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四百珊瑚

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継続編

第三十三話 母が眠る場所

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 久々の休日。一は、家でだらだらと寝てるのも勿体ないと思い、ウエストポーチに財布と携帯電話を詰めてあてもなく外を歩くことにした。散歩がてら、なんとなく家から少し離れたところにある、そこそこ大きなショッピングモールに向かった。日曜日のショッピングモールは、暇を持て余した人々で満たされていた。駐車場には、おそらく普段運転しないであろう家族連れのお父さんが車庫入れしたと思われる、白線に対して平行でない車であふれ、車のナンバープレートを見ると、かなり遠くから来た車もあった。しかし、かなり値段の張るファッションブランドや飲食店など、あまり見かけないようなお店も入っているショッピングモールの中で、いつも一番混んでいるのは、田舎にも溢れかえっているであろうファストファッションやファストフード店ばかりであった。わざわざ遠くから来たのに、比較的どこにでもあるようなお店に入るとは、なんか、なんだろうなぁ…と、余計なお世話だと言われそうなことを考えながら僕はよく行く喫茶店に入った。
 僕のよく行く喫茶店は、コーヒー一杯で400~600円程度の安くもなければ、それほど高くもないチェーン店だ。高校生からすると少し高いだろうか。店内は落ち着いた雰囲気で、コーヒーの価格帯的にも様々なタイプのお客さんが来店する。主婦の集まり、家族連れ、パソコンに向かうビジネスマン、読書好きな老人、上品で高級そうな時計をしている老人など、コーヒーを一杯頼み、席に座って人間観察をしているだけでも意外と面白く、時間がたつのが早く感じる。飽きてくると店内にある本や漫画を読む。なぜかわからないがこの喫茶店は店内の雰囲気に合わない、それこそ黒Tシャツを着たお兄さんがバイトしてるラーメン屋によく置いてあるような少年漫画が置いてあり、僕はそう言った漫画が好きなので、そう言うこともあってこの喫茶店はかなりお気に入りだ。
 僕はアイスコーヒーを一杯注文し、席につくと窓の外に花屋があるのが見えた。オシャレな外観で、色とりどりの花がたくさんあるのが見えた。

 「(そういえば、母さんのお墓に最近行けてなかったな。)」

 僕はアイスコーヒーを急いで飲み終え、会計を済まして喫茶店から出ると、向かいの花屋の中でも特に色鮮やかな花を買った。その花を片手に、足早に母さんの墓へ向かった。
 
 ショッピングモールから母さんの墓までは歩いて20分ほどだ。緑豊かな森林に囲まれたところにあり、爽やかな風がそよいでいた。近くの水道で水を汲み、墓標をきれいにし、雑草をむしって花を添えた。そして、両手を合わせて目を閉じる。

 「(母さん、お元気ですか?僕は元気です。この前、夕日の当たる電車のなかで会いましたね?あれは夢だったのですか?それとも現実の事でしたか?また、僕の前に現れてくれますか?僕はこれからもみんなの笑顔を守るために、怪物と戦い続けます。どうか見守ってください。)」

 母に言いたかったことを言い終え、目を開けた。一は、そっと歩みだし、帰路についた。

………

 「おーう彰悟!ちょっと買い物行ってきてくれや!」

 自分を呼ぶ父の声が聞こえ、彰悟は目を覚ました。

 「いつまでも寝てるんだよ?!なんか最近元気ないぞ。何か学校であったのか?」

 「…別に何もないよ。何を買ってくればいいの?」

 「そうか?…あぁ、卵と牛乳、それから昼に食うのに適当な揚げ物と、食パンを頼む!」

 「…わかった。朝飯食ったら行ってくるわ。」

 重い瞼をこすり、台所に向かう。食パンを一枚レンジに入れ、目玉焼きとウインナーを焼いている間、彰悟はずっと一とのことを考えていた。

 「(一…。)」

 彰悟は迷っていた。もちろん一とはこれからもずっと仲良くしたい。だが、末永は一と自分の仲を快く思っていない。あの末永の事だ、これからも一とは仲良くやっていくと言ったら絶体に一悶着あるはずだ。それがきっかけで、もしかしたら次は自分がいじめの対象になるかもしれない。一体どうすれば…。

 「お兄ちゃん!焦げてる焦げてる!」

 「あっ?!」

 弟のしょうに声をかけられて、目玉焼きとウインナーから焦げ臭い匂いが漂っていることに気づいた。

 「お兄ちゃんなにやってんのー。最近変だよ。」

 「お、おう…。悪いな…。」

 「そういえば最近一くんうちに来ないじゃん。一くんが来なくなってから変だよ。喧嘩したの?」

 「いや!してないしてない!」

 「そうなの?じゃあまた一くん連れてきてよ!僕、一くん大好き!なんか、初めてうちに来たときも、初めて会った感じしなくて、前にも会って、すごい優しくしてくれたような気がするんだよね。」

 「そ、そうか…。」

 彰悟は弟のこの言葉もあって決意した。元々一とは仲良くやっていくつもりだった。そして、この言葉で、末永と戦う覚悟もできた。

 「わかった!近いうち必ず、あいつを連れて来るよ!」

 「ほんとに?!やったー!」

 何も知らない翔は声をあげて喜んだ。彰悟もまた、この笑顔を守りたいと思った。それは、怪物と戦う時の一にも似た感覚だった。
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