稚児維新 〜美しき者が天下を覆す時〜

ましゅまろ

文字の大きさ
31 / 40
稚児、国を語る

希望の聖堂

しおりを挟む
それは聖堂と呼ぶにはあまりにも質素だった。
藁葺きの屋根、土間の床、木の柱。

だがそこに――人々は「希望」と「名」を持って集った。



京の北端、壊れた観音堂の跡地に、小さな集会所が建てられた。
かつて寺が見捨てた土地。
そして今、透夜たちが“最初の国土”として選んだ場所だった。

扁額には、透夜の筆でこう記されていた。

『聖堂ではなく、声堂に。』



紅葉が問う。
「聖ではないと、最初から言い切っていいの?」

透夜は頷いた。
「“聖”と名乗るから、誰かが踏み込めなくなる。
だから俺たちは、“ただの者たち”のための場所にする」

「ここに来る者は、過去に傷があっていい。
罪があっても、嘘を吐いていても、黙っていてもいい。
ここは、“再び名を持つための場所”だ」



その言葉に、最初の来訪者が現れる。
名を持たず、かつて稚児だったという老人。
寺から逃れ、名前を伏せて物乞いをしてきたという女。
「親に売られた」とだけ語った、10歳の少年。

透夜は誰に対しても、同じように尋ねた。

「君は、自分の“新しい名前”をつけたい?」

その問いに、少年は小さく頷いた。

「……じゃあ、今日から君は、“朝陽(あさひ)”だ」
「昇っていく太陽のように、これから照らしてくれ」

少年は、初めて涙を流して笑った。



照葉庵の仲間たちも、それぞれ役割を担い始めていた。

・恵心は門番として、暴力の侵入を防ぐ剣を。
・桂丸は言葉を教える読み聞かせ師を。
・明燈は文を綴り、出来事を後世に残す書記を。
・紅葉は、心の傷を隠さず語る“語り部”を。
・風は、名もなき訪問者を陰から護る影を。
・そして透夜は、すべての始まりとして、焚き火の火を絶やさぬ者に。



そのうち、人々は“声堂”の噂を口にし始めた。

「自分で名を選べるんだって」
「罰も懺悔もいらないって」
「仏に祈らなくても、誰かが“聞いてくれる”らしいよ」

都の片隅に生まれた新しい秩序は、
密やかに、だが確実に、広がりはじめていた。



夜。
焚き火を囲んで、透夜が語った。

「“稚児”って言葉は、本来“寺に仕える童子”って意味だった。
でも、俺たちは仕えたくて生きてきたんじゃない」

「これからは、“稚児”を“希望を語る者”の意味に変える」

「“稚児の国”は、もう始まってる。
それは、国土じゃなくて、“想いの連なり”なんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

不沈の艦隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
「国力で劣る我が国が欧米と順当に建艦競争をしても敗北は目に見えている」この発言は日本海軍最大の英雄うと言っても過言ではない山本権兵衛の発言である。これは正鵠を射ており、発言を聞いた東郷平八郎は問うた。「一体どうすればいいのか」と。山本はいとも簡単に返す。「不沈の艦を作れば優位にたてよう」こうして、日本海軍は大艦巨砲主義や航空主兵主義などの派閥の垣根を超え”不沈主義”が建艦姿勢に現れることになる 。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。 現在1945年中盤まで執筆

日露戦争の真実

蔵屋
歴史・時代
 私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。 日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。  日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。  帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。  日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。 ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。  ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。  深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。  この物語の始まりです。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』 この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。 作家 蔵屋日唱

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

大東亜架空戦記

ソータ
歴史・時代
太平洋戦争中、日本に妻を残し、愛する人のために戦う1人の日本軍パイロットとその仲間たちの物語 ⚠️あくまで自己満です⚠️

処理中です...