<第一部 完結> お前がなれるわけがない!

mokono

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第1部 第71話

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女の追跡に失敗したジルの方は、今いる地にて急ぎランタンの購入を行い、改めて、態勢を立て直して、女の捜索を再開する。



夜を挺しての捜索だ。



ジルは己のこれまでの仕事で得て来た経験を基に、女の馬車を追っていく。



そして、馬を走らせながら、女のこれまでの行動を思い起こしてみる。



王都を拠点にしていた女が、今日に限って、何故、王都を外れた場へ行っているのか?



相手が大物で、姿を隠したいが為か・・・



いや、大物が絡んでいたとしても、トウで集めた金を渡す為だけに、こんな手間を掛けるだろうか?



自分の配下の者に仕事を任せて、用が済めば要らない者は切り捨てればいいだけだ・・・



ジルは、自分の考えに、はッとする。



「切り捨てられるのか?」



女の末路がジルには浮かぶ。それを振り払うように、ジルは馬の腹を強く蹴り上げたのだった。



「間に合ってくれよ!」



ジルは、希望を掲げて、馬の速度を上げて走らせていく。



一方、ジルの追跡を躱した女は、激しく揺れる馬車の中で、恐怖で体を縮こまらせていた。



いつもなら、暫く馬車に乗って行った先、王都の町の何処かで、トウの町からせしめた金を渡すのが通例だった。



なのに、今日は、王都の町中をひたすら走っている。



一体どうしたのか?と、女が首を捻るが、女には、いつもあの方と会う場所は知らされておらず、御者に連れられるが故に、この状況にも疑念はあるが口出しは出来ずにいた。



ただ、昼間の明るい時間で走る王都の町では、馬車の速度も緩やかであり乗っているだけであれば、何も問題はなかった。



しかし、時間が過ぎゆき、外が光を失いだした頃、いつも見慣れている王都の景色が消え去り、窓から見える景色には人家が少なくなり、木々が目に飛び込んで来だす。



今日は、いつもの様に王都ではないの?



女の顔にも不安が浮かびあがる。



どういうこと?何かあったのかしら?



女は窓から外を見て、状況を確認するが、外は、人家も人の姿も見られない。



うっすらと月の光を差し込み、辺りにある木々を映す。



女は驚き、御者に声を掛けようとした時、馬車の車体が大きく揺れ出した。それを合図に、馬車の速度がぐんぐんと上がる。



「な、なに、どうしたの!」



急な速度に耐えられず、女は、座席から落ちて車内で転がってしまう。



何かにしがみ付かないと、馬車から放り出されてしまう程、馬車の速度は怖い程上がっていっている。



女は、何とか床に転がる体を起こし座面にある隙間に手を差し込み、バックを抱え込みながら必死にしがみ付いていた。



「きゃー、何!えっ!」



こ、こわい。女は、目を開ける事も出来ない程、馬車の速度とそれに伴う揺れに恐れていた。



気が遠のきそうに何度もなる中、女は恐怖に耐え忍ぶ。



どれくらい経ったのだろうか・・・意識が何度か飛ぶ程の馬車の走行がようやくおさまった。



だが、女は恐怖から動けずにいた。



思考がうまく働かない、状況を整理しないといけない。いつもと違うこの状況・・・



何か、気に触ることがあったの?私がしてしまったの?まさか?



女は、ごくりと唾を飲み込む。



そして、力が入りづらい体を奮い立たせて、貴族の者らしく優雅に見える様にと床に落としていた体を引き上げ、座席に座り込む。



女が座席に座り身なりを整えた時、馬車の扉がノックされてから、ゆっくりと開いた。



うっすらと月明かりにより照らされたそこには、馴染の顔、自分と同じ准男爵の爵位を持つ青年がいた。



「やあ、今日も美しいねぇ。あの方がお待ちかねだよ」



にこりと笑い、女に声を掛ける。



その姿に女は、にーっといつもの様に右端に笑窪を作って微笑む。



その姿を見て、准男爵の青年がエスコートの為に手を差し伸べる。



暗がりの車内の中、女はその差し出された青年の手を、自らの利き手でない方の手で受け止め、そして、優雅さを醸し出す様にゆっくりとした動作を取り、馬車を降りていく。



青年は、女の手を支え、少し先に停車しているもう一台の馬車へと案内をする。



先で停車していた馬車の前に到着すると、青年が、馬車にある扉を軽く叩くと、中から、男の声で返事が聞こえた。



「さあ、ご褒美を頂いておいで」



青年が、女にそう告げてから扉をゆっくりと開けた。



扉が開いた先に見えた車内では、見知らぬ者が銀色に輝く物を向けていた。



「えっ?!」



と声に出る前に、女は体に鋭い痛みが走った。



そして、布を抱えた准男爵に支えられる。



「楽しかったかい?平民でしかも娼婦だったのに、貴族の世界で一時期過ごせたんだからさ。良かったね。あぁ、そうそう、人生最後のご褒美をあげるね。いいかい、平民は、穢れた血しか流れていないんだ。どんな事をしてもお前達は貴族にはなれないんだよ。あの方はね、特に、平民が嫌いなんだよ。だから、要らなくなった平民は捨てられるんだ」



青年は、女がこと切れたのを確認し女が乗って来た御者を呼びつけ、遺体となった女を渡す。



「予定通り始末しておいで」



そう御者に言いつけると、青年は馬車に乗り込んだ。



「はァ、ちょっと汚れちゃったよ」



青年は、白い手袋を取り外し、女を剣で刺した男に投げ渡す。



「准男爵なんて役も終わっちゃったなぁ。最後には予定が狂ってしまったけれど。まあ、後で平民を始末すれば、怒られることもないだろうし、金もあるから問題ないか」



青年は御者が運び入れた二つのカバンを見ながらそう言い、クスリと笑ってみせる。



その姿を向かいに座る男は、ただ黙って、我が主である青年を見つめていた。



「もう行こうか。早く帰って眠りたいよ」



ふあっと欠伸をして、青年は、目を瞑った。



青年を乗せた馬車は、王都の貴族街へと駆け出していく。



ジルが走る道とは異なり、彼らはジルとすれ違う事もなく夜の闇を走って行った。



女が始末された場所から、青年の乗った馬車が消えて少しの時間を置いて、漸く、ジルが女が乗っていたと思われる馬車を見つけたのだった。



しかし、馬車の中はもぬけの殻で、女も金も見当たらない。



ジルは、ランタンを手にして、馬車を念入りに見て回る。



すると、座席の隙間がランタンの明かりに反射したように見えた。



ジルは座面にある隙間に手を差し入れ、光るものを探す。



「なんだこれは?」



座面から小さな宝石のような物が出て来た。



ピンク色の宝石、ジルはこれまでに見た事がないものだった。



何かの手がかりになるかと思い、ジルはその宝石を上着の内ポケットに仕舞い込んだ。



そして、他に何かないかと探るが、それ以外、馬車からは何も見つける事が出来なかった。



ジルは仕方なく馬車から離れて、馬に再び飛び乗った。



馬車を捨てて、移動手段を変えられては、もう追う事は難しい。



ここは、一度、エディの元へ戻るのが先決だと踏み、ジルはその場を後にしたのだった。

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