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四百珊瑚

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再来編

第十三話 日常

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 事件から一週間が経ち、人々はすっかりと日常へ戻ったかのように見えた。だが、警察はそうは行かなかった。あいかわらず警察の捜査は難航しており、一向に何もわからない膠着状態が続いていた。被害者遺族たちからは非難の声が殺到していた。
 
 「まったく困ったもんだなぁ…。」

 神谷が呟いた。

 「こんだけでかい事件なのに捜査は進展せず上はイラついてるだろうな。マスコミからも叩かれまくってるし。」

 「ほんと嫌になっちゃいますよね。面倒ごとは私たちに丸投げして叩かれれば私たちが文句言われまくるんですから。もっと増援してほしいものです。」

 桜も呟いた。

 「まぁ、仕方ねぇよなぁ。俺たち窓際部署だし。」

 「ちょっと!そんなこと言わないでくださいよ!」

 そうなのだ、神谷たちのいる特務課は警察組織の中でも使えないと見切られた警察官たちがとばされる部署なのだ。神谷と桜は警察組織の中でもずば抜けて優秀だが、上からの命令に逆らった捜査や被害者のプライベートへの深入り、命令違反など、組織に合わないことを行い、とばされたのだ。実際、特務課の日頃の業務内容はひどいものだ。主な業務は、この鳴神市という不可思議な出来事が頻発する土地に住む市民から寄せられる奇妙な依頼への対応だ。猫が消えた、子供たちが行方不明になった、車で走っていて人に衝突したと思ったら誰もいなかった、朝起きたら家が半壊していた、UFOが現れた、などなどだ…。また、こういった珍事件の捜査だけでなく、殺人事件や防火、強盗などの事件が起こった際も、主に住民への聞き込みや防犯カメラのチェックなどを行う。言ってみれば雑用ばかりやっている部署だ。

 「でもまぁ、窓際部署にもいいことはあるぜ。」

 「だから、そんなこと言わないで下さい!ちなみになんですか?」

 「いくら命令に逆らった独断での捜査を適当にやりまくっても、とばっちりがないこと!もう俺ら組織から完全に見放されてるから何やっても自由っしょ!」

 「…こんな刑事がいるから世の中よくなんないんですよ!」

 「でも実際そうじゃん。それに俺みたいなやつが、俺なりのやり方でたくさんの事件を解決しちゃってるのも事実でしょ。だから上も一見俺がサボってるかのような変な捜査とか、命令違反とかしてても今さらクビを切るようなことはしないんだよ。その分ちゃんと成果だしてるしね。それに上にも俺のことを認めてる人は少数だけどいるから切るに切れないんだなぁ~(笑)。やっぱこういうやつ、組織に少しは必要なんだよ。」

 「…わりと説得力あるようなないような…。」

 「それに桜ちゃんだって俺とはタイプは違うけど同じようなことやってんじゃん。ドラマでありがちな上からの圧力で捜査中止とかになっても捜査しまくるっしょ。」

 「うっ!それを言われるとなにも言い返せない…。」

 「それに俺らなんか超薄給なのにめっちゃ激務じゃん。こんなおかしなとこ住んでたら珍事件なんか日常茶飯事なのにその度に捜査して書類作成しておまけにその他もろもろの雑用までしてるのに特務課ってだけで白い目で見られたりしてねぇ。他の刑事たちのストレスの捌け口にもなっちゃってるし意外と刑事のなかじゃ俺らが一番コスパいいかもよ?」

 「神谷さんて無駄に頭の回転早いから、なんか言い返せそうで言い返せない…。」

 桜はため息をついて頭を掻いた。

 「「無駄に」は余計だよ。」

 「余計じゃないです!」
 
 「余計!」

 「余計じゃないです!」

 「余計!」

 「余計じゃないです!」

……………………

 しばらく同じ会話を繰り返した末、桜が折れた。
 「もういいです!さっさと仕事しましょ!」

 「よし勝った!じゃあ行くぞー!」

 「えっ?行くってどこに?」

 「あぁ、まだ言ってなかったね。この前会った少年のとこだよ。」


「矢本くんですか?でも、彼から聞き出せることなんてもうないんじゃ…。」

 「いや、じゃないんだなぁ~。」

 「…え?」

 桜がキョトンとしてるのに対し、神谷はどこか嬉しそうに歩き始めた。
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