稚児維新 〜美しき者が天下を覆す時〜

ましゅまろ

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綻びの帝都

紅蓮の道

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火は、声なき者たちの代わりに叫ぶ。

それは怒りでも復讐でもない――
抑えつけられてきた者たちが、ようやく「私はここにいる」と言うための、唯一の光だった。



宴の翌日、京の町のあちこちで不思議な現象が始まった。
それは、静かなる“炎”だった。

古い経蔵の前。
道端に積まれた使い古しの念仏。
破れかけた僧衣。

――それらが、次々と燃やされていった。

燃やしていたのは、町人、遊女、そして――元稚児たちだった。

「もう仏に祈らない」
「もう奉られない」
「私たちの体は、誰かの救いの道具じゃない」

そしてその中心に立っていたのが――紅葉だった。



「俺はもう、飾りじゃない」
紅葉は、白菊屋を飛び出した。

かつてその微笑みで貴族を惑わせていた顔は、
今や怒りと確信に燃えていた。

「誰かに“選ばれる”ためじゃない。
自分の“名前”を、自分で取り戻すために――」

紅葉は、透夜の名を公然と叫んだ。

「俺は“千寿”に教えられた。
自分の声は、誰かに拾われるのを待つんじゃない。
自分で放つんだって」



町のあちこちで、小さな火が灯る。
それは暴動ではない。
それは信仰の終わりではない。

“偽りの信仰”への鎮魂だった。

人々は気づき始めていた。
美しい言葉に縛られた信仰が、どれだけの子を沈黙させてきたのかを。
祈りの形をした欲望が、どれだけの身体を蝕んできたのかを。



そして夜。
照葉庵に、紅葉が現れた。
かつての艶やかさはそのままに、
けれどその目には、しっかりと「意志」が宿っていた。

「来たか」
透夜は微笑んだ。

「遅くなりました」
紅葉は頭を下げた。

「でも、ようやく一人の“子ども”として、ここに立てた気がします」

透夜は紅葉の手を取り、火の前に座らせた。

「この火はもう、“神聖”のためにあるんじゃない。
“私たち”のためにある。
何を祈ってもいい。
何も祈らなくてもいい」

紅葉は、静かに火に手をかざした。

「……なら、俺はこう祈ります」

「この国の子どもたちが、
誰の身体も、誰の信仰も、誰の欲望も、
背負わずに笑えるように――」



その夜、照葉庵の火は紅く燃えた。
まるで、かつて焼かれた経文の灰が蘇ったかのように。

そして都は、その火を“革命の炎”と呼び始める。
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