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第1部 第13話

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「お帰りなさい」



エディと別れた後、赤毛のジルに送られたアッシュを出迎えたのは、妹メイの夫、ロビンであった。



そんなロビンがいつものように、にこやかな顔をアッシュに向けて見せるが、今のアッシュにはただ怒りがこみ上げるものでしかなかった。



「ロビン!お前、なんて事してくれたんだ!」



珍しくアッシュが言葉と同時に、ロビンに向かって彼の胸倉を掴み出したので、掴まれたロビンも少し驚いて固まる。



「あ‥っ、お、お義兄さん、落ち着いて!とにかく、話をしましょう!ねっ!」



まあまあ、とアッシュの気持ちを落ち着けようと、ロビンは胸倉を掴まれたまま説得をするが、そんなことで、アッシュは気が収まらないのは言うまでもない。



「落ち着けるか!お前のせいで!、こんなことに・・、しかも、お前の兄貴!あれは何だ!!ええっ!」



ロビンは胸倉を掴まれながら、アッシュから、自分や兄であるエディに対しての怒りをぶつけられている。



『よ・・弱ったなぁ、兄さん、お義兄さんを納得させれずに帰したのかぁ?』



ロビンの顔に唾を飛ばしながら怒鳴り散らすアッシュに、さすがのロビンも焦り出してきた。



そんな時だった。この家の一応、家長であるウォルトが「なんだ、騒がしいが、どうしたんだ?」と、呑気に、絡み合う息子たち(一人は義理)に声を掛けたのだった。



「アッシュ、やめないかぁ、ロビンくんが苦しそうだ・・」



ウォルトの何気ない雰囲気での仲裁から、ロビンは、漸くアッシュから解放された。



「で、どうしたんだ?うん?何があった?・・」



その父の言葉にアッシュはギロリと、今度は、ウォルトに視線を移して睨みつけた。



「な・・なんだ、えっ?私か?」



アッシュの睨みに、今度は、ウォルトが狼狽えだし、傍にいたロビンに縋り出す有様だ。



「だいたい、父さんのせいだ!!無謀なこと言って家族を惑わして、そのせいで、私が、「平民議員」に立候補する羽目になったんだ!おまけに、ロビンの馬鹿の行動に加え、ハロルド商会の会頭エディまでもが加担しやがって!」



普段、割に穏やかな性格のはずのアッシュが声を荒げて、ウォルトとロビンを罵倒し出す。



「私の人生はめちゃくちゃだぁーーーー!!」



最後は叫んでいた。



アッシュなりの最後の抵抗としたものだったんだろうが、その感情は、ウォルトの言葉で空しく消えていくのだった。



「えっ!お前、「平民議員」になるのか?」



驚きで、目を見開く父は、そんな問いを息子アッシュにした。



そして、その応えを聞く前に、奥にいる他の家族を呼びつけ出す。



「おーい!、皆!、母さんに、ばあさん、あっ、メイも、こっちにすぐ来い!兄ちゃんが!アッシュが「平民議員」になるそうだ!」



何故か、ウォルトは声を弾ませながら、家中に響く声を上げて家族を集める。



その声に、母ケリー、祖母エル、メイはフェイを抱きかかえて、アッシュの元に集まった。



「本当なのかい?」



母は、目を輝かせて息子に声を掛けてくる。



祖母は祖母で、手を組み合わせ、亡くなってしばらく経つ祖父へ祈り、報告をし出す。



「じいさんやぁ、あんたの自慢の孫さ、アッシュがなぁ、「平民議員」になるそうじゃよ。どうか、行く末を見守っておくれさなぁ」



「兄さん!とうとう、覚悟を決めたのね!やっぱり、お義兄さんは凄いわ!さすが、ハロルド商会の会頭だけあるわぁ!」



メイに関しては、アッシュのことよりも、義理兄の才覚に尊敬の眼差しを向ける有様である。



「いや、ちょっと!ちゃんと人の話を聞け!私は嫌だと言ってるんだ!」



変な方向に解釈して盛り上がる家族を黙らせるために、アッシュが、またまた、声を荒げるが、何故か、その姿に、家族が冷ややかな視線を向けてくる。



「なんだよ・・」



家族の態度が想像と違い責め出していることに、若干怯むアッシュに、ウォルトがぼそりと呟く。



「男なら、やる時はきちんと向き合ってやるべきだ!現実をみろ!」



開いた口が塞がらない。えっ?なんで?お前が言うかな?アッシュの疑問が声になる前に、今度は母が呟く。



「母さんも、そろそろ楽がしたいわ。それに、お前は人様の期待を裏切る子じゃなかったわよね?」



ええっ!母さんまで何言ってるの?、母の呟きに、言葉を失いそうになる。



「アッシュ、ばあちゃんはなぁ、嘘ついたまんまではなぁ、死ねんわなぁ。あの世で、じいさんにも会えんくなるわなぁ」



祖母は涙を袖口で拭い、そんな怖い事を呟き出す。



そこに、メイが何か言いかけるように、口を開きかけたとき、



「ああーーーーー、わかった!なってやるよ!「平民議員」でもなんでもな!それでいいんだろ!」



アッシュがキレた、とうとう、皆の思惑に落ちてしまった瞬間だった。



「「「「やったぁーーーー!」」」」



ウォルト、ケリー、エル、メイが声を上げて喜んでいる。



その姿に、苦虫を噛みつぶしたような表情のアッシュが、彼らを睨みながら立ち竦む。



が、ここで、一番、驚いているのがロビンである。



『ええっと?、何これ!、作戦でもしていたの?』



呆然とするロビンに、メイが駆け寄り小さな声で話し出した。



「良かったね!あの宣伝用の紙が無駄にならなくて!」



舌をペロって小さくだしてお道化る仕草を見せるメイに、ロビンは驚いてしまう。



「お金、無駄に出来ないでしょ?それに、うちからは出せないからね。ロビンの言うように、実現させるしかないじゃない?兄さんには、申し訳ないけど・・でも、兄さんならやってくれるもん!」



メイの囁きを聞いてから義家族の顔をみると、ウォルトもケリーもエルも皆が誇らしげにアッシュを見ている。



「うちの兄さんは、家族みんなの自慢なんだぁ。悪いけど、エディさんにも負けないからね!」



メイが不敵に微笑み、同じく、自兄を尊敬してやまないロビンに宣戦布告する。



「フン!アッシュさんが有能なのは知っているけど、うちのエディ兄さんには敵わないさ!」



ロビンも、メイに負けずと応戦して見せる。



「じゃあ、その二人の兄さんが手を組むから最強だね!」



「そりゃ、そうだろ!」



自分で宣言しておきながら、まだ、納得しきれない顔でいる兄アッシュを見ながら、ロビンとメイは、互いに微笑み頷きあったのだった。

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