チョーゴーキン! ――車両模型に転生したアラサー女子、異世界の街道をひた走る

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 市の境を抜け、国道にはかなりの間隔を置いてテールライトとヘッドライトの行き交いが直線状に続くようになっていた。
 春分を過ぎた頃合いだけど、この辺りではまだ午後六時を過ぎるとすっかり夜間走行になる。ステアリングを握る手に、わずか緊張の力が籠もる。
 それでもそんな素振りは見せないように、あたしは助手席の甥の話に耳を傾けていた。
 買ってきたばかりの金属模型を箱から出して膝に載せ、颯人はやとは淀みなくその蘊蓄うんちくを語り続けている。正直半分も理解できず耳をすり抜けていくのだけれど、日頃口数少なく大人しい甥の珍しいほどの上機嫌弁舌を妨げる気になれない。

――趣味に熱中できるのは、いいことだよね。

 三十年ほど前のSF映画に登場した架空の惑星の砂漠地帯で活躍する装甲車、ということは事前に聞かされていたのだけれど、実物を手にしてその具体的説明にどんどん熱が入ってきているんだ。

「装甲車には珍しいキャタピラ走行なんだけどね、これで砂地でも湿地でもオールオッケーなんだよ」
「へええ」
「現実の戦車なんかならキャタピラの継ぎ目を狙い撃たれたら動けなくなっちゃうことがあるんだけどさ、こいつは本体もキャタピラも超合金製で特別仕様だから、絶対傷ついたりなんかしないんだ」
「凄いんだねえ」

 くだんの装甲車モデルは縦の長さ40センチほどもあり、全身焦茶色に艶消し塗装されている。一言でいうと、戦車から頭のような砲塔部分を取り去ったという外見だ。上面はほとんど真っ平らなのだけどその中央付近が円形にスライド開閉して、いろいろ武器や便利装備が出し入れされるのだそうな。
 今は入手前に説明できなかったその部分を指でさして、スポンサーたる叔母に講釈してくださっているのだ。

「潜望鏡を出して遠くまで見通せるし、レーザー砲で巨大生物も退治できるんだ」
「凄い凄い」
「装甲車に潜望鏡ってのもおかしな感じだけどね、砂漠や岩地を走って遠くを見なくちゃいけないし、水陸両用だからさ、湖の底を走ることなんかもあるんだ。だから丈夫な潜望鏡が、3メートルくらいも上に伸びるんだよ、本物だと」
「へええ、何とも」

 中学受験の合格祝いに何がほしいかと訊ねると、思いがけずこの模型の名が挙がった。小学校ではずっと人付き合いが少なく読書と勉強ばかりに耽っていたという印象だったので、こういう玩具の類いが口にされたというのが意外だった。
 しかしよく聞いてみると、玩具というよりはマニアの嗜好品に近い。本人が生まれるずっと前の映画公開時に売り出された希覯きこう品で、現在は入手困難、ネットでいろいろ調べてようやく隣市内の模型店に在庫を見つけた。
 喜び勇んで、あたしが何とか午後からなら動けるというこの日、二人で買い物に出かけた帰りだった。

「この模型は亜鉛合金製だけどね、本物は近未来の新素材製だから、比べものにならないくらい強靱なんだよ。ダイヤモンドでも傷をつけられないんだ」
「うんうん」

 小学校ではずっと孤立して、一時は誰に対しても心を閉ざしていた。それが周りとは違う中学に進むことを決めて、何とか家族の中で思いを表すようになってきた。
 近くに住んで頻繁に顔を合わせる叔母に対しても、ようやくこうして幼い頃に戻ったように多弁を振るうようになった。親族の中では涙が出そうなほど嬉しい変化だ。

――この子の新しい世界に幸あれ、だね。

 三十を過ぎて独り身のあたしにとって、この姉の一人息子はほとんど我が子のような存在だ。新しい学校に進んでもどういう生活が待っているか保証の限りでないけど、今後もできるだけの力になってやりたいと思う。
 甥の尽きない話を聞きながら、夜道に愛用の軽自動車を操る。
 日頃から運転に慎重な性格たちで、今も先行車との車間は百メートルほどに開いていた。
 それが。

「え?」

 信号のない交差点に、先行車に続いて差しかかろうとした、ときだった。見晴らしのいい右方向の道路から、猛スピードで大型車が飛び出してきた。
 左折の動きだけど、対向車線に収まりそうにない。猛速の勢いのままこちら車線まで大きく膨れ、真正面に向かってきた。
 目が眩むほどのライトが、一瞬で大写しに迫りくる。

「きゃああああーーーー!」

 せめて助手席をまもろうと、必死で左にハンドルを切り。
 轟音。
 衝撃。
 暗転。

――――――――――

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