては別に街の浄化活動とかヤクザ反対運動とかをしたいわけではなくて、お家賃を回収するために仕方なくやっていることなのだ。仕方なく。嫌々である。本当に。そもそも夜の不動産屋自体が、正義とは遠い位置に存在するんじゃないのかという気がしないでもない。

 ああいやでも会社としては、街の浄化活動に協力しますみたいな理念を掲げてはいるんだっけ。そりゃ社長やほかの社員たちはみんな元警察官だから、そういうのをやりたいのかもしれないけれど、私は何も知らずにユウゲキに転職してきただけの一般人なのだ。ヤクザと全面抗争だなんて物騒な話は勘弁してほしい。チンピラ相手なら喧嘩上等だけれども。
「やっぱりなー、銃とか爆弾とか日本刀とか持ってるのは強いよね。対抗しようがない……あれ?」
 うちの会社が入っているビルの前に、見覚えのあるオコゼ顔、ヤミ金さんが突っ立っていた。
「ヤミ金さんじゃないですか、どうしたんです?」
「おお」
 笑顔で片手を上げて挨拶するオコゼ。なんだなんだ?
 1階でお花屋さんをやっているミユキさんは、困ったような顔をして店先に立っていたが、怪しいオコゼが私の知り合いだとわかると、ほっとしたような顔をして私に手を振ってから店の奥に引っ込んだ。余計な心配をかけてしまって申しわけない。
「よう、元気か?」
 随分と機嫌が良さそうだ。
「え、なんか不気味……」
「おま、ひでえこと言うな」
 オコゼは咳払いをすると、まわりを気にしながら「で?」と言った。
「で?」
「金だよ。回収できそうか」
「無理そうですね。もう諦めることにしました」
「嘘だな」
 よくわかったなあ。こういうところは、さすがヤミ金だ。借金と嘘は切っても切れない関係だもんね。
「なんだよ、せっかく新情報を持ってきてやったっていうのに」
「へえ、どういう情報ですか」
「知りたいか」
 ニヤニヤと得意げに口を曲げるオコゼ。なんかイラッとする。
「く……知りたいです……」
「そうか! じゃあ、特別に教えてやろう。いや、実はうちの顧客にも早田と同じやつがいてよ。バカラで借金まみれになったやつ!」
「まじですか」
「おお、まじまじ。そいつが言うには、バカラ会場は1丁目にあったそうだ」
「……1丁目のどこ……」
「それはわかんねえよ。だって、そいつ、もう怖くてこのあたりには近寄れねえって言うんだし」
「1丁目って結構広いんですけど。それだけでは場所の特定は不可能ですよ」
「でも、おまえ不動産屋なんだろ、頑張れよ」
「いやいや……え、それだけ、新情報ってそれだけですか」
 オコゼは憮然としたようだ。
「な、なんだよ、すごい情報だろ」
「もう!」
 私がエレベーターのボタンを押すと、オコゼは「教えてやったんだから、回収したら分け前よこせよ」と恩着せがましく叫んだ。


 翌日のお昼。
 ラーメンとほうれん草カレーで悩んで、結局ほうれん草カレーを食べてから出勤すると、上司たちは不在で、私宛ての伝言が机の上にテープで貼りつけられていた。「黒字ばんざい!」と背景に薄く印刷されたそのメモ用紙には、「ルーラーのマスターからパソコンにメールあり」と書かれていた。

 私はすぐさまパソコンを立ち上げると、社員共用のメールを見てみた。たしかにマスターからメールが届いていた。すでに既読となっている。上司が中身を確認したのだろう。メールには画像が添付されていた。まずはそっちから見てみた。一人の男が、あたりを窺うような上目遣いをして、繁華街を歩いている写真だった。
 丸顔で、まばらにひげが生えて、丸い眉毛と丸い鼻。

 こいつ、見覚えがある!

 続いてメールの本文を読む。
「ノゾミンが帰った後、黒服たちに話を聞いてみた。どこの店で働いているのかはっきり言わない黒服が街をうろついていると以前から噂になっていたらしい。うちの連中も、こいつは刑事の変装かと警戒して、様子をうかがいつつ、写真も撮っていたようだ」
 街中で立っている黒服のネットワーク、侮りがたし!
「あと、うちの嬢からの情報なんだが、バカラでと言っている客がいたらしい。それで写真を見せたら、こいつが店を仕切っていたのに間違いないとのことだった」

 私はパソコンを操作して、過去の顧客情報を開いた。
「あった! 肩路かたみち居久緒いくお、51歳!」
 こいつが、バカラの胴元だ!
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