<第一部 完結> お前がなれるわけがない!

mokono

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第1部 第48話

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「あぁ、やっと帰って来たわ。あんな田舎に何日も居たら死んでしまうところだったわ」



片田舎のトウから王都まで片道4日もかけ、女は、漸く、自分が住まう王都の入り口に馬車が入ったことに喜びを感じる。



本来なら、滞在日数も合わせて一週間ほどだったのに。



バカな奴らが下手を打ち、目当てのお金が約束の日では手に入らなかった。



その為、あんな田舎で何日も過ごす嵌めになり、正直、気が狂いそうだった。



おまけに、帰り際に出会った美麗な顔の男・・・



女は、トウに滞在中、ウラスの隠れ家である別邸で身を潜めていた。



下手に、トウの町を女がうろつけば、女の派手な容姿や服装からこの町の人間でないことが知れ渡る。



その為、トウの町に来てからは、ウラスの隠れ家で過ごす日々だった。



そんな日々に限界を感じていた時、ウラスの元へセフィが集まった金を抱えて、別邸へ訪れたのだ。



本来なら、もう少し金を持ち帰りたかったのだが、女はトウで過ごす事には限界だったので、残りの金は、後日、ウラスかセフィに運ばせる段取りで話をつけたのだった。



そして、その日、役場に戻るセフィの姿を自身が寝泊まりする部屋の窓に掲げられているカーテンの隙間から眺めていると、別邸の外周を囲む柵の向こう側に佇む人影が見えた。



顔は、はっきりしないが、どうやら男がセフィを追って付けてきたのがわかった。



「もう潮時ね」



女は、そう言ってカーテンを引いた。



お金も手に入った今、この地にいる必要はもうないと判断し、女は荷物を纏め出し、急いで、トウの町を出る事にしたのだ。



そして、町の中心地近くについた時、女は荷物だけを自分の持ち馬車に預けて、自分一人、その場で降り立った。



女はそうして持ち馬車を見送り、そのあとは一人、町をゆったりと歩きだす。



『もう、この町とも最後ね』



女はにーっと笑い、右端に笑窪を作る。



そんな時、女の後ろから声が掛かった。



「美しい方、こちらの町にはご旅行ですか?」



振り返ると、こんな田舎には似つかわしくない美麗な男がいた。



思わず声を失う程、女は、その男の容姿に魅入ってしまう。



「どうされましたか?」



小首を傾けて、美しい笑みを零す男に、女も笑窪を作り微笑みを返す。



「そうなの。はじめて来たのだけど、もう飽きたので帰るとこなのよ」



女の声に、男は美しい顔を曇らせる。



「そうなのですか?それは残念だ・・運命の出会いを感じたのにな」



「まあ、お上手ね。あなたは、こちらの方なのかしら?」



女が少し口角を上げて、男に質問をする。



それに、男は曇り顔を少しだけ綻ばせてみせて、女の質問に応える。



「そうなんですよ。生まれてこの方、ここから出たこともないもので・・」



そう言うと、女は目に見えて残念そうな顔を見せる。



「そうなのね。この町の人のなのね。残念だわ。本当に、あなたなら、貴族でもなれるのに」



「貴族、ですか?」



男は美しい顔の眉間に皺を刻む。



「そうよ。貴族よ。貴族はね、美しくて、賢くて、とても偉いのよ」



ウフフフ・・・と女は笑い、笑窪を作りこむ。



「本当に残念。もう、ここには来ないから、あなたともお別れだわ」



女はそう言って、男の美しい顔に手を伸ばして、ゆったりと頬を撫で上げる。



「へえー、運命の出会いなのに連れないなぁ。俺が、あなたを追いかけるかもしれないよ」



男は、自分の頬を撫でる女の細い手を握り、目を輝かせて怪しく微笑む。



その姿に、女はぶるりと体を震わすと、慌てて、男から自分の手を引っこ抜いた。



「もう、時間だから!さようなら。美しい平民の男」



女は男を睨みつけて、辻馬車の停留場へ向かう。



「さぁて、追いかけっこと行きましょうかね」



ラドはそう呟いて、彼女を見つめていた。



女は、美しい男と別れ、予定通り辻馬車へ乗り込む。



『あれが、ウラスの別邸で見た男だったのね。急遽、予定変更で辻馬車でトウの町から出ることにして良かったわ。男の顔も確認出来たし、これで、うまく撒けるわね』



そう思い女は、ほくそ笑む。



トウの町を出てからは、美しい男を警戒しながら移動をし、予定よりも日にちを掛けて王都を目指した。



途中の宿泊地で、あの美しい男をうまく引き離せたことを確認してから、女は、目論み通り自分の持ち馬車に乗り込み、そして、王都に着いたのだった。



色々と、手間が掛かった。



だけど、いつもよりも大きなお金も手元に入った。



それもこれも、全て、あのお方の考えた通りに進めたおかげ。



「本当に、あのお方は、素晴らしいお方だわ」



女は、うっとりしながら、窓に目を向ける。



数日前まで過ごした町に比べると、この王都では町の外れとはいえ、人も多く、また、平民と言えど、服装一つにしても、この世の流行発信地だけあり、皆、華やかに見え、「あんな田舎の町とは雲泥の差だわ」と女は呟く。



しかし、あの町は、大事な、大事な財源。



あのお方が目指す夢に必要な駒。



女は、そんな事を思いながら、自分の長い髪を一房手にし、指に絡める。



だけど、もう、あの駒は要らないらしいわ。



指に絡めた髪を弄りながら、女は微笑む、右端に笑窪を作って。



馬車に揺られながら、女は新しい生活に夢を馳せる。



そうこうしていると、馬車が目的の場に着いた。



「そう言えば、あの男はまだ生きているのかしら?」



そんな女の顔には鬱々とした表情が浮かび上がっている。



女は、御者に手を引かれ馬車から降り立つと、自身が王都で暮らす家の前で立ち尽くす。



「はァ、死んでくれていたらいいんだけど」



そう言いながら、女は出迎えた使用人と共に家へと入っていった。



その姿を家の外から、馬に跨り眺めている男がいた。



ラドと途中の町で落ち合い、女の尾行を交代したエディの部下の一人である。



『あの女の脳に、俺の顔をしっかり刻ませたから、俺以外に追われているという認識は消えているはずだ。後は任せた』



交代する際に、そうラドに言われた。



エディの部下は、ラドの言葉通り、交代してからは女の警戒も薄くなり、難なく、王都の住まいまで辿り着けたのだった。



彼は、女が家に入る姿を確認してから、王都で動いているジルと合流する為にその場を去って行った。

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