【R18】若衆歌舞伎の花、檻に憧れる

ましゅまろ

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紅を引く少年

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夕暮れの江戸・深川。
薄紅色の雲が川面に映え、町のざわめきの奥で、ひときわ高く提灯の明かりが揺れていた。
それは芝居小屋「菊乃座(きくのざ)」。
大衆の娯楽の中心にして、ある者にとっては罪を背負う楽園でもある。

その楽屋の一隅。
一枚の小さな鏡の前で、ひとりの少年が黙って紅を引いていた。

名を**千弥(せんや)**という。
頬は白粉に淡く染まり、細く整った眉の下には、女よりも女らしい目元。
唇に紅をさす仕草には、色気と儚さが混じっていた。

「千弥。そろそろ時分だ。支度は済んだか」
背後から声をかけたのは、座元の市村道山(いちむらどうざん)。
長年芝居の世界に身を置く男で、千弥を拾い、育て、そして――売り出した男でもある。

「はい、師匠。……今日の演目は『夕顔の恋』、女房お照の役ですね」
「そうだ。お照は切ないぞ。心に嘘がある女だ。観客に“泣かせてみろ”」

「――はい」
千弥は短く答えたが、その声には微かな翳りがあった。
鏡の中で笑っているのは、“お照”という女――演じるべき仮面の顔だ。
本当の自分は、どこにいるのか。
舞台の上で女として愛されるたび、その疑問は深くなっていく。

幕が開くまで、あと十刻(とき)。
千弥は目を閉じる。
紅を引いた唇に、心を閉ざした少年の名残がわずかに宿る。

それでも、舞台は待っている。
“女”として拍手を浴びるその時まで――
少年・千弥は、仮面を剥がさない。
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